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    mina

    @mina_bw18

    CPはブレトワ
    20220831〜書きたいままに
    ブレリンの世界にトワリンが来てる
    R18は18歳未満の方は見ないでください

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    mina

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    ブレトワ/旅の終盤/2.14ネタっぽいもの

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    きみがくれたもの


    「あ、トンボのお兄ちゃんだ。こんにちは〜」
    「ん? ああ、こんにちは」
     久しぶりにアッカレ地方へ足を運び、休憩を取るために馬宿へ立ち寄った。
     ここではツヤの姉であるジュンに頼まれ、様々なトンボを集めた。それでトンボのお兄ちゃんになったらしい。オレの隣には狼姿のトワがいるだけなのに、ツヤは周りをきょろきょろしている。
    「どうしたんだ?」
    「きょうはカブト虫のお兄ちゃん、いっしょじゃないの?」
    「カブト虫のお兄ちゃん?」
     思い当たるのは、行商人のテリーだ。大きなカブト虫のリュックを背負っているので、まさにその名が似合う。
     実際にカブト虫を持っていたら、譲ってくれとしつこく聞かれるのでとても面倒くさい。ポーチの奥底に隠しても、めざとく見つけるからどうなっているんだと思う。正直、お兄ちゃんと呼んでいいのか疑問はあるが。
     遠くにここへと向かう姿を見つけたので、あそこにいると教えてあげた。
    「テリーさんじゃない。このまえ、お兄ちゃんといっしょに来てた」
     きっぱりとツヤに否定され、思わず辺りを見回した。本人はまだ遠くにおり、知られずに済んでよかったと大きく息を吐く。聞かれていたら、絶対面倒なことになるだろ。
     テリーを差し置き、カブト虫のお兄ちゃんと呼ばせるやつは誰だよ。オレと一緒だったと言われたが、オレが一緒に旅をするのはひとりしかいない。人の姿か、狼姿かの違いはあるけど。まさかお前のことなのかと、狼姿のトワにゆっくりと目を向けた。
     どうやらトワも心当たりがあるようで、こくこくと大きく頷いている。そういえば前に来た時、トワはツヤと虫の話をしていた気がする。カブト虫の話をしていたのか。
    「きょうはそのお兄ちゃん、用事があって一緒じゃないんだ」
    「そうなんだ。このまえね、ツヤにカブト虫くれたの。きんぴかで、かっこいいのくれたから、おれいしたかったのに」
     本当はすぐそこに居るが、面倒なのでいないことにした。
     トワはよくウオトリー村に行きたがる。行けば夢中になってカブト虫を捕るので、当然オレも付き合わされる。ひとり残ってもつまらないから、そうなるだろ。おまけにガンバリカブトは、音に敏感なのでよく逃げられる。なので捕まえられたら、トワの浮かれっぷりは引くほどすごい。
     あの姿だけ見たら、別の世界を救った勇者とは思えないほどだ。確かに、カブト虫のお兄ちゃんと呼びたくなる。
     嬉しそうに笑う顔は可愛いのに、終始こんな調子だからいい雰囲気にはならない。オレだけが、こっそりとため息を漏らしている。苦労を思うと、少しだけおもしろくない。
    「お礼なら伝えておくよ」
     提案したらツヤは眩しい笑顔を見せて、カブト虫の様子を上機嫌で話し始めた。大事にしているのなら、オレも嬉しい。隣で聞いているトワが、得意げに鼻を鳴らしている。
     この狼はすぐ調子に乗るから、またカブト虫を捕りに行こうと言いそうだ。そうなれば、まあ一緒に行くけど。波の音が静かに響く夜なんて、雰囲気としては最高だろ。恋仲なオレとふたりきりなわけだし、たまには空気を読んでくれよ。
    「お兄ちゃんにコレ、わたしておいて」
    「ああ、渡しておくよ。ありがと」
    「トンボのお兄ちゃんもありがとうなの」
     ふたつ渡された小さな包みには、それぞれトンボとカブト虫の絵が描いてある。中身は姉と一緒に作った焼き菓子だそうで、鼻を近づけたらふわりと甘い匂いがした。トワも尻尾をブンブン振り回して喜んでいる。そういうところを見ると、本当は犬なんじゃないかと思ってしまう。
     包みを潰さないよう、気をつけてポーチにしまい込む。必ず渡すことを約束したら、ツヤは大きく飛び上がった。全身で喜びを表現する可愛さに、小さく微笑んでいた。
    「ツヤー、ご飯にするわよ」
    「はーい」
     大きな返事をしたツヤはもう一度ありがとうと言い、呼ばれた方へ走っていった。
     残されたオレの腹が、思い出したようにうるさく鳴る。そもそも休憩がてら飯を食べるため、この馬宿に寄ったんだ。だからオレたちも、鍋のある場所へ向かった。
     狼姿のトワにはケモノ肉と果物を。焼いた肉がいいと言っていたから、鍋のそばで上ケモノ肉をじっくり焼いた。見ていたらオレも肉が食いたくなったので、ハイラル米を多めに入れてチキンカレーだ。奮発した上トリ肉はうまいし、香辛粉の匂いが食欲をそそる。
     アッカレ地方の赤が映える景色を見ながら、腹に収めていく。この辺りは天気が崩れやすいから、晴れてよかった。
    「あら。きょうはあのお兄さん、一緒じゃないの?」
    「一緒じゃないけど、なにかあった?」
     食事を堪能していたら、ツヤのもうひとりの姉であるカイファが話し掛けてきた。またトワのことを聞かれた。
     あいつは人と馴染むのが早いし、会話能力もやたらと高い。オレの知らないところで、知り合いを増やしている。今度はなにをしたんだ。
    「もうこの馬宿は羊宿でいいですって、ヤケになってたの。そしたらあのお兄さん、羊も世話は大変だから、こんなに育てられるのはすごいと褒めてくれたのよ」
    「そうなんだ……」
    「馬のこともたくさん教えてくれてね、すごく参考になったの」
     抑えきれないといった様子で熱く語るカイファは、最後にはうっとりした表情を浮かべている。おかげでオレのテンションはものすごく下がった。
     聞くだけのオレと違い、整った顔のやつに優しく励まされたら、そりゃあときめくよな。あいつのことだ。単純にいいと思ったから褒めたり、教えたんだろうけど。
     無自覚でやらかすなよ、分かるのはオレくらいだぞ。
    「コレ、お礼に渡してください」
    「……わかった。さっきツヤから預かったのと一緒に渡すよ」
    「ボクのも頼む」
    「えっ?」
    「ボクもそいつには世話になったからな」
     カイファからの包みを受け取ったところで、現れたジュンがそっと差し出してきた。まだいたのかよって、この馬宿の三姉妹全員じゃないか。
     どんな世話をしたのか聞くと、花畑の手入れや肥料運びを手伝ったらしい。親切心からだと分かっていても、細めた目でトワをじっと見やる。マジでなにしてんだよ。人の気を知らずに、呑気に焼きケモノ肉を貪っている。
     受け取った包みは、どちらも焼き菓子だと言う。やけに物を渡されるから、きょうはなにかあるのか。するとお世話になった人に感謝や、想い人に気持ちを伝える日が近々あると教えてくれた。気持ちと一緒に、贈り物をしてもいいらしい。
    「そういう日があるんだ」
    「そうなの。うちの馬宿では、訪れたみなさんに渡しているわ。あ、お兄さんに感謝してるのは本当よ」
     いざという時には非常食になるし、今の時期のサービスとしてやっていると続けられた。
     ついでといった感じなので、トワ宛の物に下心は入ってなさそうだ。自分に向けられる好意は友愛だと思っているトワに、オレはなんの心配もしていない。下手に好意を抱いても無下にされるだけなので、そっちの心配をしただけだ。
    「あなたにも、どうぞ」
    「ああ、ありがとう」
    「早めに食べてくださいね」
     そうして渡されたのは、すでに持っている包みとまったく同じものだった。用が済めばカイファもジュンもすっと離れていったので、すっかり冷めたカレーを掻き込む。食べ終えたオレは、長いため息をひとつ吐き出した。
     想う人に気持ちを伝え、贈り物をする日。オレが知らなかったのだから、トワも知らないだろう。たくさん食べて満足したのか、地面にへたっている姿を頬杖をついて眺める。
     かしこまった贈り物をトワから貰ったことはなく、オレもしたことはない。
     ふざけて買ったものはカウントしたくないし、服は旅を快適にするために必要なものだ。淑女の服も、砂漠の街に入るためだし。
     そしてトワが何気なくオレにくれたものは、食べ物ばかりだ。向こうの世界の大きく育った立派なカボチャや、山羊から作ったバターなど。オレに食べさせたいからと、誇らしげにたくさん抱えて持ってくる。それくらいだ。勇者をしていた時のトワの服は、扱いがよく分からない。獣の臭いはするし、至るところに毛が付いているおさがりだ。
     きっと、オレもトワも薄々勘付いているからだろう。この旅の終わりに起きることは、初めから決まっている。残った記憶も、いつかはオレの中で形を失くしていく。
    「トワに、なあ……」
     ゲルドの街で宝飾屋を再開した、アイシャに聞いた話だ。扱っているアクセサリーはユニセックスなので、贈り物にもよく選ばれていると。確かにここの装飾品はキラキラした見た目がきれいだし、加護まで付いている。
     店の再開を手伝ったこともあり、オレを贔屓にしてくれている。頼めば店先に並んでいないブレスレットやアンクレットなども、加護つきで仕立てると言ってくれた。こっそり聞いたら、トワがしている耳環に似せたものも作れるらしい。
     贈り物として思い付くものはあるが、どうにも気が進まない。向こうの世界に持っていけなかったら、せっかく贈った物がオレの手元に残る。それは、どこか寂しい。
    「結局こういうのが、無難なんだろうけど……」
     片付けずにいた菓子の包みを手にしてぼやく。消え物である食べ物を贈るのは、彼女達と変わらなく感じておもしろくない。
     相変わらずトワはぺたりと地面に伏せ、尻尾をゆらゆらと揺らしている。ぐだぐだと考えているのは、オレだけなんだろう。無性に苛ついたので、菓子の包みを開けてしまう。ほどよい甘さが口に広がるのを、たいして味わうことなく飲み込んでいく。トワへ宛てられた物など関係なく、オレの腹にどんどん収めてやる。
    「わううっ、わうっ!」
    「オレが作るから、トワはそれを食べればいいんだよ」
     気づいたトワがすぐにオレの膝に乗り上げてきたが、無視して最後のひとつを口に放り込む。わざとらしく大きく噛み砕き、ごくりと喉を鳴らしてやった。
     そうしたら途端に覆い被さってきたので、支えきれなくなったオレは椅子から落とされた。不満を表すように低く唸り、頭をぐりぐりと擦り付けてくる。宥めるために抱きしめた身体を撫でていると、もふもふとした触り心地のよさに笑みを浮かべてしまう。
    「ごめんって。あとで代わりのもの作るから、な」
     軽く叩くとオレの上から降りるなり、咥えた服をぐいぐいと引っ張る。早く行くぞと言わんばかりに急かすから、慌てて起き上がり服の汚れを払い落とす。せっかちな狼の頭をひと撫でし、移動のためにシーカーストーンを取り出した。目的地はもちろん、ハテノ村の自宅に近いあの祠だ。
     きょうの予定が変わってしまったけど、仕方がない。画面のワープしますかの問いにはいと答え、この場をあとにした。
    「ブレ、早く作ってくれよ」
     あっという間に着いた祠の影に隠れ、狼だったトワは人へと姿を変えた。戻るなり催促してくるから、ひょっとしてかなり根に持っているのか。それともただ食べたいだけか。
    「そんなに甘いもの好きだったか?」
    「俺がもらったものを、お前が食うからだ」
     不満を伝えてくるトワの声に湿っぽさはなく、オレをからかうように明るい。そんなに望むなら、約束通り作ってやるよ。ただしここから飛び降りてすぐの、よろず屋に寄ってからだ。タバンタ小麦にきび砂糖、ヤギのバターはあるがミルクがない。クレープを作るのに必要なので買い足し、急ぎ足で家へと向かった。
     いつも料理鍋のそばにいる大工だが、最近は姿を見ない日のほうが多い。イチカラ村も大きく発展したから、仕事が増えたのだろう。鍋と家の中を往復するのに邪魔だから、オレとしては好都合だ。
    「それじゃ、中で待ってるわ。よろしくな」
    「ああ、持って行ってやるから座って待ってろ」
    「あ。この前俺が持ってきたカボチャ、まだ残ってるよな。使ってくれよ」
    「わかった、カボチャのケーキな」
     軽くオレの肩を叩き、さらりとリクエストを残して家へと入っていった。
     自慢のカボチャを使ったものを、トワはかなり気に入っている。ひとつがでかいのに数を持ってくるから、主食に飽きて菓子にしたのがきっかけだ。
     今では必ずのように、作らされる。材料を鍋に放り込むだけなのに、お前が作るからいいんだと言って譲らない。
     さて、なにから作るか。イチゴクレープ、いやハチミツたっぷりのクレープも捨てがたい。エッグタルトにアップルパイ。ナッツやニンジンのケーキもいいな。こうなったら、滅多に作らないフルーツケーキを作るのも悪くない。
     浮かべた菓子の姿に、オレまで食べたくなってきた。
    「もう、全部作っちまえ」
     こうなったらトワがもらった量なんて、霞むくらいの菓子を作ってやる。あまり言葉にしないが、オレと一緒にいることに感謝している。もう一人旅は寂しくて、きっと出来ないだろう。特別な想いも下心も持っているから、便乗してみんな混ぜてしまえ。
     そうと決めたら次々と材料を鍋に放り込み、出来たものを運んでいく。所狭しと埋まっていくテーブルの上に、どうにかして全ての皿を乗せる。なかなかすごい光景になった。
    「またずいぶんと作ったな……」
    「トワへのお詫びだからね。あと、オレも一緒に食べようと思って」
    「そうだな、あれくらいじゃ足りないもんな」
     さっき食べた飯の量では、十分なほど腹は膨れていない。なのでオレとトワなら、これくらい食べ切れるはずだ。最後に持ってきたホットミルクに、ハチミツを垂らして渡した。
     ふたり揃って食べ始めたら、トワが最初に取り分けたのはカボチャのケーキだった。思わず手を止め、口へと運んだトワの顔が綻ぶところを逐一眺めた。蕩けたように笑うから、オレの顔までだらしなく崩れてしまう。真似をして同じケーキを選んだが、我ながらうまいと思った。
     どれを口にしてもうまく、緩んだ頬が戻らない。向かいに座るトワも同じなのか、上機嫌でがつがつと食べている。
    「代わりに作ったけど、トワは満足した?」
    「ん? ああ、そうだったな。すっかり忘れてたぜ」
    「忘れてたのかよ。まあ、いいけど」
    「お前が作るものはうまいし、また作ってくれよ」
    「……気が向いたらな」
     あらかた食べ終えたところで聞いてみた。大体こんなに作ったのは、オレが食べた菓子の代わりだ。本来の目的も忘れるほど、喜んでもらえたようでよかった。
     また作るのは構わないが、並べた菓子にはトワへの感謝や想いを隠していた。
    「なあ。トワはオレからの物、受け取ってくれるのか?」
     形ある物の場合はどうなんだろう。オレがどんなに気を揉んだところで、答えはトワしか持っていない。悩むだけムダなので、本人に聞いてしまえ。
    「物ってなんだよ」
    「そうだなあ、身につける物とか」
     分かりやすく自分の耳環を指差し、軽く揺らして見せる。
     するとトワは腕を組み、まっすぐな瞳をオレに向けてきた。じっと見つめられることに喉の渇きを覚え、すっかり冷めたミルクを喉に流す。まさか恋人から贈られて、受け取らないわけがないよな。それに、先輩は後輩に優しくしないと。
    「その時に教えてやるよ」
    「……は?」
    「実際にブレがくれたら、教えてやる」
     にこりと楽しそうな笑顔を向けられ、呆気にとられた。オレは真面目に聞いてるのに、おもしろがってずるい答え方をするな。
     にんまりと笑っているし、今はない尻尾が忙しなく振られている気配を感じる。こんなの、受け取る気があるってことだろ。だったら最初からそう言え。はっきり言って可愛くない。この先輩が可愛いのは、ベッドの中でぐずぐずになってる時だけなんじゃないか。
     可愛くない態度をとられたら、当然オレの気も変わる。色とりどりの菓子を平らげ、上がった気分を台無しにしてくれたのだから。
    「だったらトワも用意しよ。十日後に交換な、忘れんなよ」
    「はあ?」
    「オレもトワから欲しい。優しい先輩は、用意してくれますよね!」
    「……っ、……わかったよ」
     断れない空気をこれでもかと滲ませ、強引によい返事をもぎ取った。例の日がいつかは知らないし、こだわる気もないので適当な日でいい。こうしてトワと交換するきっかけになったから、教えてくれた彼女達にこっそり感謝した。
     その日までトワがどんな風に迷い、なにを選ぶのか。気が早いと言われても、今から約束の日が待ち遠しい。オレも用意するために、近くゲルドに行こうかな。
     思わぬ機会を楽しむためにも、ごちゃごちゃと考えるのはやめた。つまらない不安でふいにするなんて、もったいないじゃないか。この旅が終わったあと、トワがオレにくれた物だけがこの手に残ったとしても。


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