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    里上久路

    亀甲貞宗のことしか考えてない
    かといえばそんなことはないけれど
    亀甲貞宗ばかり描いています
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    里上久路

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    文章できました。救いのない所謂メリーバッドなやつですかね。

    一応、・・れたいの亀甲と審神者ではありますが、(もしもメリバルートだったらこんなかな~?)というアレなので、とくに深く考えずに『メリバ、いけるぜ!』という方はお楽しみください。

    ※本丸襲撃 ※本丸壊滅 ※皆破壊される ※薬研もちょっと出るよ!

    #亀さに
    tortoise-shell
    ##・・れたい亀甲さんと・・たくない審神者

    繰り返す二人の話その本丸は遡行軍による襲撃を受けていた。


    屋敷の玄関付近。外界へ繋がる転移門を兼ねた〈表門〉までの道に遡行軍がひしめく。
    傷だらけの姿で亀甲貞宗は後ろ手に審神者を庇い、それと対峙していた。
    (数が多い。ここを切り抜けご主人様を逃がすために門まで辿り着けるか?守りながら戦うには――)
    「邪魔にならないよう、すみっこにいるね…」
    亀甲が思案しているうちに、審神者はそそくさと後方、屋敷の壁に身を寄せ縮こまる。
    「…そうしてくれると助かるよ」
    とにかく後ろに敵を流さなければいい。亀甲は柄を握り直して遡行軍の群れに踏み込んだ。

    恐ろしいながらも審神者はその様子をうかがう。
    亀甲が、敵を自分に近づけまいと刀を振るう。身を翻して足を払う。突く。遡行軍の唸り声が聞こえるけれど、遠い。
    土埃が舞い、泥が、血しぶきが跳ねる。視界がはっきりしない。遡行軍の向こうで亀甲が膝をついたのが見えた気がした。
    うそ。何か見間違いだと審神者は目をギュッとつむって頭を振った。
    目を開いた時、遡行軍がすぐそこにいた。射られたように動けなくなる。すると、
    「大将!こっちだ!」
    屋敷の、濡れ縁の上に薬研の姿が見えた。
    「薬研!」
    彼が呼ぶまま、泥で汚れた靴で屋敷に上がる。
    審神者はほっとした。薬研が導くほうへ逃げればひとまずは安心だろう。

    まさしく多勢に無勢。不意の隙に囲まれて、そのうちに遡行軍の数体が審神者の方へ向かっていった。
    しまった――、と亀甲が焦燥に駆られるのも束の間。目の前の敵の攻撃が振り下ろされる。
    それをいなし、躱し、その胴を割く。あと何度これを繰り返すのか。そうしている間に審神者は――
    「薬研!」
    彼女の声が聞こえて一瞬目を遣ると、審神者が屋敷の奥へ駆けていく姿が見えた。
    「ご主人様!!」
    追わせまいとしてなのか、攻撃の手を休めない遡行軍。
    ちっ!と、焦りからか普段なら見せないような悪態を亀甲がついた。
    いくらかの打ち合いの中、遡行軍の〈短刀〉が斬りつけざまに彼の左脇をすり抜けようとする。布一枚皮一枚でそれを受けつつ亀甲は〈短刀〉の尻尾をガッと掴んだ。
    『!?』
    すり抜けようとした勢いを生かし、上方に掲げつつぐるんぐるんとぶん回す。回されているほうはされるがまま、もう目が回っている。
    〈短刀〉本体を振り回す全方位攻撃で亀甲を囲んでいた輪が広がった。
    間髪入れず、後ずさった一角にぶん回していたものを投げつけ。たじろいだ隙に抜け出す。
    亀甲は遡行軍を放って、屋敷の奥へ消えた審神者を追った。

    「ここまで来れば大丈夫か…」
    肩で息をして、来た道を振り向く。戦いの喧騒はもう聞こえない。審神者はひどく安心した。
    だが前を向くと今までそこにいた薬研の姿がなかった。一転、不安が押し寄せてくる。
    「…やげん?…薬研!」
    見回しても見回しても荒れた屋敷の姿が目に入るばかりだった。
    それだけならまだよかった。ぎしりぎしりと床材の音を立て、遡行軍が現れたのだ。
    追いつかれた。どうするべきか審神者は逡巡した。ここで逃げてもきっとまた追いつかれるし、他の遡行軍に出くわして囲まれてしまうかもしれない。なら――
    審神者は、足元にあった手ごろな木片を手に取った。それを両手で握り。切っ先を遡行軍〈太刀〉に向けて構えた。
    「せめて、一太刀……」
    刀の主として剣のたしなみもないのか云々言われて、少し手ほどきを受けた程度のものだ。普段稽古もしてない人間が実戦で何とかなるとも思っていない。だが彼女が刀の主として取れる選択はこれしかなかったのだ。
    審神者は遡行軍を見据えた。
    ゆっくりと近づいてくる。太刀を構える。どうする。どうしよう。こわい。動けない。痛いのはいやだ。
    「ご主人様!!」
    遡行軍〈太刀〉の背後に亀甲が見えた。〈太刀〉もそれに気付くが、室内の狭さが仇となりすぐさま切り伏せられる。
    その身体は霧のように消え、後には折れた太刀が残った。
    「亀甲さ…」
    「ご主人様っ!」
    緊張の糸が解けてか、よろけた審神者を亀甲が抱きとめる。しかしすぐ身体を離して、その身に怪我が無いかを確かめた。それから。
    「ご主人様…急にぼくの目の届かないところまで離れられるのは、流石に今は…」
    審神者は俯いて、声を詰まらせながら言う。
    「ごめん…でも、だって、薬研が、こっちだって……」
    「…ご主人様……」
    薬研は、と言いかけて、亀甲は審神者が握りしめているものに目を遣った。
    彼女が木材の破片だと思って手にしたのは、そうではなく、刀の鞘の割れたものだった。あたりにはいくつか刀の破片も散乱していた。
    はっきりとは分からないが、色や長さからしてそれはおそらく――
    「……彼が、守ってくれたんだね」
    そう言うと、嗚咽を漏らして震える審神者の背を、亀甲は優しく宥めた。

    亀甲貞宗は、長らくこの本丸の近侍を務めていた。
    ちょっとアレな所を除けば、人当たりの良さもあって本丸のまとめ役としては適任だったのだろう。
    襲撃が始まった時、亀甲は審神者とは離れた場所にいた。しかし皆が「主を傍で守れ」「近侍なのだから」と口々に言い、亀甲は前線を追われ審神者の元へと走らされた。普段審神者のことに関しては確執のある面々にもだ。本音は彼ら自らが主の元に駆けつけたい筈だろうに、主を守るためとして亀甲もまた守られたのだ。

    表に置いてきた遡行軍の気配が近づく。
    その身を賭して自分たちを生かしてくれた彼らの行為を無下にする訳にはいかない。亀甲は再び柄を握り直した。


    それから――救援ののち、かの本丸の世界は閉じられ、放棄された。膨大な数の刀剣たちが無残に折り重なったまま。
    襲撃は一点集中のものだった。
    数多ある本丸への手広く無差別的な攻撃ではない。脅威となりえる拠点への、圧倒的な数による計画的な襲撃。
    百を超える数の、それもよくよく鍛えられた刀たちが。地の利もあるのに関わらず、分断され孤立させられ、一振、また一振と折られていった。数の暴力の前には、個々の強さなど何の意味も成さなかったのだ。
    それでも。一振ひとふりがそれぞれ殿として、敵を足止めし、腕を失くし脚を失くしてもできうる限り道連れにした。それぞれがそれぞれを、そして審神者を生かすために身を賭した。
    結果的にこの襲撃は失敗した。審神者が生き残ったからだ。

    あの惨状から逃れた審神者は、今は政府の療養施設に収容されていた。襲撃による心身の傷を癒し、経過を観察するためだった。
    そして刀剣のうちただ一振残った亀甲貞宗も、審神者の心の安定のためとして顕現を解かれずに、世話役も兼ねて彼女のそばに置かれた。

    「おはよう、ご主人様」
    朝食を運んできた亀甲が、窓際に置かれた小さな鉢に水を遣る審神者に声をかける。かけられた声の方に振り向いて、おはよう、と彼女も笑顔を返す。
    施設に収容されていると言っても、寝たきりという訳ではなかった。こうして植物や、施設で飼われている動物などの世話をしたり。本を読んだり映画を観たり。施設内の庭を歩いたり、と割と自由に過ごしていた。たまに、歩き疲れた審神者が「座りたい」と言うので亀甲が「ぼくを椅子に!」と言って審神者にしばかれる、というしょうもないいつものくだりをやって笑いあうこともあった。
    亀甲は、この穏やかな時間がいつまでも続けばいいのにと、思わずにはいられなかった。

    こうして数日から数カ月過ごしたのち、審神者の心身に問題がないと判断されたら、彼女はいよいよ審神者として復帰する。
    審神者であった頃の記憶を抹消されて。また新しい本丸を与えられて、改めて審神者としての一歩を踏み出すのだ。


    神と契りを結んだ人の子は不老を得る、そんな眉唾な話を耳にしたのは彼女が審神者になってから20年ほど経ってのことだっただろうか。
    三十路手前だった審神者は人並みに体型などは気にする女性だが、数字については無頓着だった。体重しかり年齢しかり。日々の忙しさに追われ、就任周年も言われて気が付く人だ。そして周りにいるのも老いることのない刀剣たち。もちろん彼女に20代から40代にかけての老いの経験など、当然ながら無い。それで気が付いたのが久々に両親と顔を合わせた時だった。前帰って来た時と変わらないわね、と。

    彼女が不老であることは、こんのすけを通じて政府に伝わった。
    それから間もなくして本丸が襲撃され、壊滅した。


    (…彼女の不老を知った一振目のぼくは、何を思ったんだろうか。…当人は?)
    ずっとそばにいられることを喜んだ?終わりが来ないことに憂いた?愛しい人と過ごした夜を後悔した?
    だがそれを問うたとて答えられる筈もない。彼女には当時の記憶がないし、自分の一振目はすでにいないのだから。
    審神者が審神者だった時の記憶を消され、新しい本丸を与えられる時に、ここにいる亀甲貞宗も刀解される。
    そしてまた新しい本丸で、また新しい亀甲貞宗が顕現する。同一刀剣だからといって経験が共有される訳はない。のだが、何故か本丸外で過ごした最後の、この療養施設での記憶だけはずっと残っていた。何度顕現しても、本丸を守れなかった自責の念と喪失感がいつも頭の隅にあった。
    もはや自分が、審神者にとって何振目の亀甲貞宗なのか、分からなくなっていた。
    一振目の自分が何を思っていたのかも本当はどうだっていい。
    何度繰り返してもその度に自分を傍に置いてくれる。今の自分はもう、このひとに審神者を辞めて欲しいとすら思っているのだから。
    だが、刀剣育成、本丸運営の手腕がある不老の審神者。戦況も芳しくない中、時の政府がこの便利な駒を利用しない訳がなかった。
    けれど、どれだけ強固な本丸になったとしても結局は大規模な襲撃を受け壊滅する。ずっとずっとこの繰り返しだった。
    変わらない、修正できない事実だった。
    ただこれは審神者本人も承知してのことだった。不老の彼女に現世での居場所はもうない。
    だから彼女は言うのだ、記憶を消される前に。
    「もう私にはほかに何もないから」
    「こうするしかないから」
    「顕現したら、私は忘れてるけど、また私のそばにいてね。絶対ね!」
    そう言って涙ぐむ。だから、彼女の望む通りにしたいとも、亀甲は思うのだ。


    ――季節が一巡りして、本丸運営にも慣れてきた頃。新任だった審神者は、近侍の薬研藤四郎とともに新しく顕現する刀を迎えに来たところだった。
    桜が舞い散る中、その姿に目を奪われる。ほら挨拶、と見惚れてぼーっとしていた彼女を薬研が小突いた。

    「あっ、は、はじめまして!私がこの本丸の審神者ですっ、主になりますっ!よ、よろしく」
    「はじめまして、ご主人様…。ぼくは亀甲貞宗。名前の由来は……ふふ、ご想像にお任せしようか?」

    何度繰り返したかわからない妙な初めましての挨拶からまた、亀甲と審神者の日々が始まる――
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