寒い/飴/読書 ぽつぽつと朝から降り出した雨は予報によれば今日一日中降るらしい。どんよりとした暗い空から降る雨は冬のそれらしくとても冷たい。もう少し気温が下がれば雪になっていたかもしれないな、などと考えてぼんやり窓の外を眺めていると「なァ」と下から呼びかけられた。
「なに、グルス」
膝枕の上ですーすー寝息を立てていたはずのグルスがぱっちり目を覚ましてこちらを見上げていた。
「その本まだよみおわらないのか」
「ようやく半分まで来たところ」
彼と久しぶりに被った休みだというのにあいにくのこの雨で今日は家デートをすることなっていた。家デートと言ってはみたもののやることもなく私は最近すっかりご無沙汰になっていた読書を、グルスは前日まで任務だった疲れがあるのか膝枕を私に要求してそれきり静かな時間を過ごしていた。
「かまってほしくなっちゃった?」
「おう」
冗談半分に言ったつもりがこうもあっさり肯定されるとは。
「どうしてほしいのかなグルス君は?」
言ってごらんと子供をあやすような口調で尋ねれば彼はしかし満面の笑みで「構ってくれるんだな!」と身を起こした。飴を前にしたかのように浮かれるグルスの頭にいつものキャップがあったら今頃ぴこぴこつばが揺れていたかもしれない。今日はオフでしかも家に二人きりなのでふわふわの若葉みたいな髪が揺れているのが見えている。
「今日はすこし寒いだろ。だからもっとくっつきたい」
職場ではあんなに賢く動ける王子なのに、恋人となると途端にあの直球な物言いが発揮されるせいなのか時々バカっぽいくらい素直に甘えてくる。それが恥ずかしいような嬉しいような。
長い腕を広げたグルスが早くとでも言いたげにこちらを見てくる。私は彼のそういうところに心底弱くて結局彼の思うままに動いてしまうのだからやっぱりグルスは賢いのかもしれない。
「グルスあれ着て来ればよかったのに。いつものもこもこコート」
「……あんたあれ結構気に入ってるよな」
ちょっと意地悪を言ってやると自分のコート相手に真剣に微妙な面持ちをする彼がおかしくって私は彼の腕の中で微笑んだ。