月の下で踊ろう 「エネルさま」
呼びかければどこからともなく稲妻が駆けてきて目の前に姿を現す。
「なんだ、今日はもう呼ばないつもりかと思ったぞ」
彼と恋仲になったその日からいつのまにか日課になっていたのは彼を呼びつけることだった。はじめこそ不敬にあたるのではと躊躇っていたけれどお前が呼ばないなら我は一生お前の前に現れてやらぬからなと脅しのような、いじけ文句のような台詞を吐かれてしまい今に至る。
「そんなことあるわけないじゃないですか」
どうせわかっているくせに。エネル様は時たまこう子供っぽいところを見せる。そんなところを可愛いと思ってしまうのだけれど、彼はそれが不服らしい。今もほら少しむっとした表情でこちらを見つめてくる。
「……言いたいことがあるのなら言えばいい」
「別に、ありませんよ」
「うそだ。またなにか不敬なことを考えていただろう」
「一種の愛情表現だと思ってくださいまし」
そういってやると口をへの字に曲げていかにもな表情をして見せてくる。私の方から欲しがるようにと毎日呼びつけさせるほど寂しがりですぐに拗ねてそれを顔に出す。そんな恋人を可愛いと思わない方法があるならぜひ教えてほしいくらいだ。
「そうだな。まったくおまえはかわいい我がすきなのだろう?」
「それはちょっと違います」
「どう違う」
「私はエネルさまが好きだから可愛いと思ってしまうんですよ」
懇切丁寧に言ったつもりだがこれは神には理解しがたい感情らしい。小首をかしげる様子がまた可愛らしいのだけれど。
「まぁ好いているのならそれでよしとしようじゃないか」
やれやれと溜息をついてなにか妥協してくれたらしい。この神さまは私に心底甘いことを私だけが知っている。この上なく甘い瞳で私を見つめてお前が言うならそれでよいといってくださる。彼は私に多くを許す。彼の愛情表現はきっとこの数々の許しがそうなのだろうと私もまた彼の愛情をゆるやかに毎日享受するのだった。