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    モブ目線というか一生モブが話してる。
    大学に入って爆モテ柳沢と付き合ってる淳くん。そこまで要素ないけどヤナキサ。
    早く口調を掴みたいです。よろしくお願いします。

     うちの大学にはちょっとした有名人がいる。
    医学部医学科にいる柳沢くん。特徴的な髪型と語尾。だーねなんて言ってたら変わった人扱いされそうなのに、柳沢くんは人気者だった。誰にでも明るく話て、周りにもよく目を配っている。それに、自分の学力とかを鼻にかけたりしない所がいいのだと友人が言っていた。そう言われると確かに、と納得した覚えがある。
    入学した頃に「面白いやつがいる」なんて言われて噂になっていたけど、今は「医学部イチモテる柳沢」として有名人になっていた。
    柳沢くんはモテる。うちは複数の学部学科がある総合大学で、まあ、将来の医者を狙っている子も多かった。その前提があるにしてもモテる。怖いぐらいに。
    あひるに似て可愛らしい顔をしているし、健康的に焼けた肌や今までテニスに打ち込んでいたらしい細身ながらしっかりと整った身体。玉の輿を狙ってなくたってモテる。
    そうして狙いを定めた女の子たちは我先にと柳沢くんと関わりを持って、告白した。でも全員玉砕。誰ならOKされるのか。
    自分だったらOKされるかもと可愛い子が告白してもダメ。同じサークルの子も、もうみんなフラれた。

     何かのチームが組めるようになるんじゃないかって思うぐらいの人数がフラれた時。柳沢くんの好きなタイプはいつも笑っている子らしいという話が流れた。
    え?それだけ?多分その話を聞いた全員の頭に浮かんだであろう感想だった。何かめちゃくちゃ高いハードルがあるわけじゃなくて、いつも笑ってる子。
    笑顔が可愛い子だったらダメだけど、いつも笑ってる子なら別にそんなハードルは高くない、はず。でも誰もOKをあげない柳沢くんにどんどん謎が深まっていった。次流れる噂は「柳沢にはもう彼女がいる」だったりして。

     その日は「今日は天気いいから外でお昼食べよう」って友人たちの提案で、外のベンチでお昼ご飯を食べていた。
    話題は柳沢くんについて。みんなよく飽きないなあ。こうかも、いやそうじゃないと話ている。
    「柳沢くんってもう彼女いるんじゃない?」
    ふと思ったことを言ってみれば
    「彼女はいないってフラれた子が言ってた!」
    友人が声を大きくしながら否定する。スクープを見つけた記者みたいだ。柳沢くんの彼女を見た人がいれば確かにスクープかもしれないけれど。でもいないらしいし。全てらしい、とか憶測の範囲を出ない話。何でこんな話してるんだろ?
    「えー、じゃあ柳沢くんがたまに持ってきてるお弁当は?」
    「どうせお母さんじゃないの?」
    「一人暮って前言ってなかった?」
    「料理もできるの?やば」
    黙々とサンドイッチを食べていれば「あんたはどう思う?」と友達からの目線と言葉。
    「私柳沢くんじゃないから知らないよ」
    サンドイッチの最後の一口を食べる。手を払っていたら目の前に急に影が出来て顔を上げた。
    「あの、ごめんなさい。医学部の棟ってどこか教えて貰ってもいいですか?」
    目の前に立っていたのは涼しげな目をした男の子だった。さらりとした黒髪に光が反射して綺麗な天使の輪を作っている。口元は一応笑っているけど、どこか緊張した様子だ。場所を訊いてくるぐらいだ、きっと外部の人なんだろう。
    「あー、あっちです。ここを真っ直ぐ行って、右に曲がるとすぐある大きい建物」
    「ありがとうございます」
    「いえ」
    その子がぺこっと頭を下げて行こうとした瞬間。さっき教えた方向から「あつしーー!!!」って大きな声。こちらに向かって走ってくる人に目を凝らせば柳沢くんだった。
    さっきまで好き勝手話していた柳沢くんが現れて、友人たちは何とも言えない顔をしている。確かに、少し気まずい。
    私は私でこの子は柳沢くんの知り合いだったのかと少し驚いていた。何か見た目からして真逆そうだし。ふうん、と目の前に立ったままの男の子を見た。
    「あ、柳沢」
    「あ、じゃないだーね!コンビニで待ってろって言ったのに!」
    「一人で行けたら面白いかなと思って」
    「それで迷子になったら意味ないだーね!電話にも出ないし。心配しただーね」
    「充電切れちゃったんだ」
    「淳……」
    呆れを滲ませた柳沢くんの声が少し面白かった。
    真逆そうだし、なんて思っていたけど二人の会話はぽんぽんとテンポ良く続いていく。そんな柳沢くんを見て、友人たちは声には出してないけど「まじ?」みたいな顔をしている。
    「それに、この人に場所訊いたところだったし」 
    「あ?ああ。淳が迷惑かけただーね」
    急に振られた会話に「ど、どうも……」なんてよくわからない返事をしてしまう。急に話しかけないで欲しいかった。明るくもない人間に臨機応変さはないの。
    「そういえば淳何しに来たんだーね?」
    「柳沢お弁当忘れたでしょ」
    そう言ったその子の手には青色の風呂敷で包まれたお弁当が握られている。
    「忘れたことすら忘れてただーね……」
    「そうだと思ったから届けに来たんだよ。近くまで来たしついでにね」
    お弁当を渡したその子は「じゃあ午後も頑張って」とさっさと帰ろうとする。
    「淳のお弁当食べて午後も頑張るだーね」
    「うん、頑張って。じゃあ」
    柳沢くんの言葉を聞いたあつしくんがクスクスと嬉しそうに笑った。二人の間に何とも言えない優しげな空気が流れて、私たちは完全に蚊帳の外だ。何?
    帰ろうと踵を返したあつしくんが、もう一度私に向かってぺこりとお辞儀した。私も同じようにお辞儀する。
    数歩進んでから、あつしくんが急に立ち止まった。
    「そういえば今日の当番僕だから、夜ご飯何か食べたいのあったらLINEしといて」
    「わかった、って充電切れてるってさっき言ってただーね」
    「あー、そうだった。まあ、夕方までにはどうにかするから」
    「ん。気をつけて帰れよー」
    「うん」
    これで会話は本当に終わりで、そのままあつしくんはスタスタと来たであろう道を帰っていった。
    え?夜ご飯二人で食べるの?とかあつしくんが作るの?と私たちの頭にはきっと同じ疑問がぽんぽこ浮かんでいるだろう。でも質問できるほど私たちは柳沢くんと仲良くもなければ、友人でもない。困った。
    「迷惑かけただーね」
    もう一度そう言って柳沢くんも医学部棟へと帰っていった。

    「あの子何?誰?」
    「知らないよ」
    「お弁当も届けてくれて、夜ご飯も一緒?」
    自由になった私たちの口からはどんどん疑問が溢れていく。誰か説明して!と思っても、説明してくれる人は誰もいない。
    うんうんと唸っていればふと思い出した。手作りのお弁当と、さっき話ていた「彼女はいない」って言葉。うっすら線が繋がっていくけど、いや、これは憶測でしかない。でもさっきから話してるのは全部憶測だし。もう何でもいいか。そう思って思ったことを口にした。
    「ねえ、柳沢くん彼女はいないって」
    何当たり前のこと言ってんのという顔をしてから、友人たちも納得の表情をする。
    「あー彼女”は”……ね。なるほどね?ふうん。いやあ、いい躱し方だわ」
    「あっ。あーーーーーなるほど…」
    「いるって言っても、次は誰なんだって話になるもんねえ」
    「モテるって大変だわ」
    「さっきまで散々話してた人がよく言うよ」
    「確かに」

    医学部イチモテる柳沢くんは彼女はいないけれど、恋人はいるらしい。
    きっとあつしくんはいつも笑っている子なんだろうなあ。
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