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    red_ut_fj

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    red_ut_fj

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    pixivも危うそうなので、念の為の移行です。

    シャンウタ転生パロ 第一話 落花 さぁ、幕が上がる。スポットライトで照らされたステージが、私を待ってる。傍らには、これから舞台に立つ私よりも緊張した面持ちの、最愛の人。
     行ってきます、と告げ、一歩足を踏み出す。

     左手の薬指が、キラリと光った。

     ◇

     困ってる人は放っておけないこの性格、直した方がいいのだろうか。
    「降りられない……」
     風船が木にひっかかるというベタなシチュエーションに遭遇し、少年の笑顔は取り戻したものの、自身が降りられなくなるという、これまたベタなシチュエーション。あれから十分ほど経ったが、人っ子ひとり通らない。それもそのはず、今日は平日で、ここは昼間の住宅街だ。
     もう、自力で降りるしかないか。この誰もいない状況をポジティブに捉えよう。たとえみっともない降り方をしたとしても、誰にも見られる心配がない。
    「これでよし、と」
     ロングスカートをたくし上げ、いざゆかん、と今いるところよりも細めの枝に足をかける。トントンと足踏みをして、折れないのを確認すると、そちらに体重をかける。
     よし、乗り移れた。この調子、と一息ついて、下方を確認すると、ばっちり目が合った。誰と? そんなの決まっている、降り始めた途端、どこからか現れた通行人Aだ。
    「げっ、え、あっ」
     人に見られたと焦ったのがいけなかったのだろう、ずるりと足がすべり、びっくりして手も離してしまった。
    「わああああああっ!!!!」
     いやに落ちるのがゆっくりだった。いや、本当は数秒にも満たなかったのであろうが、走馬灯が、見えた。
    「うっっいったぁ───く、ない?」
    「ったく、何してんだあ? お嬢さん」
     どうやら通行人Aが全身を使って受け止めてくれたようだ。右腕を膝の裏に入れ、左肩でウタの背中を支えている。
    「───聞いてるか?」
    「はっ」
     状況を冷静に分析するあまり、逆にぼーっしていた。そしてその間、ずっとAの顔面を見上げてしまっていた。
    「え、と、ありがとう、ございます」
    「おう、気をつけろよ」
     ウタはストンと着地する。急いで上の方で結んでいたスカートを解き、シワを伸ばす。チラっとAに視線をやると、こちらを見ないようにしてくれていた。なんだ、紳士じゃないか。
    「それじゃ、お転婆もほどほどにしろよ」
     俺は用があるんでな、と、Aはその場を離れる。Aはスーツを着ていて、これから用があるということらしい。それはつまり────どうしよう、汚してしまったかもしれない。
    「あーもう、はあぁ────帰ろ」
     こちとら家の周りをぐるりと一周する程度の散歩のつもりだったのだ、今更追いかけたところで手持ちは何もない、弁償なんて以ての外だ。いつかまた会ったときにでも礼をすればいい。あの赤髪と隻腕、そうそう忘れることはない。

     ◇

    「──ただい、むぁっ?!」
    「おや、おかえりウタ。今お客さんが来ているから、静かにね」
     玄関扉を開けた先には、養父のゴードンと、さっき会った──
    「通行人A!?」
    「……はあ?」
    「あ、失礼、ええと、いらっしゃいませ?」
     つい、心の声が出てしまった。
    「ご、ごゆっくりぃ」
     二人の訝しげな視線から逃れるように、玄関ホールにある階段をのぼる。階下では聞こえよがしな会話がなされていた。
    「すまないな、うちの娘が」「いやいや、こっちもこんな格好で」「おや、何かあったのかい?」「まぁちょっと、お転婆娘に遭遇して」「──なるほど?」
     養父ゴードンからの視線が痛い。駆け足で階段をあがりきると、逃げるように自室に入った。

     ◇

    「ウタ、お父様がお呼びですよ」
    「あ、はーい、今行きまーす」
     ひとまず汚れた服を脱ぎ、このまま違う服を着るかお風呂に入るか悩んでいると、部屋の外から、義母に声をかけられた。
     着替えるか、とクローゼットに向かう。そして、白いワンピースを取り出し素早く身に纏う。リボンやフリルが付随していて、これ一つで人前に出てもそこまで問題のないデザインのものだ。ドレッサーの前で髪を少し整え、部屋を出る。

     義母に導かれるまま、応接間へと足を踏み入れた。
    「こんにちは」
     二人がけのソファが向かい合い、中央にローテーブルのある、一般的な応接間。入り口の対角線上に座っていた通行人Aはウタの姿を見るなり立ち上がった。
    「こんにちは。改めまして、【ロジャー海運会社】より来ました、フィガーランド・シャンクスです」
     社会人だ、と思った。いや、スーツを着ているのだし、仕事なのであろうが、外で会ったときとは大分印象が違う。
    「先程は大変ご迷惑を……」
    「いえいえ、お気になさらず」
     深々と頭をさげるウタに快活に笑うシャンクス。気にしてない、というより、面白がっているような気がする。そしてウタは隣のゴードンに目を合わせられない。
     はぁ、と何事かをやらかした娘に小さく嘆息したゴードンは、シャンクスに座るよう促し、自身もソファに腰かけた。
    「すまないが、先程の説明を今一度ウタにしてくれないか?」
    「あぁ」
     さっきとは打って変わって砕けた口調になるシャンクス。ゴードンとの様子を見るに、元々の知り合いか何かだろうか?
    「実はうちの会社、【ロジャー海運会社】は貨物運搬だけでなく、クルーズもやっているんだ。そんで今度新しく豪華客船を拵えることになってな、余興として専属の演劇団かオーケストラか何かを作ろうという計画がある。で、どうだ? うちの歌姫になっちゃくれないか」
    「──は?」
     客相手なのについ、そんな声が出てしまった。否、ちゃんと話は聞いていたのだが、理解が追いつかない。
    「え、なんで私? ……なん、ですか」
     向こうが敬語でないならこちらも砕けていいのかもしれないが、見たところ年上だからな、一応敬語の方がいいだろう、と考える頭の容量は、混乱してもあるらしい。
    「んーそりゃあ将来有望な音楽学校の生徒がいたら、早いうち唾をつけときたくて? もしかしたらうち以外にももう声かけられてるかもしれねぇし、出遅れているような気もするけどな」
     出遅れるも何も、今の今まで就職のことなど考えたことがなかったし、特にどこからか勧誘が来たという話は聞かない。それに、確かに声楽科では首席だが、わ、私でいいのか──?
    「ああ、もちろん。でなきゃわざわざ家に押しかけてまで交渉しねぇよ」
     声に出てたらしい。
    「そ、う、ですか」
    「ま、返事は急がなくていい。こっちの話も最近実現が見てきたってだけで、あんたが卒業するくらいまでの時間はある」
    「あー、じゃあ、とりあえず、保留ってことで、いいですか」
    「おう」
     おずおずと顔色を伺ったのを、少々後悔した。なんだあの目は。ヒクリと引きつった笑みになってしまったかもしれない。
    「では話はこれで終わりでいいかね。よかったらうちで夕飯でも食べていかないか、シャンクス」
     黙って見守っていたゴードンが口を開く。
    「あーっと、そうだな、んー、最後にちょっとだけいいか? この、書類にサインがほしい」
     スっと傍らのカバンから取り出した一枚の羊皮紙には、長々と契約書のような文章が書かれていた。
    「えっと、これは?」
    「まー要するに、他のとこに声かけられてもこっちを優先してほしい、みたいなアレだな。保留ってんだし無理にとは言わねぇよ。ただ、ちゃんと書面に残さねぇと会社のやつらがうるせぇからよ」
    「えー……どうしよう、お義父様」
     絶対に書かないといけないっていうのではないのだったら書かないでおきたいのだが、と、ゴードンに助けを求める。
    「そうだな──保留というくらいだからこちらから破棄しても構わないのだろうね」
    「ああ」
    「なら、書いておいてもいいんじゃないか?ここまで譲歩されているのなら、仮契約くらいしておいても問題ないだろう」
     大人になるステップのひとつだ、とゴードンは言う。
    「それなら、わかりました」
     差し出された羽ペンで自らの名前を書く。初めてのことだから、ちょっと緊張して文字が歪んでしまったが、まぁバレないだろう。
    「ふ」
     紙を確認したシャンクスが目を細める。
    「確かに。──で、飯だったか? そっちがいいなら、お言葉に甘えて、いただこうか」
    「承知した。すぐ一人分追加するよう伝えてくるよ」
     相手は頼んだよ、と、去り際にゴードンに言われたが、初対面でだいぶ無様な姿を見せている相手だ、気まずいことこの上ない。
    「……………………」
    「……………………」
     ほら、この、沈黙!
     仮にも客である、退屈させては、と、口を開きかけたウタだったが──
    「なぁ」
    「は、はい!」
     それより先に、シャンクスの方から会話をきりだしてくれた。
    「ウタ──って呼んでもいいか?」
    「え、うん、どうぞ?」
    「そうか、ありがとう。おれのことはシャンクスでいい。気軽に接してくれ」
    「わかった」
     ありがとう、とまた礼を言われた。そんな感謝することでもないと思うが──ん? 礼? 感謝?
    「はっっ」
    「ん?」
    「さ、先程はっ、大変な御無礼を!!」
     思わず立ち上がったウタに、シャンクスはやや面食らう。
    「さっきも言ったが、別にあれくらいどうってことねぇよ。それより、お前に怪我がなくてよかった」

     ──不思議な人だと思う。初対面なのにそんな感じがしない。というか、私に向けてくる眼差しが初対面の人のそれじゃない。私を逃してなるものか、と獲物を狙う猛禽類の目をしたかと思えば、慈愛に満ちた[[rb:表情>かお]]をする。
    「そう──? 汚してたりしたら悪いなと思ってたんだけど」
    「はは、あんなのは汚れたうちに入らねぇよ」
    「よかった」
     体格がしっかりしている分、黙しているとやや威圧感があるが、その実、おおらかな人格のようだ。少し話しただけで彼の職場は雰囲気がいいのだろうと伝わってくる。

    「ウタ、せっかくだ、シャンクスの前で一曲披露してはどうかね」
     この調子なら会話を続けられるかも、というところで後ろからゴードンに声をかけられた。いつの間に戻っていたのだろう。
    「え、うん」
    「ほう、いいのか」
     目を輝かせるシャンクス。もしかしたら、私を推薦しようと考えたのはこの人なのかもしれない。
    「そもそもは勧誘する前に聴かせるものだと思うが……」
    「はは、何度もウタの歌を聴いた上で話しに来てんだ。誰が何と言おうと、おれはウタがいいよ」
     ま、うちの社員も誰一人反対しなかったけどな、とシャンクス。なんだ、やっぱりファンだったのか。
    「では向こうのピアノのある部屋へ行こう。伴奏は私がする」
     そうして、ゴードンの先導によって三人で廊下を進む。ゴードンの意向で廊下には家族写真が飾ってあるのだが、幼い頃のものもあり、チラチラとシャンクスがそれを見ているのが気になる。恥ずかしいからあんまり見ないでほしい。
    「おれ一人のためにそんな大層なコンサートを開いてもらえるなんて、あいつらが知ったらドヤされるな」
     あいつら、が誰を指すのかわからないが、シャンクス以外にも私を好いてくれている人が彼の周りにいるようだ。
    「それなら今度社員の皆も連れてくるといい」
     さらっと言うゴードン。演奏室の扉を開ける。窓から光が差していて、部屋は電気をつけずとも明るい。
    「ちょっと、何勝手に決めようとしてるの。その前に私の許可がいるんじやないのー?」
     別に構わないけれど。本人を置いて勝手に話を進めないで欲しい。
    「あ、ああ、すまない。つい、な」
     うっかり失念していたというようなゴードンの態度に、苦笑いを返すしかない。ウタの才能を信じて誰よりもウタとウタの歌に向き合ってくれた養父。あれだろうか、同じものが好きだとすぐ意気投合して熱くなるファン気質というものか。
    「いいよ、別に。ところでシャンクス、それだけ言うってことは、何か一曲くらい、私の歌の中で好きなもの、あるんじゃないの? 特別にそれを歌ってあげるよ」
    「本当か! そうか、どうしよう、お前の歌うものはどれも好きなんだ、迷うな」
     目に見えてはしゃいでいるのがわかる。こうも面と向かって大人に熱烈に好意を伝えられるのは、慣れないな。少々気恥しい。
    「そうだな、じゃあ、あれを歌ってもらおうか、あの曲を────」
     シャンクスはそう言うと、どこか昔を懐かしむような顔をする。その横顔は、同時に、若干の寂しさも纏っていた。
    「え、あれ? ふぅん、なんか、変わったチョイスだね」
     その曲をはたしてゴードンが弾けるのだろうか、とグランドピアノの蓋をあけるゴードンに視線を向けると、力強く頷かれた。
    「そうか?」
     眉を上げるシャンクスを壁際の椅子に導くと、ウタはピアノの前に立つ。
    「ま、いいよ。

    それじゃあ、聞いてください────」























     シャンクスが頼んだのは、いつかどこかの時代と世界で、海に生きる人々によって受け継がれた──────────────海賊の歌。

    「そうだ、今度学校主催のコンサートがあるの。招待客しか来れない小型のやつなんだけど……よかったら、来ない?」



    ───────────第二話「天花」に続く
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