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    red_ut_fj

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    シャンウタ転生パロ 第十話 結花『決まってるでしょ。今のウタと前のウタは違う。今の私を見てくれないなら、結婚したって意味ないからだよ』
     ウタの言葉を反芻する。自分は今のウタを見ていなかったのか。今のウタに、前のウタを重ねていたのか。そうかもしれない。だが、それでもシャンクスは──

     ◇

    「聞いてくれよォ、ミホークぅ」
    「気色悪い声をだすな。なんだ」
     シャンクスはミホークを相談相手もとい飲み相手に選んでいた。ベックでもいいがベックはプレイボーイすぎて、一人の女にこだわるシャンクスには逆に相談相手となりにくい。
    「かくかくしかじかでさぁ……歳下の女を落とすにはどうしたらいいんだ?」
    「そうだな──おれはまず外堀から埋めていった」
     ワイングラスを掲げるミホーク。くるりと液体が縁を回った。
    「ほう」
    「基本的に貴様と同じようなことをした。娘の親に話をとりつけてな」
    「その後は」
     聞きたいのは、親の諒解を得た後だ。シャンクスはそこで上手くいかなかった。
    「囲った」
    「は?」
    「誘拐した」
    「はぁ??」
    「昔の約束だったし、モリアは素直に引き渡してはくれないだろうと、ペローナを自分の屋敷に連れ去った」
    「おま……」
     ドン引きのシャンクス。確かに急に嫁と住むことになったと報告があったときは驚いたが、もっと衝撃的なことをミホークはやっていたのか。
    「で、娘を懐柔して、娘の方からおれとなら結婚してもいいと親へ言わせた」
    「うへぇ……」
    「なんだ、の貴様だったらこのくらいしていただろう。変わったな」
     表情一つ変えないミホークは、本気で己の行いを当然と思っているのだろう。
     確かに、前世は海賊だった。ウタがもし、あの後も生きられたなら問答無用で囲っていたかもしれないが、今は立場も環境も違う。正攻法でいきたいのに、参考にならない。
    「でも今のところ頼れるのこいつだけなんだよなぁ」
    「声に出ている。他をあたるんだな。良い酒だった」
     グビッと残っていたワインを飲み干したミホークは、そのまま席を立った。シャンクスは、椅子にかけていたコートを掴むミホークの腕を掴む。
    「待て待て待て待て、何もお前の経験談だけを聞きに呼んだわけじゃない」
     頼むよー待ってくれよーと情けない顔をしつつも、手の力は緩めないシャンクスに、ミホークが折れた。
    「いくら飲んでもいいのだな」
    「どーぞ」
     注文し直すミホークが頼む酒の値段を考えないようにした。遠慮を知らないのか。まぁいい。
    「それでだな、お前のとこの娘とウタって仲良しだろ、だから……」

     精悍な二人がグラス片手に語り合うのが、恋愛話と誰が思う。男たちの夜は長い。三日月がにんまり笑って見下ろしている。
    「え? 断ったのか?」
     ココアの入った白いマグカップから口を離したペローナは、ただでさえ丸い目をいつも以上に丸くしている。
    「うん」
     予想通りの反応に、つい苦笑いしてしまうウタ。散々親(主に養父)に驚かれ、騒がれた(主に養母)後だ、自分の選択がどれだけのものか、察しがついている。しかし、ウタとしては──
    「ま、お前がそれでいいなら私が気にすることでもないが──理由は気になるな。なんで断ったんだ?」
     初めて最初に肯定的な言葉をくれた。予想通り、というか計算通り、だが、彼女にだけは話してよかった。
    「え、だって、そりゃ、今の私を見てくれないなら、たとえ結婚したとしても、虚しいだけでしょ」
     シャンクスは、前世のウタを今のウタに投影しているのだろう。互いに好きあっているのなら、微妙なすれ違いはきっと後々大きくなる。
    「ふーん、ん? それ、ただの嫉妬じゃないか」
    「え?」
    「いやだからつまり、過去? 前世? の自分に、ウタに嫉妬してるから、そういう結論になるんじゃねぇのか?」
    「え……」
     愕然とする。嫉妬という言葉が驚くほどストンと腑に落ちた。意識し始めると、これまでの自分の行動が、単に拗ねていた子どものように思えてきて、恥ずかしい。
    「……もし、これからは今のお前を見るから、もう一度考えてくれって向こうが言ってきたら、ウタはどうするんだ」
    「……ありえないよ」
    「もしも、だ」
    「そうだね……それならいいって言っちゃうかも」
     チラリと視界に入れたペローナは、口を尖らせて頬杖をついている。
    「ウタさぁ……」
    「はいはい、もうこの話は終わり! 初恋は実らなかった! 以上!」
     ウタは両手をぶんぶん虚空にふって、浮かんでいた話をかき消した。
     もう今更なんだ。ウタとて恥や体裁がある。ただでさえウタのせいでごちゃごちゃになった話をわざわざ混ぜっ返すこともないだろう。
    「私の経験だと初恋は実るぞ」
    「……ペローナは実った後に初恋したんでしょ」
    「う、なかなか鋭いなお前……」
     思えば、ペローナと恋バナの類はあまりしたことがなかった。だが、これからは増えていくだろう。ウタはシャンクスを諦める。初恋は、実らない。
     持ち前の明るさでまた前を向く。待ってくれているファンもいる。これから先も、多くの人と関わっていく。その中にウタと共に歩むに足る人が、きっと──
    「あっ、ごめ」
     バシャッ。
     手を滑らしたペローナが倒したマグカップから、ココアがだくだくと流れ、机に拡がっていく。雫が一滴、机の端からポトリと落ちた。
    「「はぁ……」」
     部屋に入るなり吐き出した息は、空中で家人のものと混じり合った。
    「何ため息ついてんだ。私ほど悩みないだろ」
     出会い頭から棘を吐くのはミホークと婚約関係にあるペローナ。家を出る前に遅くなるから先に寝ていろと言ったはずだったが、まだ起きていたのか。
    「どうだかな」
    「はぁ、まぁいいけど。きいてくれよー」
     そういえば、ペローナもペローナで今日は人に会うと言っていた。
    「どうした」
     ペローナが長椅子で伸びをする。ミホークは突き上げられた腕を避け、対角線上にある一人がけのソファに腰をかけた。
    「今日ウタと会ってきたんだけどよ、なーんか、うだうだして煮え切らなくてもやもやするっていうか」
    「抽象的すぎる」
    「だからー、色々迷惑かけたし、かき混ぜすぎちゃったからってお互い好きだとわかっていても、諦めようとするんだ」
     ウタはもっとわがままでいいだろうに、とぶつぶつ漏らすペローナの言から類推するに、こちらの話とは真逆に進んでいるようだ。
    「それは、困ったな」
    「は? なんでお前が困るんだよ」
    「そのウタの想い人であろう男と今日会って来たのだが、あやつはまったくもって諦めようとはしてないぞ」
     今日はなんとか急ぎすぎるのはよくないと宥めて来たが、このままだとまた拗れそうだ。
    「へぇー……? でもそれ、別に困らないと思う。ウタは次、ウタが望むような対応を向こうがしたら応じるかもって言ってたし」
    「そうか。だがこのまま放っておいていいものだろうか……」
    「め、珍しいな、お前がそんな、他人の事情に肩入れするなんて」
     ミホークはペローナを見る。ロングニットのようなネグリジェに身を包み、髪は緩く一つにまとめて肩に流している。化粧っけのない素顔は年齢の割に幼さが抜けていない。しかし──
    「うわっ、と、え、なに」
     ペローナが陣取っていた二人がけのソファの一端へ彼女を抱き寄せ、膝の上に座らせた。
    「? ミホ、んっ」
     頬にかかった髪を耳にかけ、顎を上に向かせる。生来の赤みがかった小さな唇に噛み付いた。何度も唇を重ねるにつれ、ペローナの強張っていた肩からすうっと力が抜けていった。
    「もう、なんだよ急に」
     唾液でテカついた唇を一舐めしてから、顔を離す。
    「自分は、恵まれていたのだと気付いたからな」
    「え、何がってああ、さっきの話……まぁ確かに私たちとあいつらは多少似ているところもあるな」
     年齢や境遇、それぞれ共通するところがいくつかある。ペローナは自覚していないようだが、ウタと仲がいいのも、互いに養子であるとか、根底的な理解によるものもあるだろう。
    「そうだ、だからこそ、あいつらも変に拗れるのではなく、素直に結ばれてもいいはずだろう」
    「いや私たちも別に素直に結ばれたわけじゃないだろ」
    「そうか?」
    「そうだよ! お前の第一印象は誘拐犯だ!」
     心外だ。攫った時は初対面ではなかった。だが──結果がよかったのなら、そこまで拘泥することでもなかろう。
     きゃんきゃんと、勢いのまま不満をぶつけてくる唇を塞ぐ。酒が入っているせいだろう、ペローナの抗議を、今夜は聞ける余裕がない。
     ミホークは、ペローナの首筋の感触を味わいながら、その痩身をソファに押し倒した。
     その日、ペローナとミホークはそれぞれ友人を同じ喫茶店に呼び出していた。
    「またその話? 前も言ったでしょ、あの人が、今の私のを見ていないんだったら結婚しても虚しいだけだよ」
     カラトリーを置き、つと前をみくウタ。丸テーブルの上にはパンケーキのモーニングセットが二つ並んでいる。
    「それは裏を返せば今のお前を見るならいいってことだろ」
    「……思ったんだけど、言葉に実践が伴っていなかったら意味ないんじゃないかな。例え『今のお前を愛すから、どうかもう一度考えてくれ』みたいなこと言われたとしてもさぁ、そこに実はあるの?」
     確かに、と思案顔になるペローナ。口元に指をやりつつ、視線はチラリとウタの背後に向ける。
     ウタとペローナが喫茶店に入って少ししてから来た二人の客。朝日が差し込むテラス席では、昼時よりも声が響きやすい。
     二人とも、帽子や眼鏡を被れば変装になると思っているらしいのが可笑しく感じる。当初の予定では、先日した会話を彼に直接聞かせるのだったが、雲行きが怪しくなってきた。
    「じゃあお前はその実はどうすれば証明されると思うんだ?」
    「えぇ……」
     今度はウタの言葉が詰まった。腕を組んで口をつぐむ。待っている間に運ばれてきた紅茶へ角砂糖を三ついれる。三つ目がしゅわぁっと溶けたころ、椅子に寄りかかっていたウタが体を起こした。
    「前のウタと今の私の違いを解けたら、かな」
    「ほう?」
    「言い換えるなら、今の私じゃないといけない証明をしてほしい。前の代わりじゃない、私。それがわかったら、うん、オッケーしちゃうかもしれない。引っかかってるの、そのくらいだし」
    「……だってよ!」
     ペローナは体を傾け、ウタの後ろに呼びかける。ガタリと椅子が動き、シャンクスが席に近づいて来るも、ウタは眉一つ動かさず、紅茶を嗜んでいる。
     聡明なウタのことだ、始めの問いかけから薄々勘づいていただろう。わかっていても付き合ってくれたのは、ウタがシャンクスを諦めきれていない証拠か。
    「ウタ……」
    「おはようシャンクス、いい朝だね」
    「あ、あぁ」
     一方的にぎこちない会話をする二人を横目に、ペローナはモーニングセットのトレーを持って、シャンクスがもと居た席につく。できれば邪魔したくないから、店内に移動したいのだが、だんだんと混んできたから難しいだろう。
     だが、テラス席にも音が増えたから、会話は徐々に聞こえづらくなってきた。

     ◇

    「ウタ、まずは謝る。すまない。すまなかった。12年前のことも、最近のことも。あまりお前のことを思いやれてなかった」
     変装用の伊達眼鏡を外し、真っ直ぐウタを見据えるシャンクス。固い決意に満ちた瞳だ。
    「うん」
    「それで、今のお前と前のお前の違いか」
     二人の間に沈黙が落ちる。やはりすぐには出てこないか、と、ウタは小さく落胆する。が、
    「まずはそうだな、大人になった」
    「え?」
    「前は閉鎖的な空間で過ごさせてしまったからか、幼かったんだよな。肉体だけみれば大人だったかもしれないが、精神の幼さが顔に出ていて、年齢は今のお前とさして変わらなかったのに、少女と形容するのに躊躇がなかった。だが、今のお前は年相応の顔をしている。美しく成長したお前を見れて、嬉しいよ」
     ウタの落胆は的外れだった。一息つく間もなく、シャンクスは続ける。
    「次に、歌声。あ、先にこっちを言えばよかったな、すまん。お前という人間の根幹をなす大事な能力。あまり詳しいことはわからないが、技術的な面に関しては、はるかに今の方が、上手い、と、思う。英才教育の賜物か、前はお前自身のカリスマ性も手伝って人々を魅了していたが、今はたとえ姿が見えなくても歌さえ聞けば、誰もがお前の虜になる」
     他にも、とシャンクス次々に例を挙げる。聞いているうちウタはだんだん顔を赤くしていった。
     これじゃまるで、私の好きなところを聞いているみたいだ!

    「あとは……」
    「わぁわぁわかったからぁ!もういいよ!充分!伝わったから!」
     もう何個目か数えきれない。探偵かアンタは。ウタ自身、思いもよらない自分をシャンクスは知っていた。普通であれば気持ち悪いほどだろうが、嬉しいと思ってしまうのは、恋の盲目さがなすわざか。
     最初の沈黙は、これだけの例を頭に思い浮かべていただけなのだろう。
    「ウタ」
     先程の微笑は鳴りをひそめ、すうっと、真剣な表情かおに変わっていく。
    「な、何」
     顔を覆っていた手で少し乱れた髪を整え、シャンクスに応じる。シャンクスは一度眼を閉じ、呼吸を整える。そうして静かに、しかし熱を込めて語り出した。
    「確かにおれは、前のウタとお前を重ねていたし、これからも絶対に重ねないとは言えない。だが、努力する。時間はかかるかもしれない、でも、せっかくこんな平和な世の中でお前と会うことが出来たんだ、おれの手で、今度こそ、お前を幸せにしたい。不甲斐ない男だがどうか、改めて、おれとの結婚を考えてくれないか」
     シャンクスの額にじんわり汗が滲んでいる。
     ウタの心は──決まっていた。
    「うん、わかった。だからシャンクス、まずは──私の恋人になって!」
     
     我ながら、ちょろいというか、絆されやすいというか、意思が弱いなと思う。でも、だって、こんなに、必死に自分を求めてくれる相手がいるんだ──愛されたら、容易く受け入れてしまうものではないか。惚れられた方が幸せ、なんて言葉もあるし。
     過去の私と重ねていたっていうのは癪と言えば癪だけれど、変わると宣言してくれたから、いい。人間誰しも変化するのは難しい。だからこそ、そんなことは分かりきっているであろう彼が言ったのだ、生半可な覚悟ではないはずだ。そこは、少しの交流でも、彼の性質として、わかる。
     彼は──シャンクスは、私を愛してくれる。大事に、してくれる。一途なその思いを信じたい、いや、信じてみる。



     だから私、やっぱりこの人と結婚します。──って報告したら、義母には一度断ったのにと激怒され、義父には苦笑いでおめでとう、と言われた。
     二年後──

     ウタは、見上げる程高い天井から吊り下げられた、赤い袖幕に佇んでいた。隙間から見える客席は、満席。

     ◆

     結婚騒動や諸々のことが落ち着いた後、ウタは完全復帰した。否、活動休止前よりもっとずっと素晴らしい歌手となって舞台に舞い戻った。
     依然として悪く言う人はいたけれど、友の言葉を胸に、どんどん突き進んで行った。アルバムを出し、カリーナとの対面を果たし、卒業する頃には一流のアーティストとなっていた。
     有名になればそれだけファンはつくし、ウタはなぜか狂信的なファンがつきやすかった。だが、それもある時を境に落ち着いていった。
     ウタの大学卒業から一年後、突如発表されたのはある大手海運会社系列の重役との結婚、そして夫の経営する豪華客船の専属歌手となるということ。
     記者会見で見せた二人の仲睦まじい様子は、ウタに恋していたファンたちを諦めさせるに足るものだった。

     そして今、ウタは豪華客船のお披露目パーティーの舞台にいた。

     ◆

     ウタは、左手の薬指に触れながら、忙しいであろうに、舞台袖ここまで駆けつけてくれた人を見る。
    「緊張してるか?」
     視線に気づいたその人は、肩の力を抜けとばかりに、肩先に触れてくる。
    「大丈夫」
     ふぅ、と深呼吸してからウタは言うと、柔らかな笑みを浮かべる。
    「それじゃあ、行ってきます──」
    「おう、かましてこい」
     戦いに行くんじゃないんだから、と、彼の激励に笑ってしまうが、おかげで、伸び伸び歌えそうだ。
     光さすステージへカツカツと足音を響かせながら向かう。歓声と、拍手の音が聞こえる。

     今日は船での初舞台。彼との、シャンクスとの出会いの終着点。そして、彼との未来の出発点。

     さあ、歌おう。

     私は、船上の歌姫・ウタ。私の歌で、みんなの船旅に、彩りを添えるんだ──!





     〜完〜
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