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    red_ut_fj

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    シャンウタ転生パロ 第九話 花会「ですから我が社の、あ、我が社となるのはこれからでしたね、これはうっかり。はははは」
    「あはは……」
     愛想笑いを続けていると、顔が引き攣ってくる。
     なんでこんな時間を過ごさないといけないのだろう──

     ◆

     ──三日前

    「この人なんていいんじゃない?」
    「はぁ……」
     見合い写真を前に、ウタは曖昧な答えを繰り返していた。シャンクスとの婚約を破棄したのだったら他の人と婚約をしようと義母が最近やたらと見合いをさせようとしてくる。
    「もう、はっきりしなさい、やるの、やらないの」
    「やりますよ……」
     どうせ他にやることもないし、と内心ひとりごちる。学園祭後、本格的に活動休止をしたウタができることは限られていた。喉は治っているが、あくまでも休止中なのだからと以前みたく好き勝手に歌うことが許されていない。
    「そ、ならさっそく明後日にありますから、よろしくお願いしますね」
    「はや、あ、はい」
     もしかして受けないという選択肢は初めからなかったのだろうか。この人と見合いしますよという決定事項を伝えるためだけに写真を見せてきたのだろうか。真意はどうかわからないが、ウタにできるのは身支度だけだった。
     
     ◆

     某高級ホテルで繰り広げられる、あとは若いお二人でタイムに、ウタは早くも嫌気がさしていた。
     ウタが言えたことではないのだが、ウタと年齢が近い見合い相手となると、大抵が売れ残りである。もちろん、ウタのようになんらかの理由で相手がいなくなったという者もいるにはいるが、我が子をそう簡単に他所にやるわけにはいかないと甘やかされて育った坊ちゃん嬢ちゃんが多いのも事実だ。
     こんな人たちと結婚するくらいだったらシャンクスのが百万倍って、いやいや、こちらから断ったのだから、もう思い出しちゃダメだ。ここはいい感じに相槌を打って、乗り越えよう。

    「ところでウタさんは何か趣味でもあるのですか?」
     一通り自分の高尚なご趣味を語った彼が、ようやくウタに興味を示す。
    「え、そうですね……歌うのが、好きです」
     趣味というか日課というか、睡眠と食事のようなものだけれど。
    「ほうほう、存じておりますよ! 今は活動休止中でいらっしゃるよとか。でもまぁ、ワタクシと結婚するのであれば、歌手活動は辞めて貰いますがね! ま、趣味で歌うのであれば許さないでもないですが」
     薄目に開けたその瞳から、好奇の視線が隠しきれていない。
    「そう、ですか」
     ──この人とは絶対結婚しないな。
    「それで? いい奴はいたのか」
    「私の話聞いてたー?」
    「悪い悪い、冗談だ」
     ニヤニヤと悪い笑みを浮かべるペローナ。スコーンの乗った皿をスススと引くと、慌てて謝られた。
    「にしても、もうこの歳になると碌な奴がいないんだな」
    「ね、びっくりだよ。歳を考えないととなると、超年下か超年上だし」
    「ふーん。そんな調子じゃ、まだマシだった奴もいないのか」
     チラリとペローナはウタの部屋の隅に堆く積まれた見合い写真の山を見た。ウタもつられて、そちらへ顔を向ける。
    「いや……」
     一番上の写真を取ってくる。「この人だったらまだいいかな、とは思ってるけど」と手渡すと、素早く奪われた。
    「へーどれどれ……ってお前……」
    「ん?」
     写真を見た途端、ペローナがプルプル震え出した。台紙に隠れて顔が見えない。
    「お、お前、これ、あいつにそっくりじゃねぇか!」
    「え?」
    「断片的にしか聞いてないけど断ったのお前なんだろ? なのにぜんっぜん忘れられてないとか……」
     もう似てるやつと結婚するくらいだったら本人としろよーとの呟きが聞こえ、もしやと思い、写真を奪い返した。
     言われてみれば確かに、赤い短髪と彫りが深い顔はあの人の影を感じなくないかもしれない。
    「それで、まだやるのか、見合い」
     呆れ気味に告げられた。ウタは少しムッとする。
    「うん、でも次で最後。割とずっと乗り気じゃなかった父様が持ってきたらしいから、もしかしたらその人になるかも」
    「ふーん。ま、結果がどうであれ、また話聞かせろよ、他人の見合い話ほど面白いものはない」
     ここで恋バナと言えないあたり上流の生まれだなと感じる。
    「そういえば、ペローナは見合い婚じゃないんだっけ」
     ペローナの家に行くとほとんど必ずと言っていいほど遭遇する、少し厳しめな顔の婚約者を思い出す。もう同棲も長いし婚約者じゃなくて旦那でいいような。
    「そ、超子どものときから婚約者がいてさ、大変だったよ、成人したら連れ去られて」
    「ええ、なにそれ」
    「それは、また今度話してやるよ」
     今はまだ話したくないとばかりにペローナはチューっとジュースを吸い上げる。色が変わっていくストローをぼーっと見ていると、ウタはあることを思い出した。
    「そうそう、次の見合いが駄目だったら活動復帰コンサートやるから時間あったら来てね。あ、でも、卒業制作で忙しいんだっけ」
     学園祭前から準備は始めていたらしいが、締め切りはもうすぐなはずだ。
    「いや行くよ、というか駄目だったら復帰って」
    「まぁまぁ、駄目じゃなくても復帰はするから、もう少し待ってて」

     一ヶ月近く活動休止してわかったのは、やはりウタは歌が好きだということ。歌わずにはいられないこと。だから、このままだと歌うのを我慢できなくて路上ライブでもしでかしそうだった。
     そんなわけで、できれば暴走する前に見合い話を終わらせたいのだ。

     
     ペローナとのお茶会から数日も経たずにその日はやってきた。ウタが連れてこられた見合い会場は、天井が見上げる程の高さの豪奢なホテル。先方は既に到着しているらしく、そそくさとダイニングラウンジの奥に通された。
     仕切りがなされていて、ここからは誰がいるのかわからない。
     テーブルクロスがかけられたテーブルが見えてきたあたりで、ふと、気がついた。
     そういえば、見合い相手の写真、確認するの忘れてた。
     ──まぁ、いいか。どうせ断るし──って
    「な、なんであんたが、ここに?!」
    「よォ、久しぶり」
     パーテーションの奥にいたのは、きっちりと着飾った赤髪の男──シャンクスだった。
    「えっ、え、え?!」
     な、何かの間違いでは、と、お淑やかさのかけらもない動作で義父ゴードンの方を振り向くが、困ったように苦笑いしているだけ。義母にいたっては、不満を隠そうともせず、それどころかピクピクとこめかみが痙攣している。
     冷や汗を垂らしながら、徐にシャンクスの正面にまわる。しかし、未だ困惑は潰えない。そんなウタをよそに、シャンクスはにこやかに義父母への挨拶を済ませている。
     そうして、ボーっとしているうちに、双方顔見知りだということ、ウタとシャンクスの間で話すべきことがあるだろうということで、早々に"あとは若いお二人で"と、ウタはシャンクスと二人きりにされた。
    「……………………」
    「……………………」
     気まずすぎる。ゴードンはウタがシャンクスに絶縁を申し込んだこと知っているはずなのに。なぜ。そもそもこの縁談だって持ってきたのは──
    「えーっと」
     ウタが一人悶々としながら俯いていると、シャンクスが会話を切り出してきた。顔を上げたウタの視線は自然と冷たくなっていた。
    「まずは、謝らせてくれ。すまなかった」
     ガバッと勢いよく頭を下げるシャンクス。つむじがよく見える。
    「……何年も前に軽率に結んだ契約のせいでお前を苦しめてしまって。きっと考えぬいた結果であろう決断を無碍にしてしまって。
    ──それでもこの場を用意してもらったのは、改めてお前との関係を構築したかったからだ。もう仕事相手でなくていい、ただ、そばにいて欲しいんだ」
    「それって、私と結婚したいってこと?」
     でなきゃお見合いの席であることに辻褄が合わない。ただ単に会って話がしたいだけだったのなら、この場である必要はない。であれば、考えつくことは一つだ。
    「そうだ」
     あまりにはっきり肯定されて、逆にウタがたじろいでしまう。
    「……そんなにまで私に執着する理由は何?」
     歌が好きだというのは前にも聞いた。けれど、さっきの謝罪を聞く限り、その歌を放棄してもなお、ウタ自身を求めているのだろう、シャンクスは。仕事を抜きにするとなると、執着しているとしか思えない。思えば出会った頃から妙だった。
    「…………知りたいか?」
     ウタの追及に、シャンクスはこちらを伺うような視線を向ける。そう言うということは、やはり何か理由があるんだ。
    「うん」
     ウタは即答する。シャンクスの目をじっと見つめて。
    「あー、うー、んー」
     シャンクスは腕を組んで、頭の上のあたりをぐるぐる見ている。わかりやすく、悩んでる。
    「ただ私の歌が好きってだけじゃないのは、薄々勘づいてた」
     そうでなけりゃ絶縁状を送った時点でもう、関係は終わっていたはずだ。
    「知りたい。教えて、シャンクス」
     畳み掛けるウタ。気丈に振舞っているが、机の下では震えそうになる手を握りしめている。
    「…………はぁ、わかった。ちょっとお前にゃ理解が及ばないかもしれねぇが」
    「大丈夫。信じる」
     大方大人の事情的なものも含まれているのだろう。シャンクスは隠していたようだが、12年前、ウタを救ってくれたのは紛れ間なくシャンクスのはずだし、向こうはたぶん、ずっと前からウタを知っている。口を開くシャンクス。ウタは固唾を飲んで待ち受けた。そうして告白されたのは────













    「─────おれ、前世の記憶があるんだ」
    「は?」
    「ふうん、つまり、前世の私が死んだ日は乗り越えたから、私を──迎えに来たっていうこと?」
     シャンクスは、所々濁しながらもウタと家族であったこと、語り合う年月も足りないままに喪ってしまったことを告白した。それを聞いてウタは納得がいった。前世とかいうのを、完璧に理解することはできないが、そう言われれば今までのシャンクスの態度にも、説明がつく。
    「そ……うだな。」
     シャンクスは素直に肯定はしなかった。ウタがそういう言い方をしなかったからだが。
    「そっか──」
    「あぁ」
    「なら、うん、そうだなぁ。やっぱり──断るよ、この縁談も」
     俯きがちだったシャンクスがバッと顔を上げる。その顔は、微かに絶望と恐怖を帯びていて、チクリと胸が傷んだが、努めて凛々しく宣言する。
    「な、どうして」
    「決まってるでしょ







    ────────からだよ」
     ハッと言葉を失ったシャンクスに、さようなら、と声をかけ、ウタは席を立った。
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