スペースエスパーを捕獲せよ!久しぶりに取れた休日。
シンも自分も何かとバタついていてやっとひと段落した所だったので、どこかに出かけようという元気も無く、朝から予定も決めずにぼんやりと過ごしていた。
配信されてる映画を見て、やれこの俳優の顔が良いだとか、やれこのアクションは実現可能なのかだとか、他愛も無い会話を交わしていた。
眺めていた映画が中盤に差し掛かった頃、シンが「腹減らね?俺ちょっとそこのコンビニでなんか買ってくるわ」とさっきまで抱えていた海老の寿司の枕をこちらへ放って立ち上がる。
「セバも行く?」
「あちーからパス。このエアコンが効いた涼し〜い部屋でイイ子にして待ってるから俺の分もなんかよろしく〜。あと甘いモン。なるべく高い奴、お前の奢りで」
「くそ我儘プリンセスがよ……」
ポケットに財布とスマホを突っ込んで、ジャージ地のジャケットに袖を通す。暑そうだが日に焼けると赤くなってヒリヒリと痛むのが嫌で仕方なく着て来たらしい。結局暑さに耐えられず前を大きく開けてタンクトップから覗く肩が陽光に曝されているのだから意味が無いと思う。大人しく日傘なりさせばいいのに。今の時代、男でも日傘をさすのも珍しくない。まあ、似合わな過ぎて絶対見たら笑う自信があるけど。
日傘をさすシンの妄想で内心ウケていると玄関でシンが振り返り「言いたい放題言ってんじゃねえ!」とキレながら靴箱の上に置いてあったシュガーちゃんのぬいぐるみ(前にシンがシュガーランドの土産に買ってきた)を投げる。それは絶妙なカーブを描いて頭頂部にヒットした。
「いてっ……勝手に盗聴すんのやめてくださーい」
「じゃあ失礼な事考えてんなよてめー……!なんも買ってこねーぞ」
「さーせんした〜。あ、アイスがいい。ダッツでよろしく〜」
「おー、ガリガリくんな」
音を立てて玄関扉が閉められる。
コンビニはこのアパートの目と鼻の先だ。せいぜい十五分くらいで帰ってくるだろう。シンのいない部屋は矢鱈と静まり返っていて、自分の家の筈なのに妙に居心地が悪い。その静けさを誤魔化す為に止めていた映画の続きを勝手に再生しようとも思った。流石に怒られるか。
ちょっとしたことでギャアギャア騒ぐシンは揶揄い甲斐があって面白いのでわざと怒らせる為に再生してしまうのも悪く無いが、せがんだアイスを取り上げられ兼ねないのでまたの機会にする。
ガリガリくんなっつってたけど、なんだかんだ俺のお願い聞いてくれんだよなー。
おそらく用意されるであろう希望のアイスを待ち侘びながら、腰掛けていたビーズクッションに更に深くもたれ掛かる。柔らかい感触に全身を包まれながらぼんやりと制作途中の武器について考えて暇を持て余し、シンの帰りを待った。
────そのまま、シンはこの部屋に帰ることはなく、忽然と姿を消した。
(中略)
どうしてどこにも居ないのか。
これだけ探してもいないとなると何か事件に巻き込まれてしまったのでは無いか。
あのエスパーの事だから、ひとりで突っ走ってどうにもならない所まで行ってしまったのでは無いか。
……もう、生きていないのでは無いか。
焦りから、脳内ではどんどん最悪の想定が更新されていく。躍起になって殺連のフローターの死体処理報告書のデータまでも覗き見ようとしていた時、付けっぱなしのテレビのモニターに見覚えのある金髪頭が映し出される。
「……は? え? シン……?」
番組のテロップに書かれた“宇宙人か? 月に現れた謎の青年!”の文字。
国際宇宙ステーションから撮られたであろう月面の映像にはあの日、コンビニに行った時のラフな格好のままのシンがコンビニのレジ袋片手に真っ白な岩だらけの月面をとことこと散歩でもする様に歩いていた。
全く意味がわからなかった。