面白い奴「え?俺?」
辺りを見渡し、俺に話し掛けてきたであろう人に聞こえるよう、そう言って己に指をさす。こくこくと頷く彼に近付き声がしっかり聞こえるよう少し屈み
「俺に用なんて珍しいな。どうかしたか?」
他の人より少し驚きやすい彼を怖がらせぬ様、なるべく優しい声色で話しかけると、胸の前で指をいじいじとさせながら
「ど、ドライブくん、って、何がす、きか、分かりますか…?」
顔を赤らめて、頑張っているなっと、ひしひし伝わる。そんな彼の姿があまりにも可愛らしくて頬をつつき
「ここじゃ人が多い。場所移そうぜ」
そう言えば周りを見渡し、白い肌がほんのりと赤く染る。
場所を近くのカフェに移し、適当に飲み物を注文して本題に入る。
「で?オバドラの好きなもんが何かって話?」
頬杖をつき、じっと彼の瞳を見つめながら問えばスっと逸らされ、ゆっくりと頷く。
「どうしてまた急に」
「ぷ、れぜん、とをしたいなって…おもっ……て…」
途切れ途切れに、頑張って伝えようとする彼を見ていたらキュッと胸を鷲掴みにされる様な、不思議な感覚に一つ咳払いをして誤魔化し
「お前さんからの贈り物だったら全部好きだと思うぜ?」
そう答えれば顔をますます紅くし、俯いてしまった所に飲み物が届き、お礼を言って受け取り、一口含む。
砂糖もミルクも入れていないのに酷く甘く感じて、ソーサーの上に戻す。そういう事では無いのだろうと思い、うーんっと考え
「そうだなぁ…贈り物としてはメジャーだけどアクセサリー系はどうだ?」
そう言って携帯の画面に自分がよく購入するお店のサイトを開き彼に見せる。両手で受け取り、画面に触れていいのか困っている様子だったので、ゆっくりスワイプしてやり、一個づつ見せるようにしてやれば瞳を画面に写る宝石よりもキラキラと輝かせる。
その反応を見ているのが楽しくて、次から次へと見せる。
「直接見に行く?近くにあるけど」
夢中になる彼に声をかければ顔を上げこくこくと頷いたので珈琲を一気に飲み干して立ち上がる。彼も急いで飲み物を飲み干そうとしているが、一口が小さい為中々減らないので、ぷはっと口を離した隙にコップをスっと取り、残り半分くらいを飲み干す。
「あ、あう、すみませ、ん」
謝る彼の頬をつつき微笑む
「いいんだよ、急かして悪かったな」
お会計を済ませ、外に出てお店まで十五分程の道を歩く。
道中にふっと気になり
「なんでオバドラと付き合ってるの?」
そう聞けば、分かりやすく動揺し、顔をかっと赤くする。
「あいつ意地が悪いし、すぐ怒るし、人の事怖がらせるし、あんたが嫌いそうなタイプじゃん」
ぽんぽんと出てくるあいつの悪口に我ながら笑ってしまう。
もじもじと指を動かし、俯き耳まで真っ赤にさせ
「う、うゅ…こた、えなきゃ、駄目ですか…?」
目をぐるぐると回しながら言われ、にこっと微笑み
「だーめ♡」
顔を覗き込んで言えばだらだらと汗を流しぱくぱくと口を魚の様に動かしている。可愛いな…あいつが神速を可愛いと言う理由が何となくわかった気がする。
一人テンパリ、暑いのか顔をパタパタと扇ぎ、頭がパンクしてしまったのか、その場にしゃがんでしまったので、人気の少ない公園まで腕を引き、無理矢理歩かせた後ベンチに座らせる。近くにあった自動販売機で飲み物を二つ買い戻って隣に腰掛ける。
「ごめんごめん、意地悪しすぎたね。無理に話さなくて」
「優しいんです」
俺の声を遮って、俯いたままの彼から声が聞こえ、聞き逃さぬよう顔を近付ける。
「僕なんかを好いてくれてるんです」
ゆっくり顔を上げ、頬を紅く染めて少し悲しそうな顔で
「こんな情けない僕を、初めて見てくれた人なんです」
アタックされる内に好きになったとか、何となくとか、時の流れとか、そういった在り来りの理由かと思ったが想像と違う返事が返って来て、正直驚いている。
「僕なんかドライブくんの隣に相応しくないだろうに、傍に置いてくれるんです」
うるっと瞳に涙を溜め、袖で涙を拭い
「すみません…きっとご想像と違うお返事でしたよね」
微笑んではいるが、自分で言っていて辛いのか表情は曇っていた。
「いや…俺の方こそちょっと無神経だったかも…ごめんな」
謝ってから買ってきた飲み物を渡せば両手で受け取る。
「大丈夫です…!ただ、時々思うんです。僕とドライブくんは釣り合っているのかなって…」
ペットボトルの表面を優しく親指で撫でながら、不安そうな顔でそう言う彼の頭を安心させる様に撫で
「オバドラはあんたが思ってるより、あんたが大好きだぞ?」
顔を近付け耳元で
「だってあいつ、この間なんて…」
話そうとした瞬間背中を思いっ切り恐らく蹴られ、ベンチから転び落ちる。何事かと後ろを振り返ると、鬼の形相で俺の事を見下ろし、渡さないと言わんばかりに神速の事を抱き寄せているオバドラと目が合う。
「やっほ〜タイミング悪すぎだろ」
「お前何した」
「ちが、僕が」
「神速ちゃんは後でた〜ぷりお話しようね」
にこっと笑顔を向けられ、キュッと口を閉じ、この後のことを想像してか、酷く怯えた表情をしいている神速の耳をオバドラが手で塞ぎ
「場合によっては殺す。何した」
「なんもしてねぇよ。ただ話してただけだ」
立ち上がり、服に付いた土を払い、再び隣に腰掛けようとすると、ベンチが壊れるんじゃないかってくらいの勢いで脚が置かれ
「お前が座る場所はねぇよ」
おぉ怖っと肩を竦め、ポケットに手を突っ込む。随分ご立腹な様で、めんどくさいなぁと思う。神速に相談されていた事を話せばすぐに済むだろうけども、内緒にしておきたそうだしなぁっと一人で考えていると
「泣かせる様な事したんだろ」
神速の目頭がほんのりと赤みががっているのを見てそう判断したらしい。こっちだって泣くとは思っていなかった。
「話の流れでだよ。別に泣かせたくて泣かせねぇよ。お前じゃないからそんな趣味はねぇしな」
フッと鼻で笑えば更に怒りに触れたのか、ベンチに乗せていた脚で腿を蹴られる。
「お前の方がそうやってすぐ暴力ふるって泣かせてるんじゃねぇか?聞いた話だと不安そうだったし」
不安そうだったのは違う意味だが、やられっぱなしは癪に障るのでそう付け足す。
「こいつにはそんな事してねぇよ」
「お前はそうかもだけど相手はそう思ってるかもだろ」
俺の言葉にうっと顔を少し顰め、チラッと耳を塞ぐ神速の顔を見て少し不安そうな表情をした。
「そういう顔するって事は心当たりあるって事だろ?お前のその性格は治んねぇもんな」
くすくすと笑い、何を話しているかわかっていない神速の頬を数回撫でる。すっと塞ぐ手が離され、俺の手を払い除けられる
「お前やっぱり最高に性格悪いな」
「お互い様だろ」
鼻で笑い、その場を去ろうとしたが、神速に手を掴まれ、もう片方の手でオバドラの腕も掴み無理矢理握手をさせられる。
「喧嘩、したら、仲直り…しな、いとだめ…です」
っと、少し泣きそうな顔で言われ、こいつまじかと思いオバドラの顔を見れば、同じく驚いた顔をしており。完全に思考が止まった俺らは神速の小さい手により握手をし続ける。何だこの空間。ついさっきまでお前の事で言い合ってた様なもんだぞ?あまりの天然さに呆れというより面白さが勝り、ふつふつと湧き上がる笑いが抑えきれず、口を開けて笑い
「あんた最高だな。後でその野郎から話し聞きな」
オバドラを指差し言えば力づくて手を離され
「もうお前のそのアホ面見たくねぇから早くどっか行け!」
「言われなくても去りますよ〜だ」
ばーかと付け足し、逃げる様に走って二人から離れ、先程の神速の顔を思い出してクスッと笑う。
「あいつも苦労してそうだなぁ〜」
携帯を取り出し、行こうとしていたアクセサリーショップのURLを神速に送り付ける。
"また相談のるよ♡"
っとメッセージをつけて、反応を楽しみに待つ。