痕 二月に入ったばかりの、ある日の放課後。しんしんと冷える部屋の中で、御影 小次郎は一人、机に向かっていた。
「さむー……」
思わず声が漏れる。彼に与えられた理科準備室は冷暖房完備の立派な城ではあったが、いかんせん設備が古く、特に暖房の効きがいまいちだ。温風が天井付近で溜まり、足元が冷える。
御影は少しでも体を温めようと、椅子の下の長い足を小刻みに動かした。そのように貧乏ゆすりをしながら、ノートパソコンのキーボードを打っていても、遂には指先までかじかんでくる。
「軍手でも、すっかなぁ……」
割りと本気でつぶやきながら、カチコチになってしまった指どうしを組んで虚しくぐるぐる動かしていると、ひとつしかない戸がノックされた。
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