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    いぬがみ クロ

    @inugamikuro

    ときメモGS4にハマった字書き犬。二次妄想小説を書き散らします。よかったら仲良くしてください。

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    いぬがみ クロ

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    卒業間近のマリィと御影先生のある日の出来事。
    マリィがしっかり者だから、御影先生もやんちゃができるのかも?と思い、書いたSSです。

    #ときメモGS4
    tokiMemoGs4
    #御影小次郎
    mikageKojiro
    #みかマリ
    unmarried
    #こじマリ
    partialMariology

     二月に入ったばかりの、ある日の放課後。しんしんと冷える部屋の中で、御影 小次郎は一人、机に向かっていた。

    「さむー……」

     思わず声が漏れる。彼に与えられた理科準備室は冷暖房完備の立派な城ではあったが、いかんせん設備が古く、特に暖房の効きがいまいちだ。温風が天井付近で溜まり、足元が冷える。
     御影は少しでも体を温めようと、椅子の下の長い足を小刻みに動かした。そのように貧乏ゆすりをしながら、ノートパソコンのキーボードを打っていても、遂には指先までかじかんでくる。

    「軍手でも、すっかなぁ……」

     割りと本気でつぶやきながら、カチコチになってしまった指どうしを組んで虚しくぐるぐる動かしていると、ひとつしかない戸がノックされた。

    「どーぞぉ」
    「失礼します。この間の課外授業のレポート、集めてきました」

     一人の女生徒が、プリントの束を抱えて入室してくる。御影の受け持ちの生徒、小波 美奈子だ。
     美奈子はこの間の文化祭で開かれたミスコンで、最高栄誉の「ローズ・クイーン」に輝いたほどの美少女である。更には来月、彼女は最難関校である一流大学を受験する予定だが、まあ恐らく軽々合格することだろう。
     才色兼備の、美奈子はまさしく御影学級のエースだった。

    「おー、今日はおまえが日直か」
    「はい。って、寒っ!? いくら地球に優しい先生でも、もうちょっとエアコンの温度、上げてもいいのでは? SDGsでも『全ての人に健康と福祉を』って謳ってますし」
    「いや、結構、上げてるんだけどな? 古いから、効かねえんだよ」

     御影は椅子から立つと、エアコンの操作パネルを確かめるために、それが嵌め込まれている窓際の壁の前に立った。
     エアコンの設定温度は、確かに二十度になっている。
     美奈子もひょこひょこ近づいてきて、御影と一緒にパネルを覗き込んだ。

    「冷房だったってオチじゃないですよね」
    「いや。ほら、ちゃんと暖房になってる」

     ほんのすぐそば。ちょっぴり手を動かせば、うっかり届いてしまうだろう位置に、美奈子はいる。御影はまじまじと美奈子を見下ろし、あえて腕組みをした。そして彼女が顔を上げるタイミングで、スッと目線を外す。

    「……………」

     濃いような、よそよそしいような。エアコンの寒々しい空気に乗って、室内に流れる奇妙な雰囲気を嗅ぎ取ったのか、美奈子は怪訝な顔をする。
     先生を慕い、生徒を可愛がる。そういった意味で仲の良かった二人に、だが最近はちょいちょい奇妙な間があくことがある。
     痺れるような緊張感に包まれ、音のない不協和音が鳴り響く、ひととき――。

    「あー、そうだ。あったかいお茶でも飲むか。美奈子も飲んでけ」
    「わ、嬉しい! 疲れが取れるお茶がいいな! あのヤバイやつ」
    「人が真心こめて淹れてやったお茶を、違法薬物みたいに言うなよなあ」

     唇を尖らせて文句を言いながら、御影はポットや茶葉が置かれている一角に移動する。
     美奈子は部屋の中央に設置された作業机まで戻り、近くの椅子に座った。

    「受験勉強はどんな感じだ~?」

     御影は淹れたてのハーブティーを美奈子の前に置き、もうひとつを自分のデスクに運んだ。

    「いやもう、頭パンパンで。ともかく詰め込みまくってるから、叩かれたりしたらポロッと出ちゃいそうです」

     美奈子は手首のあたりで、自分のこめかみをトントンと叩いた。

    「ははっ。まあ、しょうがない。暗記なんて不条理だなーって思うだろうが、まるっと覚えとくと便利ってことも結構あるからな」

     部屋の端に陣取るデスクと、中央の作業机。御影と美奈子、二人の距離はおおよそ二メートルといったところだろうか。
     仲が良くなればなるほど、心が近づけば近づくほど、物理的な隔たりは開いていく。――そうせざるを得ない。なぜなら彼らは、教師と生徒だから。
    「清く正しい、適切な関係を維持しなければならない」。受験のために暗記させられる化学式のように、意味なんて考えず、それは繰り返し繰り返し、頭に叩き込まれてきた項目だ。
     常識。倫理。正しいこと。
     正常な輪から逸脱し、悪徳を栄えさせないかどうか。人は常に試され、かつ監視されているのだ。

     しばらく他愛のない話をしていると、御影のデスクに置いてあったスマホが鳴り出した。

    「あ、ちょっと悪い」

     美奈子に一言断ってから、御影は通話を始めた。淡々と受け答えしている様子から、なにがしかの事務連絡だろうか。深刻な話ではなさそうだと見当をつけて、美奈子は足音を立てないよう、そっと御影に忍び寄った。

    「――はい。では、失礼します……!?」

     電話を切ると同時に、自分の後ろになにかの気配を感じた御影は、さっと背筋を伸ばす。直後、背後から伸びてきた腕が、彼の逞しい首に絡みついた。

    「――おい」

     耳に、美奈子の頬が当たる。御影は美奈子を引き剥がそうと彼女の手を掴むが、全くといっていいほど力を入れていない。明らかに形だけの抵抗だ。

    「先生、最近、冷たいですよねぇ。デートにも誘ってくれないし。あ、青春を謳歌してるだけでしたっけ? ともかく、二人きりで出かけてくれないし」
    「……………」
    「そうやって意識してるとこ見せるのって、逆効果なんですよ? 私は先生にとって、特別な女の子なんじゃないか……って。それも含めての作戦なんですか?」

     御影はため息をつくと、今度はきちんと美奈子の手を自分から離した。オフィスチェアを回転させ、彼女と向き合う。
     久しぶりに正面から見据えた教え子の瞳は、意外に冷静だった。煽るようなことを言う割りには、劣情の色は影も形もない。

    「御影先生が悪いんですよ。あなたの教育方針は、一部の生徒にとっては毒です。『生徒の目線に立つ』……。だから、こうやって、がっつり目が合ってしまって」

     美奈子は御影の頬を、両手で掴んだ。

    「――キスも、できちゃいますね。しますか?」
    「……!」

     御影の紫の瞳が、まるで宙を舞う蝶でも追うように、あちこちを向く。やがて目には見えない可憐なその蝶は絶命し、床にでも落ちたのか、彼の視線も伏した。
     美奈子は小さく息を吐く。
     分かっていたことだ。別に御影は悪くない。彼もまた普通の先生、常識的な先生だっただけだ。
     困らせるのも可哀想だから――。美奈子が離れようとしたところで、だが一瞬早く、御影が動いた。
     太く長い腕で美奈子の腰を引き寄せ、同時にもう一方の手を彼女の膝の裏に回す。そして御影はひょいと美奈子を自分の上に乗せると、横抱きにした。

    「えっ」

     美奈子は大きな目を丸くしている。

    「ほら、どうした。キスすんじゃねえのか?」

     二人の距離は二十センチほど。頭上には魅力的な、野性味溢れる笑顔があって、美奈子の鼓動は嵐の日の鐘のように、ガンガンと激しくデタラメに鳴り始めた。

    「せ、先生……! 近い!」

     嫌なわけじゃないのに、つい美奈子は御影の顎に手をやり、ぐいっと突っぱねた。

    「ふふん。覚悟もねえのに、挑発だけは一丁前で。だからいざ噛みつかれたときに、反撃ができない。オオカミの牙で砕かれて、飲まれるだけだ」

     拒絶するように突っ張る手のひらをぺろりと舐めてやると、美奈子は驚き、硬直する。その隙きに手首を掴み、彼女の手を自分の眼前からどかすと、御影は微笑んだ。

    「――美奈子」
    「……っ」

     愛しい人の魅惑的な笑みと声のせいで、へにゃっと、美奈子の中で彼女を支えていた芯が曲がる。
     御影は力の抜けた華奢な肩を抱き、美奈子に口づけた。すぐに離れて、囁く。

    「口、開けてみ?」

     なにをされるのかと、不安げに美奈子の瞳は揺れた。が、彼女は御影に従ってしまう。――今や拒むという行動そのものが、美奈子の中からは消失している。
     歯医者にかかるようにおずおずと、美奈子が小さな口を開けば、御影の舌が入り込んできた。太くて長いそれは、歯茎の裏も表もさらい、上顎をくすぐり、そして最後に彼女の舌にしつこく絡んで、吸って、ようやく去っていく。

    「はあ……っ」

     魂まで食べられてしまったかのように、美奈子はぼうっと放心している。

    「さて、どうする? おまえがいいなら、俺はいつだって一緒に堕ちてやるぜ?」
    「……………」

     余裕綽々の御影を、正気に戻った美奈子は睨みつけると、彼の分厚い胸を押して、床に降り立った。

    「しませんよ! みんなに恨まれちゃう。あなたはうちのクラスの、大事な大事なお姫様ですからね!」
    「そこは王子様じゃないのか?」
    「図々しいなあ。――緑の蔓の中で眠る、いばら姫のくせに」

     御影に人差し指を向けて、美奈子はそれを軽やかに振った。

    「ともかく。そういうことは、卒業まで我慢します。あと、たった二ヶ月ですからね。――ただ、約束が欲しかったんです。私の独り相撲じゃないかなって、心配だったから」

     美奈子はそっと自分の唇にふれた。

    「――さっきのは、私の気持ちを受け取ってくれるって……。そう思っていいですよね? 遊びじゃないですよね?」
    「おまえの中の俺のイメージって、どうなってんだよ。そんなに軽い男に見えるか?」
    「女の子大好きって、自分で言ってたくせに。どう信じろと?」
    「あ」

     御影は苦笑いをしながら、髪を掻き上げた。そしてぷいっとよそを向いている美奈子のすきを突き、抱き締めると、素早く彼女の首筋に歯を立てる。

    「いたっ!?」
    「――あいにく、惚れたら一途なんでな」

     肌を吸って、痕を刻んでから、御影はすぐに美奈子を解放した。

    「せ、先生……!」

     美奈子はじんじんと甘美な痛みが走る肌を――御影にキズモノにされたそこを、手で押さえている。

    「キスより、分かりやすい印をつけといた。不安になったら、また来いよ。いつでも、俺のハンコを押してやるから」

     自分の口元に指を当て、御影はキスを放つ。
     美奈子の顔は真っ赤になった。

    「淫行教師ー!」
    「ははっ。ま、卒業式を楽しみにしとけ」
    「もうっ! 誰かに見られたら、どうすんです!?」

     結局、普通であり常識的な感覚を持っているのは、美奈子のほうなのだ。時々、女を出して迫ってくるが、その実、危うさなんて欠片もない。彼女のその堅実なところを、御影は特に愛している。
     照れと怒りのせいか足音も荒く、美奈子は戸口へ向かった。そこを開ける前にしばらく立ち止まり、振り返る。

    「あの」
    「んー?」

     御影はデスクの上のノートパソコンを開き、既に仕事を再開させていた。

    「先生、好き……。大好き!」
    「!?」

     驚いた御影が美奈子に目をやると、彼女はあどけなく笑い、理科準備室を出ていってしまった。

    「いや、それは反則だろ……」

     男として二十うん年生きてきたから、誘惑されることなんて慣れっこだ。小生意気な女を御するのは、むしろ得意である。
     が。
     先ほどの無邪気モードで攻め込まれていたら、降参待ったなし。
     有無を言わさず丸ごと突っ込んで、氷室教頭あたりに見つかり、そして免職待ったなしでもあった。
     鬼の形相をした氷室教頭に締め上げられる、その想像は震えるほど恐ろしいのに、体は燃えているかのようだ。

    「あっちーなあ」

     ネクタイを緩めながら立ち上がると、御影は背中を丸め、エアコンの温度を下げに行った。


    ~ 終 ~


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