自機とフールクの交流SSまとめ【フールクと! 1】
フールク。彼と会ったのは二度目である。
やあ、と挨拶するのも、威嚇するのも違う気がして。インティニウムはどう反応すべきか、少しのあいだ首を傾げた。
そんな彼にフールクは訝しげな目を向ける。
「何か?」
「ン?うーん、いや」
大したことじゃない。首を振る。
まあ傍から見れば、サブリガにハーネスといった剣闘士待った無しな格好をしているのだが、そこは割愛しておこう。
「ウォーレン牢獄、てとこにいけばいんだよな」
「君が勇気ある者であるなら、ね」
片眉を上げた男は、嘘を言っているようには見えない。なるほど、丸石がないことを言いに来たりするあたり、もしかしたら根はわるいひとではないのかもしれない。
頷き、ではさっさと行こうと踵を返す。インティニウムは方向音痴で、本名のイニティウムの綴りをインティニウムと間違ってしまうようなうっかり屋ではあるが、一度行った場所は忘れないのである。
あ、でも。
くるり。振り返る。凛としたうつくしい青年は未だそこに立っていた。それに、ぱやぱやっとした無表情のまま手を振った。
「またな」
「…………縁があれば、また会うかもしれないですね」
なんだこいつと言わんばかりの表情だった。
そんなことも気にせず、ゴーイングマイウェイ光の戦士は今度こそ振り返らずに進む。
いざゆかんウォーレン牢獄。いざゆかん槍術士マスターへの道。
それにしてもひどい装備だ、と憐れむまなこのフールクの視線を背負いながら。今日もぱやぱや、インティニウムはずんどこ道を踏みしめ歩いていくのである。
◆ ◆ ◆ ◆
【フールクと! 2】
今日も今日とて槍術士ギルドへ足を運び、指南を受けようとしたインティニウムであったが。またも聞き及ぶフールク。もうそんなちょっかいかけるくらいならほっとけばいいのになー、なんてぱやぱや思う訳であるが、まあやむにやまれぬ事情があるのだろう。
今日はハーネスにサブリガを組みあわせた衛士に通報待ったなしな装備ではない彼は、旧知の友に会いに行く気軽さで目的地へとスプリントした。
おまえ本当に気高いエレゼンか?と問われそうなぱやぱや加減だが、ざんねんなことにそうなのである。
「や、フールク」
「……君、この光景が見えていないんですか?」
ちょっぴし口角を上げて花をぽやぽや飛ばしている幻覚すら見えてくるような、割と筋肉質なそこそこタッパのある男の能天気さに。フールクは額をそっと抑えた。
俺が見えてないのか……?と顔を真っ青にしたフールク曰く臆病者の槍術士が足元で縮こまっている。あまりにもかわいそう。
すると光の戦士、縮こまる槍術士にいま気づいたという顔をして「あ」と声を洩らした。
「フールクがやったんだっけ?」
「……ええ、まあ」
「そうか。悪いことはあんまりしちゃだめだぞ」
ぐりぐり。怯える槍術士の頭を撫でくりまわしながらのことばは、なぜだかこの状況を作った張本人に対して好感度高めに聴こえる。
「それで、今回は何をするんだ。あ、ごはん買ってきたけど食べるか?」
「……いえ結構」
「そうか。ざんねん」
言いながら槍術士にバスケットを渡すインティニウム。しかも「たべていいよ」とか言って人質を困らせている。ピクニックにでも来たつもりか冒険者。依頼内容聞いてなかったのか光の戦士。
どうにも掴めないというか、寧ろ物事を正しく捉えられているのかも謎な光の戦士に、フールクはざんねんなものを見る目を向けた。
腕も胆力も見込んでいるだけに、本当に同じエレゼンか?と疑いたくもなるようなぱやぱや加減がなんとも頭の痛くなる思いである。
けれどもぱやぱやエレゼン光の戦士は、そんなフールクのことも気にせず。無表情のままに首を傾げた。
ちなみにその後の共闘は当社比でめちゃくちゃテンションぶち上げて槍をこれでもかと振り回すインティニウムの姿を見て、今度こそフールクは奴について深く考えることをやめたという。
◆ ◆ ◆ ◆
【フールクと! 3】
「フールクだ」
やほ。ひどい気軽さで呼び止められた。
ーーなぜか両手にサンドイッチ、片腕にバスケットを下げた状態で。
しかも現在地はグリダニアの街中ではなく、うつくしさと野生の魔物たちが共存する東部森林の中である。やはりピクニックに来ているつもりなのか?
無表情をゆるく破顔させてひらひら手を振る彼を、フールクはそれはもう宇宙人でも見るような目をした。
「……なんです。なにか御用がおありで?」
「ごはん食べないか。今日はなんと、てづくりだ」
すこしだけ誇らしげにしたインティニウムはバスケットをすっと差し出してきた。
「この前、リムサに行ってさ。調理師になってきた。フールクとおいしいごはん食べたくて」
それに。フールクは眉を顰める。
勿論バスケットは受け取らなかった。
「何故私に拘るのです。勝負に負けた者など放っておけばよいものを」
「ン?んー……」
インティニウムは宙を見つめた。森の中をそよぐ風が澄み切っていて、フォレスター族の身に心地よく感じる。
すこし湿った土の匂いと、木々の隙間から洩れる陽の光に、川のせせらぎ。そのどれもが馴染み深く、そして同時に尊いものだと知っている。
いのちがそこには息づいていた。目には見えずとも、森はたしかにそこで生きている。
ふっと笑みを浮かべて、目蓋を閉じた。
「なかよくなりたいって、初めは思ったんだ」
「……」
まあそんな感じの反応でしたものね。
言いたげな顔だが、フールクは口にはしなかった。
「でもこの前のあれ、なんだっけ、ぬし?と戦ったとき。あ、ダメだって思って」
「なにをです」
「勇気とかよくわからんけど、しんだら土に還るだけだよ」
フールクの瞳を見つめる。目を離さないからなとばかりに。
「フールクの示す勇気のあかしは、ヌシを身をもって倒したってグリダニアの記録に残るだけ。きみのことなにも知らないひとたちの記憶には、そのうすっぺらな紙に書かれた記録が刻まれるだけだ」
「それがなんだと。別に良いでしょう、私がどうなろうと貴方には関係がない」
「関係ないかもだけど、関係ある」
「はあ?」
「しんでしまうのはいやだ。土になったあと、俺や、ギルドの人達の記憶や記録だけに君が居座られるのはいやだ。フールクが居なくなるのは、さみしい」
たっぷり、珍しく言葉を連ねて。それきりむっすり黙り込んだかと思えば、手に持っていたサンドイッチをそのままもそもそ食べ始めた。余計口の中乾かないかというツッコミはされなかった。というかふたりはそもそも仲良しという訳でもない。
「やはり、貴方はおかしな人ですね」
「ん?」
「いえ」
「たぶんフールクもかわってるぞ。嫌いならほっておけばいいのに、ギルドに突っかかるんだから」
「…………」
ぱやぱやエレゼン、しんみりとしたフールクの流しておけば良い言葉を拾った上に剛球ストレートで投げよった。
やはりすこし苦手かもしれない。フールクは額を抑えて、溢れそうになる息はどうにか留める。
なかよくなりたいといったくせに、ぱやぱやの弊害かすこし溝が深まっているかもしれない。
しかしまあ、隣で食事を許されるくらいには、悪く思われていないのでは。
そんなことを指摘するひとも居ないので、ただふたりの間に妙な静けさが横たわるのみなのであった。
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槍術士30ジョブクエのネタバレあり
【彼のこと】
ぱち、ぱち。火が爆ぜる音を、ぼんやり聴いた。
兄の名を少しだけ貰ったチョコボが、インティニウムの髪を嘴でやさしくつまむ。腕を伸ばして撫でれば、ひとつ気遣わしげな鳴き声を上げた。
目蓋の裏。浮かぶのは、谷に吸い込まれるようにして落ちていった彼のこと。……孤独のままでなくなってしまった、友達になりたかった彼のこと。
彼がとった手段はたしかに良くなかったと思う。けれど。けれども、はたして、なにかに取り憑かれたように槍を振るう彼が取れる手段が、他にあったのだろうか。
わからない。……わからないのだ。
だって、インティニウムとフールクは友達じゃない。ただグリダニアではあまり見かけない、兄と同じシェーダー族のひとに親近感が湧いて、気になって、勝手に友達になりたいと思っていただけなのだから。
「なーう」
ちいさな仔クァールが、ぼんやりチョコボの羽の中に埋もれているインティニウムの指をちろり舐めた。慰めるみたいに。
それに、ちいさく笑みを浮かべて喉を擽ってやる。ころころころころ、ご機嫌に喉が鳴った。
ふと、以前彼に言ったことばを思い出す。
しんだら、土に還るだけ。……記録として、残るだけ。いや、彼の場合は記録が残るかも、わからないけれど。
目を伏せる。以前、交わした話を思い出した。
「しんだら、土に還るだけ……」
それは、そう思う。いまでも。
彼ひとりぶんの穴がぽっかり空いたこころが、あの時からずっとないている。
落ちていく彼へ手を伸ばせなかったことを悔いて、ないている。
そのうち、灯りが煩わしくなって腕で目を覆った。
そうすれば、落ちていった時の彼の表情がまざまざと浮かんできて。唇を軽く噛む。
忘れてやらない。絶対に、忘れてやらない。
ひとり絶望の淵へ落ちていったきみのこと。サンドイッチを、一緒に食べれなかった、きみのことを。
おれは、忘れない。ずっと、これからずっと、ちゃんと覚えてるから。
クエ、とチョコボが鳴いた。レン、と名付けた彼は、インティニウムの頭に沿うように嘴を押し付けてくる。
「……ん。ありがとう」
嘴を指先でかくと、甘えた声が出た。睫毛の長いチョコボの瞳が、もう大丈夫か、とでも言ってるみたいに煌めいている。
「だいじょうぶ。……一旦休もうか」
ふわふわもこもこのチョコボの羽に埋もれながら。そのまま、目を閉ざす。
心臓が拍動する音が聞こえた。ひとのよりもはやいそれをBGMに、インティニウムは眠る。
ゆめのなかでなら、フールクと一緒にサンドイッチを食べられるかな。
なんて、詮無いことを少しだけ願いながら。