こいだの、あいだの「サンクレッド〜」
「どうした」
「ちょっと、ここ行ったことあるかなあって。場所よくわかんなくて」
「どれ……ああ。お前、さては楽しようとチョコボで飛んでいたな?ここは地上からこのウロを抜けて行くんだ」
「む、なんでわかったんだ」
「見た目の割に適当だからな、お前」
「そっかあ〜……。でも教えてくれてありがとう、サンクレッド。また教えてね」
「また、って、何度も迷子になるつもりかお前!待て、おい!」
「あの子、ああやって言えばサンクレッドが構ってくれるって思っているのではなくて?」
「ヤ・シュトラ、そう言わないであげて。多分あの人なりに距離を縮めようとしているのよ」
「……聞こえてるぞ、お嬢さん方」
「サンクレッド〜」
「今度はなんだ。また迷子か?」
「ううん。ごはん食べないかーって、思って」
「……メシ?」
「うん。ずっと働き詰めだったみたいだから、そろそろおなか空いてないかなあって」
「いや……俺は……」
「おなか、空いてないか?」
「ああ。今はいい」
「……そっか。なら、サンドイッチ作ったの置いておくな。おなかすいたら食べてくれるとうれしい」
「は?……わざわざ作ったのか?」
「うん。あ、おれの作ったやつのついでだから、そんなに量ないんだけど。ごめんな」
「それは、いや。作ってもらっただけでありがたいが」
「ん。ふふ、ちゃんとごはん食べないとだめだぞ」
「わかっているさ。……ありがとうな」
「ん!」
「パパリモせんせー」
「なんだ。というか、先生と呼ぶのはやめてくれって前から言ってるだろう」
「へへ。せんせ、似合うと思うけどなあ。あのねえ」
「ああ」
「えっと、サ……あるひとと一緒に居ると胸がなんだかぽかぽかするんだけど、これ、病気なのかなって聞こうと思って」
「……………………うーん」
「パパリモせんせ?どうしたんだ、頭抱えて。いたいのか……ケアルするか?」
「しなくていい。……いいが……苦みばしったコーヒーが欲しくなる……」
「こーひー。……作れたかな、ちょっと厨房借りてくる!」
「いやいい、行かなくて。キミがサンクレッドを、ねえ……」
「えっ。サンクレッドって言ってないのにどうしてわかったんだ?すごいなあ」
「いやキミそれ、素か?素なんだろうな……」
「?」
「その………………胸が暖かくなるのは…………本人に聞くといい。きっとすぐにとはいかないが、いずれ答えが得られるさ」
「そっかあ。じゃあそうしとく。ありがとうパパリモせんせー!今度お礼にお茶しよ!」
「あー、僕のことはいい……聞いていないか。さて。それで」
「どうするつもりだい?色男」
「どうも、こうも……」
「──……どうしたものかな」
「あのさあ〜サンクレッド」
「ああ」
「めっちゃ見てない?あのコ」
「……ああ……」
「ふふ、わかりやすいなあ〜。アタシでもわかるって、相当だよ」
「いや……すまん」
「いいよ。可愛いじゃん」
「イダ、よく見ろ。あいつエレゼンの大男だぞ。どこに可愛いところがあるんだ」
「えー?可愛いよ。恋してるコは皆キラキラして見えない?」
「……………………」
「あれ?反論は?おーいサンクレッド〜」
「勘弁してくれ……」
「ジッ……(ふたりのテーブルに並んだお菓子を観察している自機)」
「サンクレッド〜」
「どうし……なんだこれは」
「おやつ。よかったら食べて」
「あ、ああ……」
「(にこ!)」
「?」
好みの菓子を把握したいが為に観察してた自機
「オルシュファンと居ると、なんだか胸があったかくなるなあ」
「む、そうか!私もお前と居る時間はとても心安らぐ。フフ……同じだな!」
「そうだねえ。でも、うーん」
「どうした友よ。なにか気になることでも?」
「あのな。オルシュファンといる時のあったかさと、サンクレッドと居る時のぽかぽかはちょっと違う気がして」
「ふむ」
「なんでだろうなあ」
「それは、もしや──」
「?これがなにかわかるのか、オルシュファン」
「ああ!それはきっと──イイ!筋肉を目にした時の高揚に間違いない!そのサンクレッドなる人物は、私と同等、或いは凌ぐほどのイイ筋肉なのだろう……!」
「うーん遠ざかった気がする……」
「フフフ。だがな、友よ。その正体は恐らく、お前自身で答えを見つけねばならんものだぞ」
「そうなのか」
「うむ。いつかお前がその正体に辿り着いた時は、また話を聞かせてくれ。きっと一等にお前が輝いて見えることだろうからなっ!」
「……うーん?えっと、わかったらまた話に来るよ。やくそくする」
「ああ!その日を楽しみにしているぞ!」
「ミンフィリア!おつかれさまー」
「あら。ふふ、お帰りなさい。今日はどうだったの?」
「ん。なかなかにいい成果もらったと思う。あっ、そうだ!これ、食べる?」
「うん?これ、なにかしら……ケーキ?」
「そう。教えてもらって作ったんだ。みんなで食べてくれたらうれしい」
「もちろん!少し早いけど、皆を集めて食べましょうか。たまにはいいわよね」
「ん!いいと思う。あ、でも、サンクレッド……とか、あんまし甘いの好きくないひとはこっち」
「えっ。わざわざこれも作ったの?」
「うん。口に合えばいいんだけど」
「そう……」
「?ミンフィリア、そんな嬉しそうな顔してどうしたんだ?」
「いいえ。あの人も罪な人ねって、思っていただけよ」
「んん?」
「さーて!そろそろお茶にしましょうか。こんなに美味しそうなんだもの、早く食べないと失礼だわ」
「う、うん……?」
「珍しいな。これだけ集まって茶会だなんて」
「本日の業務はひとまず、終了とのこと……。なんでも、皆に差し入れを持っていらしたからと」
「そうか。……ん、美味いな、これ」
「貴方にと用意したものだそうですよ」
「ンッ!……ゴホッ、な、なんて?」
「貴方に、と……彼が手ずから調理したそうです。我らが口にするこれらにも、労いの意はありましょうが……」
「…………」
「恐らく貴方のその一切れほど、想いが篭もったものはないでしょう」
「……さてな」
グリダニアに用があって訪れたサンクレッド、チョコボにもたれかかって森の中で寝こける自機を見かける
ふっとこころに浮かぶ何かに気づかないふりをして、起きるまでの間、そっと上着をかけて傍に佇む
「ん、サンクレッド?」
「おはよう。……よく寝てたな」
「んー……森のなか、落ち着くんだ」
「魔物どもがうろつく中でよく寝れるな」
「近くに来たらわかるから大丈夫だよ」
「にしても無防備だろう」
「そうかなあ」
「俺が来ても気づかなかったのにか?」
「うん?……ほんとだ。でもサンクレッド、気配消すのうまいし。気づいてても、きみだから別に……」
「……お前なあ」
「?」
「いや。なんでもない。風邪ひくなよ」
「ん、ありがと。サンクレッドも道中気をつけてね」
「ああ」
颯爽と上着回収して去っていくサンクレッド
上着掛けられてたのにそこで気づいて、ほんのりこころ温まる自機
「たとえばさー」
「うん」
「サンクレッドが女の人に囲まれてるの見てどう思う?」
「うん?……んー、人気だなあって思う」
「面白くないとかはない?」
「ないなあ」
「そっかあー」
後ろで見守る女子に✕印するイダちゃん
やれやれ首を振る女子組に、不思議そうな自機
「でも、最近はちょっと胸がちくちくする」
ふと零した呟きは、そんな女子達には聞かれていないのだった
石の家で居眠りしてるサンクレッドを見つけた自機
ふにふにほっぺたをつついてみて、起きないのを確認して、へらっと笑ってみる
「おつかれさま」
こっそりこっそり、囁いて。背中を労るみたくすこし撫でてから、去ってく自機
ずっと起きてたサンクレッド、むっくり起き出していたたまれない顔をしながらため息を吐き出す
顔見知りのひとに絡まれて、勧められるまま酒をぐびぐび飲んで酔った自機
ソファでなにやら考え込んでたサンクレッドにとことこ向かっていって、なにを思ったのかそのままサンクレッドの膝を枕にソファでくうくう寝出すの巻
サンクレッド選手、これには固まって動けません!周りはにこにこにやにやによによ見守る体勢でいます!英雄に憧れを抱くホーリーボルダー選手もやさしい眼差しでいます!
もう観念して寝てるのをいいことに自機の髪をいじくりだしましたサンクレッド選手!
「冒険者さんは、サンクレッドさんのことがだいすきなんでっすね!」
「おれが?」
「はい!この前も、そのまた前も、サンクレッドさんのこと目で追ってまっしたし!それに、ふふ」
「……?なんでそんなにうれしそうなんだ?おれ、サンクレッドだけじゃなくてタタルのこともすきだぞ」
「ええっ、そうなのでっす!?はわわ……!う、嬉しいでっす!私も冒険者さんのこと、すきでっすよ!」
「んふふ。うれしーなあ」
「お揃いでっすね!」
「うん。おそろい」
「……だいすきは、サンクレッドとも、おそろいなのかな」
「シドだ!シドー!」
「おっ、元気がいいな。お疲れさん。暁の任務中か?」
「今日はおふ。だからピクニックに来たんだ」
「……ピクニックか。ここでか?」
「そう。サンドイッチと、おみやげを持ってきたから。シドもいく?」
「いや、俺は遠慮しておく。俺の分まであいつによろしく伝えといてくれ」
「うん!あ、シドー!」
「どうした?忘れ物か」
「すきだぞー!」
「……?お、おう……?」
「ラハ、おつかれさまー。これな、おみやげ!あと、これはおれが食べるやつだけどサンドイッチだ!」
「いつ起きるだろうなあ、ラハ。起きたらいっぱい話そうな。なんでもない話も、冒険の話も。きっとたのしいよ」
「あっ、そうだ。おれ、あんまり話せなかったけど、ラハのことすきだぞ!」
「……うーん。なんだろうなあ。みんなに思うすきと、たったひとりに思うすきがちょっと違う気がする」
「きみなら知ってるのかな。おれじゃわかんなくて」
「あっ、そうだ。シドがな、よろしくって言ってたよ。起きたらシドと、ビッグス、ウェッジとも、一緒にサンドイッチ食べようなー」
「だから」
「だから、絶対また会おうね。ラハ」
「あ。サンクレッド〜」
「どうした。今資料を纏めているから、少し時間を……」
「おれね。サンクレッドのことすきだよ」
「空け……て、…………。いま、なんて?」
「おれ!サンクレッド!すき!」
「そんな大声で言うな!い、いまか?今じゃなきゃダメだったのか?お前」
「ん?だって、言っとかないと。はやめに」
「どうして」
「すきははやめに言っとかなきゃ後悔するぞって、とーさんが言ってたから」
「そう…………そうか………はあ」
「すきだぞー、サンクレッド」
「それはわかったって」
「うん。ふふ」
「……なんだ」
「ううん。仲間でも、友達でも、すきって言うのはうれしーなって思って」
「……………………………ん?」
「それじゃ、おれもう行くな。資料の整理がんばって!」
「ん??いや、待て、おい!お前ッ……お前が俺に向けてるのは明らかに違う方だろうッ!!!!!」
「そう来たかあ、て感じだよねえ〜」
「まあ……仕方ないんじゃないかな。今まで彼が言及しなかったのが悪い」
「聞こえてるぞそこの二人」
「貴方、ちょっといい?」
「ヤ・シュトラ。なあに」
「そこの本を取って欲しいの。お願い出来るかしら?」
「うん。いいよー。……はい。これで大丈夫?」
「ええ。ありがとう」
「なんていう本なんだ?それ」
「エーテル学の論文をまとめた本よ。気になる?」
「たぶんわからないやつなのはわかる……」
「ふふ、そう。でもね、興味深いことが書かれているのよ」
「そうなの?」
「ええ。大まかに言ってしまえば──エーテルに愛は介在しえるのか、そういう内容よ」
「あい」
「ええ。愛」
「どういう……?」
「例えば、貴方と私が愛し合ったとする。そこで育まれた愛という情は、私たちの身体を巡るエーテルのひとかけらに含まれるのか。そういう話よ」
「あいとか、そういう目に見えない感情は、エーテルに含まれないんじゃないのか」
「そう言われているわね」
「なら、どうして」
「さあ。果てのない愛情には力がある、とこの人は思っていたのかもしれないわね。ありえるはずの無い奇跡だって、そこに情がなければ起きえないでしょうから」
「あい……か」
チョコボにそうっと触る。嘴を寄せて、甘えてきてくれる。これはきっと愛。……親愛。
しゃっきりピンと立つアルフィノの背を、そっと支えたいと思う。これもきっと、愛。……友愛。
暁のみんなを守りたいと、思う気持ち。これもたぶんそう。親愛のような、友愛のような。そのあわい。
ではサンクレッドに対してはどうだろう。
だいすきだ、と。思ったのだから、どちらかに当てはまらなければならない。
ならない、けれど。どちらもが違う気がする。
……これはいったい、なんなのだろう。
「すきって、もしかして仲間と友達だけじゃなかったりする?」
「……いきなりどうしたんだ旦那」
「みんな多分、教えてくれないから。リオルなら知ってるかな、って」
「ははあ。なるほどな」
「へんな顔してる」
「いや〜、ついに英雄殿にも霊二月が来たってとこだな。感慨深いもんでつい、さ」
「霊二月?……どうして?」
「おっと。違うのか?アンタの言うすきの種類にゃ、もうアレしか無いだろう」
「あれって」
「そらァ──あいしてる、って奴さ」
暁がひとえに頼りにする英雄そのひとが、石の家で居眠りしているとは珍しい。
サンクレッドはぱちり、瞬きをした。それから、そっとふかふかの毛布を持ってきて掛けてやる。
まるでこの世の全てが平和だ、と言わんばかりに寝こけている姿は、なぜだか心安らいだ。
なんとはなしに隣に座る。こうして見れば、世間から英雄と呼ばれるまでに至った青年だとはとても思えない。
ねぎらいを込めて、そっと頭を撫でてやる。
少し身じろぐだけで、彼はやはり起きやしなかった。
「サンクレッド、おはよ」
「……ん……おはよう」
「おれね」
「ああ……」
「サンクレッドのこと、たぶん、だいすきなんだと思う」
「ああ……ん?なん、なんだって」
「あいしてるって言った方がつたわる?」
「……いや、それは。俺は……俺、は」
「んん……つたえたかっただけ……だから……気にしな………………むにゃ」
「なぜいまのタイミングで寝るんだお前」
「くー……くー…………」
「……はあ」
「そろそろ……俺も結論を出さなくちゃならないか」
「それで、サンクレッド」
「ああ」
「結論は出たのかしら。見ていて飽きないのだけれど、このままではあまりに不憫よ、彼」
「わかってる。……わかってるさ」
「本当に?」
「勿論。まさか、ヤ・シュトラが口を出してくるとは思わなかったが」
「あら。ミンフィリアが良かった?」
「そうは言ってないだろ。ったく……」
「フフ。上手くいくことを願ってるわ」
「俺の結論がか?」
「いいえ。彼の淡い恋路が」
「……本っ当に、あんたはつくづく敵に回したくないな」
「褒め言葉として受け取っておくわ」
ふと。なんとなく、思う。
彼がミンフィリアを見る時の目。それは、果たして仲間や、自分に向ける時の色とおんなじだったろうか。
親愛。友愛。……恋愛。
サンクレッドがミンフィリアという女性を見る時の、いっとうにやさしい眼差しは、果たしてどれにカテゴライズされるのだろう。
「道端で倒れていたから何かと思ったが……風邪だね」
「かぜ」
「まあ、キミはここ最近忙しかったから仕方ないだろう。滋養にいいものを食べて安静にしているんだよ」
「じよう……ごはん……?さ、サンドイッチ……」
「風邪引いた時にサンドイッチはどうなのかなあ。喉詰まらない?」
「好物なのはいいが、身体が弱ってまともに動かない時に食べるのはおすすめしない。食べるのならフルメンティ辺りがいいだろうが……」
(しょっぱい顔をする自機)
「不安だなあ……まあ、何を食べるかは任せるよ。お大事にしてくれ」
「早く元気になるんだよー!」
「ありがと……パパリモせんせ、イダ……」
ふと、目を覚ます。
どうやら二人を見送ってすぐに眠ってしまっていたようだ。
ごはんを食べなければ、と身を起こそうとして、うまく力が入らずにとしゃっとベッドに逆戻りになってしまった。
(どうしようかなあ)
少し快復してくるまでは寝てよう。再びうつらうつらしだした意識でそう思い、瞼を閉ざす。
少しして。かたたん、とんとん。小気味のいい音が、どこからかする。
家に居た頃、かーさんがキッチンに立って料理をしている時の音に似たそれに、なんだか安心して。口元が綻ぶ。
少しして、仄かに食欲をそそるいい匂いが鼻を擽った。ことん、何かを置いた音を立てた後に、やわらかい手つきで髪を撫でた。
ほんのり火照った身体には心地よい、少し冷たい手に。へにゃと笑む。
「かーさん……」
夢見心地に呟けば。
ふは、と息の漏れる声がする。
「誰がかーさんだ」
こつん。額をひとつ小突いて溢れた言葉。その声には、覚えがある。
えっ、と慌てて起き上がった。しかしそこには既に誰も居ない。
ほこほこ湯気を立てたダガースープと、小さな手紙がちょこんとサイドチェストに載っていた。ただそれだけだった。
「おかえりなさい。元気になったのね……!良かった、心配していたのよ」
「ミンフィリア。ありがと、もう元気」
「そう、なら安心ね。とはいえ病み上がりだから、少しの間仕事を減らさせて頂きます。いいわね?」
「う、うん。わかった」
「よろしい!ただ、蛮神問題が絡んできた時は、影響を受けない貴方にどうしても話がいってしまうの。ごめんなさいね」
「いいよ。おれしかできないことなら、やりたいし。ミンフィリアは気にしなくていい」
「……ありがとう。それじゃ、今日は何を任せようかしら……軽いもので……」
「あ。ミンフィリア。そういえば、サンクレッドが宿に来てくれたみたいなんだけど。ミンフィリアが言ってくれたんだろ?」
「え」
「ありがとうな。わざわざ」
「……いいえ?」
「へへ。サンクレッドにもおいしかったーって、伝えにいかなきゃなあ」
(ミンフィリアが言わないとわざわざ宿に見舞いに来ないだろうと思っている自機
サンクレッドが行ったの?任務してた筈なのにいつの間に?とびっくりしているミンフィリア)
「オルシュファーン。こんにちは」
「ああ、よく来たな友よ!元気が良くて何よりだ!お前がレヴナンツトールで倒れたと聞いて、私はいてもたってもいられなかったぞっ!」
「クルザスとウルダハをなんとなく行き来してたら風邪引いたみたい。オルシュファンはまねしちゃだめだぞ」
「はっはっは!勿論だ、用がある際には必ず適したイイ!肉体で出向かうとしよう!
それに、お前は常に忙しい身であるからな。各地を飛び回るのもまた仕方ないことといえる。もう体調は問題ないのか?」
「うん。このとおり、いっぱいげんき」
「そうか!ならば良かった。それで」
「うん」
「お前が先までに言っていた答えは出たのか?それともまた別の何かだろうか」
「ううーん。……答えは出た、といえば、出たけど……出てないといえば出てない……?」
「なんと……やはり難解な問題に立ち向かっているのだな。だがお前ならば必ず、答えにたどり着ける!私はそう、信じているぞ!」
「だといいなあ」
「大丈夫だとも。私が保証しよう」
「そっか。なら安心だ」
「そうとも」
「ふふ。ありがとう、オルシュファン。おれ、もうちょっとがんばってみるよ」
「ああ──良い報告が聞けるように、私はここでお前をずっと待っているからな!」
「ん!」
「貴方、今とっても輝いてるわね」
「オルシュファンにも言われた。……そんなにかな」
「ええ。とっても。そういえば相手から答えはもらったの?」
「えっ。こ、こいのこと、フ・ラミンにもわかるのか?すごいなあ……」
「まあ、ふふ。あの子のお母さんをしていたから、少しはね。それでどうなのかしら」
「うーん、まだもらってない」
「そうなの」
「うん。でも、あいつには大事なひとが他に居るから。だから答えはいつでもいいし、聞かなくてもいいんだ」
「それは」
「こいって、何したらいいのかよくわからなくて。傍に居るだけでしあわせならもうそれでいいかなあってなってる」
「それでいいの?ほんとうに?」
「ん。たまに一緒に日向ぼっこ出来れば、きっとしあわせだ」
「そう……」
「わ、わ!どうしたんだ、急に撫でたりして!」
「なんでもないの。ただ、可愛らしく思って」
「おれを?」
「そう。貴方を」
「そっか。……満足してるなら、それでいっかなあ」
やさしいぬくもりが、椅子に腰掛けた自機の、普段は届かない頭を慣れた手つきで撫でていく。それを享受しながら。
ふと彼は、自分をどういう気持ちで撫でてきたのだろう、と思った。
答えなんてついぞわからなかったけれど。
なにか、ミンフィリアに向けるものとは全く別の気持ちを、ひとりの青年に向けだしてきていることには気づいていた。
彼女に向いた名前の付けようもない、けれど大切に大切に成長を見守っていたいことだけは確かなまるで父親にも似た感情とは違って。
ランタンに灯った火のような、触れればほんのり暖かくなる気持ちは、なんと呼称すれば良いのだろうか。
サンクレッドにはわからない。……わからない、ふりをしたかった。
けれどもそのランタンの灯火は、彼と交流を果たすたびに少しずつ少しずつ明るく、大きくなっていく。
この感情に、名前を付けてしまえば。きっと後戻りは出来ない。
それだけが確かだったから。ずっと名前を付けずに、見て見ぬふりをしていた。
けれども、もう。
そんな小手先が通じないほどに、気持ちが肥大してきていた。
「ウリエンジェー。お茶、ミンフィリアとフ・ラミンからの差し入れ!」
「ありがとうございます……。では、そこへ。丁度、一息つこうと思っていた所でした」
「お菓子あるけどたべるか?」
「よろしけば、頂けますか……。これも、貴方手ずから作ったものでしょうか」
「うん。うまく作れたから、お裾分け」
「そうですか……それは僥倖というもの」
「ふふ。おいしい?」
「ええ。とても」
「よかった。つかれた時はあまいものがいいっていうもんな」
「お心遣い、痛み入ります……。貴方は共に食されないのですか?」
「ん?おれ、いっぱい食べたからなあ。いいんだ」
「そうでしたか。過ぎたことを……」
「ううん。それに、みんなに食べてほしかったから」
にこにこ笑いながら口にする彼に、ウリエンジェもつられて、そっと薄笑みを返した。
「……少し、よろしいでしょうか」
「ん?」
「貴方は……とてもお優しい。けれどそれ故に、なにか、大切なものを取りこぼされることがあるのでは、と。不躾ながら、思えてならないのです……」
「取りこぼす……」
「ええ。──どうか、この先貴方に悔いがないように。私が言うのもおかしいとは、思うのですが……」
「ううん。ありがとう、ウリエンジェ」
それきり。会話はなんとはなしに途切れて、静かな時間が流れていく。
守れなかったひとのことを思い出す。砂の家でたくさんの仲間が倒れ伏していた、あの日を思い返す。
いつもこの手が届くとは限らない。大事な人だって、守りきることができないかもしれない。
目を伏せる。
「……こころに、留めとくね」
自らすきだ、と告白した彼の姿が、ゆらゆらと脳裏に閃いた。
誰かを喪う日なんて来なければいい。そう、思うのに。
いつだって現実は不条理で、留まるのを許してはくれないのだ。
「話がある」
長らく顔を合わせていなかったサンクレッドに呼び出されたのは、任務を終えて、石の家に帰還したタイミングだった。
ぱち、ぱち。小首を傾げながら目を瞬かせる青年に、サンクレッドは笑みを零す。
「時間はあるか?上のバーででも、と思ったんだが」
「っ、うん!ある!えっと、ミンフィリアに報告だけして来てもいい?」
「ああ。待ってる」
綻んだ目元はなんだかやさしい。それに青年は嬉しくなって、へにゃへにゃ笑った。
ミンフィリアに報告がてら、上で会う約束をしていることまで零せば、彼女はぱあっと目を輝かせた。「ついにね!おめでとう!」なんて言ってくるものだから不思議ではあったけれど、彼女が嬉しいことは青年にも嬉しいことであったから、へにゃへにゃな顔のまま「ありがとー!」と返した。
「サンクレッドのこと、よろしくね」
「?うん……?」
よくわからないまま頷くと、彼女は花が咲いたみたいに笑った。
るんるんで上のバーに向かう途中、アルフィノに出会した。少年の前で見せる凛とした姿とは打って変わって、随分と浮き足立った英雄の姿に目を丸くしている。
「どうかしたのかい?君がそんなにも浮ついているなんて珍しいね」
「うん。ふふ、うれしいことあって」
「それは何よりだ。君がそうしていると、私まで嬉しくなってくるようだよ」
仄かに微笑んでアルフィノは言った。それがなんだか祝福みたいで、更に嬉しくなって青年もゆるく目元を綻ばせる。
「ありがとう。いってくるね」
「ああ。行っておいで」
あの日。砂の家で灯りの消えた日から導きとなってくれた彼へ、手を振って。青年はバーへの扉を意気揚々と開けた。
サンクレッドは、カウンターの奥まった席に腰掛けていた。その手元にはロックグラスがあり、仄かに彼からも果実酒の匂いが香ってきている。
進められた訳でもないが、その隣に腰掛けた。バーテンダーに目で注文を尋ねられたのを、彼とおんなじもの、と返す。
からん、とグラスの氷が溶ける音と、シェイカーを振る音だけがやけに響いて聞こえる。
サンクレッドは、青年が隣に来たのに気づいているだろうに、どこか遠くを見つめているような目をしていた。
「お前は」
「うん」
「……俺のことを好き、と言ったよな」
「ん。言った」
やがて口を開いた彼の声に、さほど酔っている気配は感じられない。
サンクレッドの静かな問いに迷いもなく頷く青年の姿を見て、ふっと忍び笑いを零す。
「少しは躊躇えよ」
「どうして?」
「男同士だろう。もう少しこう、抵抗とかはないのか」
「たまたますきになったのがサンクレッドなだけで、抵抗とかは特にないなあ」
「……お前な」
はあー……と項垂れながら深く溜息をつかれる意味がわからない。髪の隙間から覗く耳が真っ赤なのが、ふと目に付いた。
「俺は」
エオルゼアを救った英雄殿と、暁の仲間がその一角で静かに話をしていることなど知りもしないで、賑わうバーのなか。
だいすきな彼の声が、いっとう特別に響いて聴こえて。先程のサンクレッドのように、ほのかな笑みをこぼす。
「……俺は、今すぐお前の好意に応えることは出来ない」
「うん」
なんとなく、わかっていた。
「だが。今回行われる祝賀会が終わって、一段落ついたら。必ずお前に答えを出すと約束する」
「……うん?」
次に続いた彼の言葉に首を傾げる。その答えは予想外だった。
「それ、ふられたの?ふられてないの?」
「どっちでもない。保留だ」
「わー……さきのばしだ」
「すまない」
申し訳なさそうに眉を下げた彼に。
そういう根っこがまじめなところもたぶんすきなんだよなあ、とこころの内で、ひとりごちる。
そのタイミングで、素知らぬ顔のバーテンダーがグラスを差し出してきた。受け取ってひとくちだけ舐めてみる。あまり呑んだことのない種類の酒だが、青年のすきな味だった。
「いーよ。待ってる」
「……ありがとう。わがままを言っているのはわかっているんだ」
「ううん。おれも、サンクレッドが答えくれるって思ってなかったから、うれしい」
グラスの水滴をなぞる。ひんやり冷たいのが、少しだけ体温の上がったいまは心地好い。
「すきだよ、サンクレッド」
なんとなく、囁いてみる。すると擽ったそうに笑いながら、「知ってるよ」と静かに返された。
「どうした。酔ったのか?一口舐めたくらいで」
「言いたくなったんだ」
「そうかい。お前、本当に読めない奴だよ」
「ふふ。ほめられた」
「褒めては……まあいいか」
穏やかに、緩やかに。時間は過ぎていく。
甘いようで爽やかな空気が、ふたりを包んでいた。
サンクレッドは、彼に抱くひそかな感情にまだ名前を付けた訳では無い。
青年もいまだ、こいというものをよくわかっている訳では無い。
けれどきっと、いつしかわかる時が来るだろう。そう思えた。
ウルダハにて執り行われる戦勝祝賀会。
ウリエンジェの大切なひとを喪ったばかりのタイミングで開催されるそれに、一抹の不安を抱かせながら。
それでもこの時、ふたりはいっときの間こころ通わせていたのは、確かだった。