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    isstariff14

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    ※自機アゼム概念の容姿が含まれています
    エメトセルクとアゼム

    【χαμένο παιδί】新しきアゼムが早速行方をくらませた。
    強烈な頭痛を引き起こす知らせをエメトセルクの耳に届けたのは他でもない、先代アゼムその人であった。
    アゼムの座に推挙したのも、アーモロートへ連れてきたのも他ならぬこの方なのに、何をどうすれば見失うというのだろうか。
    元々刻まれがちな眉間の皺を更に深くして、エメトセルクは溜息混じりにならぬよう極力穏やかに問い返す。

    「……それでなぜ、わたくしに行方をお尋ねになるのですか」

    彼女が何をやらせたいかなど知れたことなので今更問うても仕方のないことなのだが、ほんのささやかな抵抗だ。白いローブを纏った先代アゼム――ヴェーネスは口許を美しく綻ばせて微笑む。

    「貴方の類希たぐいまれなる目をひととき貸してほしいのです、エメトセルク。私でも居場所の見当はある程度つきますが、それぞれの場所をひとつずつ巡っては時間が掛かりすぎてしまいます」

    確かに招集された委員会が始まるまでにはあまり猶予はない。何ともまあ、尤もらしい理由があったものだ。

    「しかし、私は新しきアゼムを視たことがありません。色が分からねば追うことは――」

    言葉の途中でヴェーネスが懐からいそいそと何かを取り出す。エメトセルクは開いていた口をぱた、と閉じた。厭な予感がする。

    「彼女の創造物です。これを視て追うことは難しいですか?」

    にっこり。
    手のひらに乗せて差し出される一粒の宝石は、魂の色に似るほど過剰なエーテルが詰まっていて、どの角度からどう視てもこの追跡の他に用途のないことが明らかだった。こうなることを予見してヴェーネスが新しきアゼムに創らせておいたのだろう。
    そんな無駄な物を唯々諾々と、言われるがまま創るな。姿を見たこともない同僚に呆れ返るエメトセルクをよそに、ヴェーネスはそれに、と続けた。

    「あの子、アーモロートに親しい知り合いがいないのです。どうか仲良くしてあげてください。お願いします、エメトセルク」

    追跡云々は当然の如く建前で、ヴェーネスが本当に頼みたかったことはつまるところ、それなのだろう。
    エメトセルクは今度こそ溜息を抑えきれず、呻くように答えた。

    「……分かりました……」


    握らされた宝石によく似た色は、アニドラスの保管庫の片隅へと続いていた。
    数々のイデアが、議題が、論じ尽くされて仕舞われ、埃を被ったその場所に一体何の用事があるというのか。しかも、就任後初めての委員会間際に。どんな言い訳を聞いても理解出来る気がしない。やれやれと頭を振ってエメトセルクは重い扉に手を掛ける。

    薄明かりの照らすその場所を思うままに散らかして、当代アゼムらしき女はそこに座り込んでいた。その姿を認めてエメトセルクはぎょっとする。
    扉が開いたことで来訪者に気がついたのか、遮るものが一つもない素顔がエメトセルクに向けられた。

    「……やあ、どちらさま?……あっ!もしかして、もう時間か!申し訳ない、つい夢中になっていて」

    何とも暢気な様子の女を初対面で怒鳴りつける訳にもいかず、エメトセルクは暫し言葉を喉につかえさせ、

    「〜〜、お前!一体どういう了見だ!」

    やはり穏当な話し合いとはいえない声量で最初の一言を発した。

    「仮面はともかく、フードまで外すな!」

    いかに人気ひとけのない場所とはいえ、ここは個人の住居などではなく歴とした公の機関なのだ。そこで仮面もフードも外して個を曝け出すなど、秩序の守護者にして人民の代表たる十四人委員会の一員がすべき行いでは決してない。

    「良いじゃないか。こんなところ、誰も来ないよ」

    エメトセルクの真っ当な苦言は全く響いていないようである。それに、と師と良く似た調子で女は続けた。

    「ここにはこんなに未知と知識が満ちているんだぞ、時間いっぱい、視界いっぱいに吸い込まなくちゃ損だろう!」

    未熟な子供のように目を輝かせながら、両手を広げ謎の理論を得意げに唱える女に、仮面の上から眉間を押さえてエメトセルクは首を振った。

    「…………分かった、よく分かった。お前が理解し難いばかだということは……」
    「あっはっは、ひどいなぁ」

    まったく酷いと思っていないであろう調子で、当代のアゼムはけらけらと笑った。


    それから暫く、アゼムは事あるごとにふらりと消えては例の保管庫に居座っていた。
    エメトセルクはあれ以降すっかり彼女の世話係か保護者かなにかだと思われており、その度探しに行かされる。
    何事も、最初が肝心である。そうは思っても後悔は先に立たないものだ。

    気の進まぬ重い足を引きずって、もういちいち魂の色を追うこともなく、いつものように保管庫の扉を開く。やはりそこにいたアゼムはやってきたエメトセルクを見てやあ、なんてのんびりと声をかけて寄越した。

    「……あのな、アゼム。ここにあるのはおまえの役割には関係のない知識ばかりだろう。無駄なことは止めて、使命つとめを果たせ。今日もお前が行方知れずの間、何人か訪ねてきていたぞ。毎度毎度探しに来る私の手間も考えろ」

    ここしばらくの不満と、何より新しきアゼムへの忠言のつもりで、エメトセルクは彼女の前に小言を並べた。彼女は間違いなく――やや癪ではあるが――アゼムに相応しく、それに見合った能力も十分持ち合わせているのだ。だからこそ、もう少し他人の目というものを気にしてほしい。
    答えの代わりにくすくすと笑い声がさざなみのように静寂を揺らして、エメトセルクは面食らった。
    不満げにむくれてみせるか、それとも叱られた子供のようなしおらしい態度をとるか、てっきりそんなものが返ってくるとばかり思っていたのに。

    「おや、おや、おや。関係がない、無駄、とは。“エメトセルク”ともあろうお方が随分と短絡的なものの考え方をなさるのだね」

    相も変わらず素顔を晒したままのアゼムはその薄い唇に笑みこそはりつけていたものの、濃紫の瞳は薄暗がりで炯々と光ったままちっとも笑ってなどいなかった。

    「ものを知らずに、一体何を見聞きすると言うんだい?そこにある物事を理解しないまま“解決”したとして、本当にそれは解決したと言えるのかい。“アゼム”が果たすべき役割とは、そういうものか?」

    どうやらエメトセルクの言葉は彼女アゼムなりの矜持をいたく刺激したらしい。流石に言い方が悪かった。エメトセルクだって、彼女の勉強熱心なところは悪くないと思っているのだ――ただ、時と場所を選んでもらいたいだけで。
    謝るべきかと口を開きかけたエメトセルクに、アゼムは陽だまりのように笑って、ぱっと手を広げた。

    「なーんてね。いや、捲し立てて悪かった。今のは建前さ、タテマエ。正直なところ、半分以上は私自身の好奇心を満たすためだ。良くないことだと分かっているよ」

    彼女は立ち上がってぱたぱたとローブの裾をはたき、クリスタルを足元からひとつ取り上げる。散らかし放題になっていた他のクリスタルは事前に何ぞ術でもかけてあったのだろうか、ふわりふわりと浮いては元の場所へ戻っていくようだ。

    「でもね、ハーデス。きみは才知に溢れた人だからピンとこないかもしれないけれど、私のような愚か者はこうやってこそこそ知識を蓄えておかないと、あっという間に大切な物事を見落としてしまうんだよ」
    「……お前、私がばかと言ったのを実は根に持っているだろう」
    「ははは、根に持ってなんかいない。きみの言うことはいつだって正しいさ」

    ぽい、と空にクリスタルを放り投げ、帰っていく一条の煌めきを見つめながらアゼムはようやくフードを被る。

    「現に今だって、私はこれに夢中で何人かの善き人を困らせたのだろう?別に放っておいたってきみには何の影響もないのに、その人たちのために私を呼び戻しに来てくれる、そんな正しく優しいきみを、私はとても好ましいと思っているよ。……いつもありがとう」

    彼女はその真摯な濃紫を仮面で覆い隠して、すれ違いざまポン、とエメトセルクの肩を叩き保管庫を出ていく。のんきな声で「そういうわけで、戸締まりよろしく」なんて要らぬ一言を付け加えながら。
    暫し絶句した後、我に返ったエメトセルクは長い廊下をのんびり歩くその背に向かって叫んだ。

    「――お前に好まれていようが、まったく!嬉しくない!おい、待て、アゼム!」

    応えはなく、代わりにただひらひらと白い手だけが適当に振られる。
    エメトセルクは深い深い溜息をひとつついて、指を鳴らした。
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