眠れぬ君へ花の香りを「フランム」
微かな物音に混じり、自分を呼ぶ声がした。私は手にしていた本から顔を上げ、声の方へ振り向く。
「起こしたかね」
少し眠そうな目を瞬きさせ、その男はツノをゆっくり前へ傾けた。起きたのならそのまま自分の学園へ帰れと言いたいところなのだが、夜もだいぶ更けた。どんなに小さな物音も、誰かの眠りを妨げてしまいそうでどうにもはばかれる。
「眠れないのか」
「明日までに目を通しておきたい資料があってね」
「ほう、その手に持つ本を?見たところ、古い小説のようだが」
ベッドから抜け出した彼は、私の後ろに立って手元を覗き込んだ。私はため息をつきながら、隠すように本を一度閉じる。
「今に始まったことじゃない。字を見ていれば、そのうち嫌でも眠くなるのだ。卿は先に休んでいたまえ」
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