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    suzunoyumek

    @suzunoyumek

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    suzunoyumek

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    出られない部屋

    「ここか」
    「ああ、そーみたいだな」
    オレとシオンは目の前にそびえ立つ無機質な建物を見上げた。

    ─入った人間が帰って来ない建物がある。

    連盟を通じてうちに調査依頼が来たのはつい先日のことだった。センセとギーは他の案件に対応中で、
    それが終わってから合流することになった。
    「結界が張られている様子はないな」
    「びっくりするくらいフツーってか、何も感じなくて逆にこえーな」
    「ふ、怖いのなら俺一人で充分だが?」
    「今のは比喩だろ!ってか、一人はさすがにあぶねーって」
    「ふん、精々足を引っ張るなよ」
    「オマエこそイキって先走るんじゃねーぞ」
    入る前からこんな調子で先行き不安でしかない。いざとなったら協力するとは思うけど。
    シオンが慎重に扉を押した。鍵がかかってる様子はなく、簡単に開く。
    「触れても何も異常はないな。こんなところに入るなんて操られているのかと思ったが……」
    「肝試し感覚で来る奴もいるんじゃねーの?」
    「愚かとしか言いようがないな」
    「まあ、実際のところはわかんねーし、入ったらなんかあるかもしれねー、気を付けろよ」
    「別にお前に言われなくてもわかってる」
    無機質な扉を開いて現れた空間はまた無機質な部屋だった。玄関があるわけではなく地続きに真っ白な空間が広がっていた。真ん中にぽつんと扉があるのみだ。違和感を上げるとしたら─
    「"手を繋がないと出られない部屋"?」
    天井から吊るされたボードに書かれてあった文言をシオンが訝しげに口にした。
    部屋の中央にある扉には取っ手などはついていない。押してみたが開かない。入ってきた扉もどうやら開かなくなっているようでそうシオンが告げた。
    「これで魔力を感じねーって言うのは不気味だな」
    「そもそも意図が読めない。何のためにこの空間はあるんだ?」
    「そーゆーの考え出したらキリねーし、とりあえずほら」
    手を差し出すとシオンはオレの手のひらと顔を交互に見つめた。
    「なんだ」
    「いや、とりあえず言う通りにしたら出られるのか試さねーとだろ」
    「それなら最初からそう言え。なんでお前はいつも唐突なんだ」
    「はいはい、悪かったよ」
    むっと唇を曲げたシオンがオレの手に自身の手を重ねて握った。
    瞬間、ひとりでに扉が開く。
    「!」
    「すげー、ホントに開いた」
    相変わらず魔力は全く感じられないが、開かれた先の変わらない景色を見て、恐らくこのような部屋が続いてることは予測できた。
    「一体いくつあるんだ」
    「わかんねーけど行くしかねーな。まあでもこれ、一人だったら詰んでたな」
    「……自分の右手と左手を握ればいい話だったんじゃないか?」
    「あ、手を繋ぐって言うからてっきり……」
    「単細胞」
    「うるせー、この後一人だと無理かもしれねーだろ!」
    「はあ、とりあえずさっさと歩け。ここを出るまでは繋いでないといけないかもしれない」
    ぐいと腕を引かれて次の部屋への扉を潜る。
    その瞬間扉は閉まり、案の定次の"指令"が吊るされていた。右手からシオンの手のひらが離れる。
    「"お互いの一番好きなところを言わないと出られない部屋"……」
    ほら二人じゃないとできないお題じゃねーか!という言葉を飲む程度に信じられない、という顔でシオンがボードを見つめていた。
    「……最悪だ」
    「ギーのがよかったかもしんねーけど頑張って捻り出せねーか?」
    まさか何もないとは言わないよな?さすがに落ち込むんだけど。普段喧嘩ばっかりして憎まれ口しか聞いてないとはいえ。
    「……」
    「えっと、オレから言うか?」
    「…………あるのか」
    「まあ、一応……」
    「ちょっと待て」
    さっきから俯いたまま目が合わないシオンは、自身の腕をぎゅっと握りしめている。覗いた耳が赤い気がするのは気のせいか。
    「ぅ……やっぱり、お前から言え」
    「気が利くとこ」
    なんとなく気恥ずかしくなって、シオンから目を逸らす。
    「ほら、オマエの番だぞ」
    「……顔」
    「は?」
    消え入りそうな小さい声で落とされた言葉を聞き返したが返事があるわけもなく。
    開かれた扉に向かってシオンは足早に歩いていった。
    「置いていくぞ」
    「いや、オマエ今の」
    「仕方なく言っただけだ。お前だってそうだろう」
    これ以上詮索するなと言わんばかりに睨まれて仕方なく口をつぐんだ。
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