Recent Search
    Sign in to register your favorite tags
    Sign Up, Sign In

    yamadake_2005

    ☆quiet follow Send AirSkeb request Yell with Emoji 💖 👍 🎉 😍
    POIPOI 5

    yamadake_2005

    ☆quiet follow

    テキストデータ版
    ムサヒル 写真

     ほんの時々、興が乗った時、武蔵を写真に撮る事があった。
     汚れてくたびれた大工姿やら帰宅途中の後ろ姿、よだれを垂らした寝顔など。後で眺めるなどする訳じゃあない、ただ何となく手が動く時があった。遠くから一枚、ばれぬ角度から一枚。だから武蔵が「知ってんぞ」と言って来た時は正直驚いた。もっと言うなら血の気が引いた。
    「別にいいけどよ。減るもんじゃねえし」
     普段何も考えていないようなの愚鈍と粗雑に毛が生えたような男が。いつから気がついて黙っていたのか。
    「結構前から…。中学ん時ぐらいからじゃねえか?」
     わかっていながら知らぬふりをしていたと。わかっていながら撮られていたと。それは思わぬ想定外で、素で溢れ出てくる感情を抑えて宥めるのが精一杯だった。だから言葉が続かなかった。だから後に続く武蔵の言葉を深く考えず軽く聞き流していた。
     軽く、受け流しちまっていた。

    「もっと足開けよ」
     ぎち、と音がするほど武蔵に腹を突き上げられて、素直にそれを愉しみたいのにどうしようもなく気恥ずかしくなる。いつもと同じただのセックスで、足を開いて腰を振っている。なのに、逃げ出したくなる程居心地が悪い。
     片手の操作に気を取られているのか武蔵の動きはいつもより浅い。どことなく散漫でもあり、それが余計に腹に熱を溜めていく。
    「もうイきそうか?」
    「うっ……るせぇ!」
     睨む先には銀色の板。武蔵に言われた通りに動くと、それを追いかけてシャッター音がいくつか響いた。耳に絡みつくその音は不快で恥でイラつくばかりで。
    「てめ、何枚撮ってやがんだ!」
     俺だってお前の写真が欲しい。
     そんな事を言われて少しだけ浮かれた。緩みそうな頬を引き締めていた、あの時にこんな写真を撮る事になるなど、誰が思うかこの糞変態野郎。
     武蔵が顔の前に掲げるそれがカシャカシャと音を立てる都度、強く感じるいたたまれなさ。なのにじわりと腰が熱くなる。とんでもない角度の姿を見られて撮られて保存されている。それが武蔵の手の中に、ある。
     キレればいいと頭ではわかっている。わかっているのに、わかっちゃいるのに、言われたままに足を開いた。太ももに自分で手を添えて、カメラの前に全部を曝け出す。
    「すげぇな」
     ぼそりと呟く言葉にまたシャター音。武蔵の手の中の板、無粋なそれは知らぬ誰かの視線を感じた。見られている、という倒錯があった。
    「全然触ってねえのにな」
     こういうの、好きか?言葉の外にそう匂わされるようで腰の後ろがぞわりと震えた。いい気になるな、いい加減にしろ。こいつはいつもこんな顔をする。こいつの手の中で情けないぐらいに転がる俺を楽しんでいる。
    「さっさと…集中、しろ!」
    「だってなあ」
     ようやくカメラをシーツに放り投げて、武蔵が顔を近づけてきた。
    「お前、普段よりイイ顔してんぞ」
    「ふっざ、……るっ……っ」
     ぎしりと背中がきしむぐらいに、ぐいと腰を推し進められて腹が奥までいっぱいになる。
    「俺以外に見られて、興奮するか?」
    「うっ……る、せぇ……っ!」
     ずっと焦れていた奥の奥までみっちり詰まって、それが動いて、その急な強さに息が途切れる。
    「見せねえよ」
     音がするほど奥まで突かれて耳が武蔵の言葉を取りこぼしそうになる。誰が見せるか。そんな小声は耳のすぐそば、聞こえぬぐらいの小さな呟き。顔を見て言え、この意気地なしが。頭に浮かぶ悪態は口から出る前に顔がニヤけて、それが悔しくて腹に集中した。
     少し単調で深くて強い、武蔵の動きに体を合わせる。反って浮かせた腰の骨の上を雑に掴まれて雑に揺らされた。
    「っ、………ひっ…!!」
     もがいているみたいに体が跳ねた。背中に回したかった両手はまだシーツの上を引っ掻いていて、伸ばすより先に絶頂がキた。
     武蔵の形を覚えるみたいにぎゅうと縮んでぐねぐね動く、名残の中をかき回されて頭が丸ごとトロけて揺れた。

     強い快感と脱力感の余韻が頭ん中をとろん、とゆるめる。汗がひかない背中が熱くて転がった先のシーツが冷たい、気持ちいい。まだうっすら残る腹立たしさをどうにかしたいが頭が働かない。
     眠ったと思ったのだろうか、あの耳障りな電子音が少し離れた場所から聞こえた。怒ればいいのか流せばいいのか、もう、考えるのも面倒くさい。
     このまま眠っちまうのも一つの手だと、全部手放した頭の中に武蔵のドヤる一言が残った。誰にも見せぬと言い張った声。
     当たり前だ。てめえ以外に見られてたまるか。
     お前以外に、許すと思うな。

     後日、武蔵がスマホを開くと該当の写真はまるごと消えていた。いつの間に、と頭を掻いたがまあそうなるだろうなという予想はしていた。肌色の写真が大量に画面を埋め尽くすのは多少の後ろめたさもあったしな、と画面をスクロールして苦笑する。
     コトが終わってひっくり返る、素っ裸のままの大の字の1枚。
     あいつが、こういうデータの処理でたった一枚を見逃す訳がない。
     可愛い所もあるじゃねえか。
     面と向かって言おうものなら携帯を丸ごと粉砕される。だからコレは口には出さない。何もなかった事にして、お許しが出たこの一枚を大事にしておく、それが一番の落とし所だ。

     あいつの写真がいつもそこにある。
     ただそれだけで十分だった。 
     
    Tap to full screen .Repost is prohibited
    Let's send reactions!
    Replies from the creator

    recommended works