ゆっくりと、高校の先生方に酒盛りに誘われただとかで、藤波のおじさまに「今夜は帰りは遅くなる」と告げられた夜。
知ってるのよね、そういう時は朝まで飲み明かすって。お昼前になってお酒の匂いをぷんぷんさせながら帰ってきては、竜之介さまに怒られるのよね。
なんでかと言うと、これまでに何度も同じことがあったから。
おじさまはお約束の如く、竜之介さまの肩をつかんで「くれぐれも婚前に劣情の波にさらわれ云々」といつものセリフ。
それって半分はこっちにも言ってるのよねぇ。竜之介様のかわいい後頭部ごしにちらりと牽制ぽい眼差しを向けられたことに気づかないフリをしておいた。
そりゃあどれだけ息子扱いしていたって、おじさまにとってはたったひとりの娘だもの。心配よねぇ。
でも。
ごめんなさいね、おじさま。
出かけていく背中を見送りながら、心の中だけで謝罪した。大丈夫よ、ちゃんと責任は取ります。
おじさまの背中が見えなくなった頃、並んで見送っていた竜之介さまを見下ろすと、同じタイミングでこっちを見上げてきた。
ばちっと視線が合う。
にこ、と笑うと、何が不満なのか唇を尖らせながらそっぽむかれてしまう。
今夜もふたりきりね、と手を伸ばして、竜之介さまの手をそっと握る。少しだけびっくりしたのか、ぴくん、と手のひらの中で小さく震えた手は暖かい。
振り解かれなかったから、もうちょっとだけ強く握ってみる。ほらほら、逃げるなら今のうちよ。
もう離せないんだから。
カァカァと烏の鳴き声が遠くに聞こえる。遠くの街のざわめきも、すうっと遠くなってく。
ほんの数秒のはずなのに、時間が止まったみたい。
今度は指を絡めて手をつないで、がっちりと繋ぐ。
その間もずっと竜之介さまはそっぽむいてて、あたしの方を見ない。でも、短い髪の間から見える耳が赤い。
これはきっと夕焼けのせいじゃない。
これから夕飯の準備をして、片付けして、お風呂に入って、その後にあたしにあれこれされちゃうことを予感してるんでしょ。
もう何をされちゃうのか、知ってしまったものね。どこをどんな風に愛されちゃったのかを思い出してるのかもしれない。いいのよそれで。
そんな竜之介さまのことを、ほんっとにかわいいなぁ、って思うのよね。
とは言っても、ここで抱きしめてキスしたらきっと怒られちゃう。
「……中に入りましょうか」
「……おう」
返事をするのにやっとこっちを見てくれた。頬も少し赤く染まってる。でも唇はへの字のまんま。照れ隠しよねぇ。
大丈夫よ、わかってるから。
今晩もゆっくりと、あなたのこと愛させてちょうだいね。
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