「珍しいな」
「たまにはいいだろ」
自分でもそう思う。いつもは逐一こいつの一言に反発してしまうのに、そんな相手を自ら誘うなんてな。
きっと外が寒かったせいだ。
礼音くんじゃないけど、札幌ほどではなくても冬の寒さは沁みるもんだなって、上京してきて思った。
テーブルを挟んで向かいに腰を降ろすと、2人分のホットワインから漂うスパイスの効いた甘い香りが広い室内をすっかり満たしていた。
「どうせまだ寝ないんだろ」
「ああ、詰めておきたい事が何件かあってな」
「あー、今度のライブの事とか?」
俺の問い掛けに耳を傾けつつ、ガラスマグの取っ手に手をかけ持ち上げるゆったりとした一連の仕草には、若干疲労の色が見えた気がした。
小さな頷きと共に伏せた瞼からまつ毛が影を作る。湯気立つ水面にふぅ、と息を吹きかけては1口啜る相手の反応を窺った。
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