数多の多元宇宙間を渡るゼロ。
そのさなか良く知った気配、出来れば当たってほしくないが、間違えようもない程の因縁のある気配を感じた。
「べリアル!」
その相手とは、何度も戦い、その度に様々な結末を迎え、そこに至るまでの相手を知った。
けれど条件反射として、悪に関わっていることを前提に、その尖った背鰭に敵意を向けてしまう。
「テメエまた何か悪さしてねェだろうな!?」
「出会い頭にうるせえヤツだな……!?」
売り言葉に買い言葉で、双方に苛立ちを与えるだけの対面から始まってしまった。
互いに戦意を向ける。
「なんだか知らねえが、仕方ねえ……」
べリアルが舌を打つ。
「来い!ジード!」
「なっ!?ジードだって!?」
べリアルの呼んだ名が、本当にゼロの知っているジード、ウルトラマンジードかは分からない。しかし、ゼロはまたも知った気配を察知した。
自分に敵意を持って向かって来る相手に、ゼロは間一髪のところで避けた。振り下ろされる棍棒。
「それは……ギガファイナライザー!」
相手の攻撃の手はやまない。次の棍棒は振り上げられる。ゼロも繋げたツインソードで応戦する。
「ほう。」
高みの見物を決め込むべリアルに苦言を呈する余裕は無い。弾き合う棍と剣。
埒が明かないと思うゼロよりも早く、ジードが距離を取り、そのままゼロに向かって棍棒を放り投げた。回転しながらゼロに向かって来るそれを、剣で弾く。しかしその隙に。
「レッキングリッパー!」
ゼロはツインソードを双つに分け、一方で棍棒に、一方でレッキングリッパーに応戦した。
「おいジード!バトルナイザーを使えと、いつも言ってんだろォが!モンスロードしないでどうするんだ、お飾りじゃねェんだぞ!」
「ギガファイナライザーでモンスロードだと!?」
言われた通り、ジードは幾つかの怪獣カプセルを取り出すと起動させ、ギガファイナライザーに装填した。ゼロが知る、ジードがいつもエボリューションカプセルを装填する部分より、ずれた場所のように見えた。どうやら、既にエボリューションカプセルが装填済みで、その他にカプセルを装填出来るらしい。
「ウインダム、ミクラス、アギラ、……行って。」
ジードが三体の怪獣をモンスロードした。ゼロに向かって来る怪獣達。ジード自身は参戦しないようだ。ギガファイナライザーを握り締め、リンクに集中する必要があるのかもしれない。
ウインダムが光線を威嚇射撃し、ツノを前方に突進して来るアギラの動線を作る。ツノを掴んで、その勢いを逆に利用して放り投げる。しかしその隙にミクラスが体当たりを仕掛けて来る。
ゼロは飛ばされた勢いを利用して怪獣達と距離を取ると。
「エメリウムスラッシュ!」
ゼロが額から光線を連続で撃ち、ミクラスとアギラのツノを、ウインダムの額を攻撃する。
「グ……ッ、戻って、みんな!」
ジードの指示で、怪獣達はカプセルに戻って行く。
その戦いぶりと、ゼロの光線技を見ていたべリアルがジードに呼び掛ける。
「へえ。……ジード、レッキングバースト。」
その声に、直ぐさまリンクによるダメージから切り替えて立ち直ったジードが。
「レッキングバースト!」
ゼロは舌を打った。
「ワイドゼロショット!」
二つの光線がぶつかり合った。
拮抗する光。ゼロは、出来れば次元移動のエネルギーを残しておきたいところだが、とてもそうは言っていられないと思った。この場を収めるか、それでなくとも、なんとかして他の戦士に事態の報告をしなければならない。
「く……!おやじ……ッ!」
小さく呟いた大切な父の呼び名に、応えるように双方の光線が消え去った。
しかし当然ながら、今ここにウルトラセブンはいない。ならば誰が。
「まァ、ここまでだな。」
べリアルだ。
「とおさん。」
その言葉を聞き、ゼロ同様光線を消されたジードが、ギガファイナライザーを手に戻して、そのそばに行く。ゼロもツインソードを頭部に戻す。
戦意を打ち切ったように首を回すジードの仕草は、隙を見せているようでそうではないことを、ゼロは良く知っていた。いつでも戦いを再開出来る気概であることが窺える。
それにしても。
「……ウルトラ念力で光線の軌道を変えた上、トゥインクルウェイを展開し、ワームホール先のブラックホールに光線を逃した、か。」
「んだよ。別に珍しい技でもねェだろうが。」
そう言うべリアルも首を解すような動作をする。
確かに、ウルトラ念力もトゥインクルウェイも、秘匿されたものではない。しかし、光線技を捻じ曲げられる程の念力も、ブラックホールと絶妙な距離で展開出来るワームホールの精度も、簡単に成せる業ではない。
「で。オマエは何者だ?」
べリアルがゼロに問う。
確信する。この次元のべリアルは、ゼロを知らない。
そしておそらく、ゼロの世界のように、数々の悪事に手を染めているという感じでもない。
「今更かよッ!」
「ウルトラ族だということは分かった。」
「あー……、オレはゼロ、ウルトラマンゼロ。セブ……いや、まあ。取り敢えず、ただのゼロだ。っつーか、ウルトラ族かどうか、って、それも今更だなッ!?」
それに対し、一つ息を吐いたべリアルが、腕を組んだ答える。
「最初はどっかのウルトラ族を真似た、にせものかと思ったんだよ。ウルトラ族の光線技までは真似られない奴は、そこでボロが出る。」
だからジードにレッキングバーストを出す指示を出し、ゼロにわざと相打ちの光線を出させたのだ。
「ゼロねぇ……?しかし驚いたな。オマエの光線にはプラズマスパークエネルギーが強く混じってる。」
「そんなことまで分かんのか……」
べリアルの話にゼロは驚いてばかりだった。
「オマエ、俺達の名前を呼んだくせに知らばっくれんなよ。俺はプラズマスパークに手を出して、あの星から追放されたお尋ね者だぜ?その光は分かるに決まってンだろ。」
ここでゼロでも知った話が出た。
「追放された話は知ってる。けどオレが知ってる話じゃあ、その後レイブラッド星人に、その……」
「あン?そこまで知ってんのは妙だな?」
「とおさん、コイツ倒す?」
そこで、怪訝そうに首を傾げたべリアルに、今迄黙ってべリアルのそばに控えていたジードが、敵意を再起させようとする。ゼロはギクリとする。正直もう戦闘は良い加減御免だった。
「いや。別に良い。」
「良いのかよ!?」
「ああ。どうでも良いな。」
疑っておいて興味は無い様子のべリアルに、ゼロ一人振り回される。ジードも、父親が気にしないなら自分も、というスタンスらしく、また大人しくなる。
「けど、知ってんなら早い話、ってんだ。」
ベリアルは楽観的に捉えたようだった。
「あの時、ムカつくがレイブラッド星人に良いようにされそうになっていた時、この、赤いのが飛んで来たんだよ。」
「飛んで来た……?」
べリアルが雑に指さす先、ジードが手に持つギガファイナライザーに目を向ける。
「どこから」
「知らねえ」
「おい、」
「知らねえモンは、知らねえよ。」
ゼロは他人事のベリアルに文句を言いたかったが、分からないものを分かれというのも無理な話ではある。
「だがな。そいつに助けられたのは事実だ。」
「助けられた?」
「そいつは飛んで来て、レイブラッド星人をカプセルに封じた。」
「なんだって!?」
それが本当なら、この宇宙はレイブラッド星人の脅威を一部でも退いた、その分だけ宇宙の平和に近付けた世界だということだ。ゼロはそんな世界の存在を知れたことに喜んだ。ひょっとしたら自分の宇宙、延いては他の宇宙を救う手立てになるかもしれない。
「ただなぁ……」
「……なんだよ」
ベリアルはレイブラッド星人を封じたという、怪獣カプセルを取り出してゼロに見せた。
そのカプセルは、ゼロが知っているものと違い、何かが漏れ出ているように、闇を燻らせていた。
「封印が完全じゃない。こうして少しずつ出て来て、俺の体に入り込もうとして来やがる」
「そんな……!」
それじゃあ、このままじゃベリアルは、ゼロの世界の彼のように、憎しみを抱いて悪の道に走ってしまう。
「だから俺はこいつを使って、もう一度レイブラッド星人をカプセルに封じようとした。だが封印にはエネルギーの消耗が激しく、強い意志も求められる。」
「そいつは……」
「ああ。体に入り込もうとするレイブラッド星人の因子にも抵抗しなきゃなんねえのに、封印にまで手を回さなきゃならねえなんて、やってらんねえ。手が足りねえんだよ。それで仕方なく、近くに有って、高度な科学文明を持つストルム星に行き、そこで俺の遺伝子を渡し、」
そして。
「……ジードが生まれた。」
ベリアルはしかりと頷いた。
「つまりこいつは俺のスペアだ。」
「そんなの……!」
「酷い言いようか?命の冒涜か?正義に反した行いか?」
ベリアルが静かにゼロに問う。
しかしゼロも、ベリアルの体がレイブラッド星人の因子に操られるようなことを、避けるための手段として成るように成った事態を、完全に非難することは出来ない。
そもそも。
「まァ、そもそもプラズマスパークに手を出して追放されたのが原因、っちゃあそうなんだがな。」
そもそも、ゼロは自分も手を伸ばしたプラズマスパークに、同様に触れたベリアルを責めることは出来ない。だからこそ、今迄ゼロは自ら彼と戦って来たのだ。
「分かんねえ。分かんねえ、けど」
ゼロは、じっとこちらの会話を窺っているジードを見た。
「けど。それでも、ジードってヤツが今ここにいる、ってことは、分かる。」
べリアルがジードを生み出したことが、正義か悪かなんて分からない。けれどそれは、どちらだろうとも、ジードの存在そのものを否定することにはならないと思った。
「とおさん、ぜろは、悪いヤツじゃない?」
この宇宙のジードが、初めてゼロの名を呼んだ。
「そいつは、自分で決めろ。」
ベリアルはジードの問いに、力強く撫でるようにその頭に手を触れさせると、言った。
なんだよ、ちゃんと父親やってんじゃん。さっきはスペアだ命の冒涜だと自分で言っていたのに。ゼロはそこに、父親と息子の姿を見た。以前の自分だったら知らなかった、温もりが見えるようだった。
「……まあ、もうちっとこいつがギガファイナライザーを使いこなせるようになったら、レイブラッド星人の力を俺から完全に切り離して封じられるようになるかもしれん。そしたら、また何か変わるかもな。」
「……だからモンスロードさせて、鍛錬させてたってのか。」
棍棒を持つジードの手の上から、雑に叩くべリアルに、ゼロは言った。
ジードの戦いは、モンスロードに慣れていないもののように窺えた。それよりもレッキングバーストなどの方が、余程使い勝手良さそうに戦っていた。モンスロードを利用した消耗がなければ、ゼロはジードに押し負けていた可能性すら有る。
「だってふしぎじゃないか……。」
ジードが不貞腐れたように言う。
「自分が負ったきずじゃないのに、いたみをかんじる。……へんなかんじ。」
「ジード……。」
ゼロはこの宇宙のジードに、かつての自分を少しだけ重ねた。仲間なんて要らない、仲間の傷なんて知らない、そう思っていた自分と。
「なんにも変じゃねーよ。」
そんなジードに、べリアルが言う。
「オマエだって、あの……ドンブラ、じゃねえ、ドンシャインがやられてたら情けねえツラしてんじゃねえか。」
「へ?ど、……どんしゃいん?」
ゼロは自分が何か聞き間違えたかと思った。
「ドンシャイン!」
反してジードは、しっかりとその言葉に反応した。
「うん。ぼく、ドンシャインがやられてると悲しい……。でも、とおさんが苦しそうでも悲しい!」
「あー、ハイハイ……。それならちゃんと普段戦う時からモンスロードして、俺からレイブラッドの因子をさっさと取り除けるようになってくれや。」
「うん、ぼくがんばって強くなる!」
ゼロが呆けるような話でも、ジードにとっては分かりやすく良い感じに纏まったらしい。
「ゼロも悪いヤツじゃないなら、一緒にドンシャイン見てあげても良いよ。」
オマエが見たいだけだろ。不貞腐れた顔が、ジードからゼロに移ったようだった。
「つーか、どこの宇宙にもドンシャインってあんのか……」
「ちょっと立ち寄った地球って惑星で、なんだかハマっちまったみてぇでな……。まあジード、良かったじゃねえか、別の宇宙にもドンシャインは有るらしいぞ。」
「やったー!ドンシャイン!」
すっかり機嫌を上向かせたジードを見て、ゼロは思う。
「なんだかオレの知ってるジードより、小さい子みたいだな……。」
ゼロのぼやきに、ジードの背鰭を摘んであやしていたベリアルが答える。
「おまえンとこのジードが何千歳か知らねえし、外見年齢はストルム星人の技術でこんなだが、ウチの息子はまだ十九歳だぞ。」
同い年なんだよなぁ。
しかし、ウルトラ族規模で言うと本当に、まだ十九歳、なのだ。寧ろ十九歳でここ迄やれれば、充分早熟な方だろう。
「ちょっと待て。ってことは、アンタは何万年もレイブラッド星人の因子に抗って来たってのか!?」
「ああ。こいつのお陰でな。」
ベリアルは棍棒を指で軽く弾いた。
ジードはなんだかんだ父親に構われて嬉しそうにしている。
ゼロは赤い聖棍を見詰める。ギガファイナライザーの凄まじさはゼロも良く知っている。しかし、ゼロの知っているギガファイナライザー事態に、そんな機能は無い筈。怪獣カプセルや、延いてはウルトラカプセルを生成出来るのは、どちらかというとジードの能力だ。
「……それが大事なもんだってのは、分かってる。ちょっとだけで良いから、見せてもらっても良いか?」