スターゲイザー家庭教師として雇っているこの男の家に来たのは今日が初めてだった。いつもは向こうが、勉強を教えるために自分の家を訪れている。休日に約束をしてやって来たマンションの一室は高層階にあり、見晴らしがよかった。
「いいところに住んでんじゃねえか」
「おかげさまでな」
「おれ以外の奴の家にも教えに行ってんのかよ」
「そりゃ仕事だからな。行ってるさ」
「ふうん」
玄関をくぐり廊下を歩いた先には物があまり無いリビング。その中心にはテーブルと椅子が二脚ある。何も言わず椅子へと腰かけ、蛮骨は窓の外を見た。蒸し暑い中、舗装された道路を人が歩いていく光景が眼下に見える。
「涼し過ぎたら言ってくれ」
「いや、ちょうどいいぜ」
「そうか」
先に座っていた蛮骨の席の前に、煉骨が飲み物を用意する。サイダーだろうか。グラスに注がれた透明な中身は、しゅわしゅわと発泡音を立てていた。煉骨も椅子を引き、向かいへと座る。同じくグラスを手にしていたが、そちらの中身はアイスコーヒーのようだった。
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