季節を駆けるピンポンピンポンと、来店を告げる電子音を鳴らして自動扉が開く。
店員の挨拶を耳にしながら、煉骨と睡骨はそれぞれ目当てのものを探しにコンビニの中で別行動をとった。
睡骨は目的だったホットの缶コーヒーを手にするとレジに向かう。三人ほど会計待ちで列に並んでいて、その後ろに睡骨も並んだ。
と、煉骨の姿が見えた。並ぶ睡骨を横目にキャッシュレスの無人レジでさっと会計を済ませると、煉骨はこちらへとやってくる。
無言で車のキーを渡す睡骨。煉骨が何か言おうとしたが言葉を発するその前に「運転はおれがする」と睡骨が言う。「そうか」と言うと煉骨はそのまま店の外へと出ていった。
レジ袋を手にした睡骨が車に戻ると、車内で煉骨がタバコを吸いながら携帯を見ていた。睡骨も車に乗り込み、ライターでタバコに火をつける。車の中に漂っていたのとは別な香りが車内に広がっていく。
「向こうは雨かもしれねえな」
携帯を懐にしまい、助手席に座った煉骨がシートベルトをつける。睡骨もタバコを咥えたまま、ベルトに手を伸ばした。
「それなら予定を変えりゃいい。日帰り温泉くらい、近くにあるだろ」
「ありそうな気はするが、着替えを持ってきてないぞ」
「日帰りなんだし、そのまま同じの着りゃいいじゃねえか」
「おれは嫌だ」
エンジンをかけて睡骨が車を発進させる。コンビニを出て、国道の大きな通りを加速しながら二人を乗せた車が走っていく。
遠目に、色づいた山が見えた。
「あと一時間くらいか」
「そうだな。うまくすりゃもう少し早く着く」
「昼飯はどうする?」
「どこだっていいぜ」
タバコを灰皿で消し、缶コーヒーを口にしながらハンドルを握る睡骨。それを煉骨は気づかれないよう静かに眺めた。
「……そうだな、適当でいいか。飯なんてなんだっていい。着いてから決めようぜ」
「おう」
煉骨がタバコを口に咥える。苦い味が口の中に広がる。睡骨が音楽をかけると、車内で何度も聞いた覚えのある曲が流れ始めた。
「寒かったら言えよ」
「別に。平気だ」
「肉まん食うか」
「くれるってんならもらう」
「じゃあその袋から出してくれ」
コンビニのレジ袋の中から肉まんを取り出す煉骨。一口食べると、あったかい冬の始まりの味がした。
「一口くれ」
「ん」
手にした肉まんを、運転する睡骨の口元へと差し出す。煉骨が手にしたそれを、ぱくりと睡骨が食べた。
「うまいな」
「ああ。もう一口食うか」
「くれ」
ぱくり、とさらに一口頬張る睡骨。煉骨は肉まんを自分の口元へ戻し、睡骨の続きから食べ始める。半分ほど残った肉まんは、さっきよりもあたたかく、おいしいような気がした。その錯覚の正体に苦笑する。不思議そうな顔で「どうした?」と問う睡骨に「なんでもねえよ」と煉骨は微笑を浮かべながら返事をした。
空と山は秋の終わりの姿。紅葉の美しい山へと車は走っていく。ゆっくりと、二人きりの時間を乗せて。