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    hito

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    hito

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    合間時間に書いた煉と銀 過去捏造

    「ひいぃっ!!」
    叫び声をあげ、子どもが逃げ出していく。裸足のまま、足の裏を真っ黒にして、幼い女児は森の奥へと消えていった。
    ぽたぽたと槍の先端から血が滴り地面に落ちる。足音が聞こえて、銀骨はそちらへと目を向けた。
    「こっちは片付いたか、銀骨」
    「ぎしっ、兄貴。いま片付いたとこだ」
    ぶん、と軽く槍を振って穂先についた血を落とす銀骨。煉骨はその様子を見つめた後、視線を足元に転がる死体へと移し、小さな声で尋ねた。
    「逃がしたのか?」
    銀骨は何も言わない。煉骨はふう、と小さくため息をついて言葉を続ける。
    「………助けたのか」
    この男から。と煉骨は足元に転がった死体を見つめたまま呟いた。露出した男の下半身と、逃げていった幼女の姿から、どういう状況だったのかは想像がつく。想像がつかないのは銀骨の行動の理由だった。
    少しの沈黙の後、銀骨はゆっくりと口を開いた
    「……昔、生き別れた子がいる。生きていれば今の子と同じくらいの歳だった」
    銀骨の言葉に煉骨は目を丸くする。へえ、と小さく言葉を発して、興味深そうな表情を浮かべた。 
    「お前に子どもがいたとはな。意外だぜ。嫁もいたのか?」
    「ああ。戦にかり出されて、戻ってきた時にはもう村は焼け落ちていた。だから、嫁も娘も、どうなったかわからねえ」
    歩きながら二人は戦場を後にする。夥しい数の死体が転がり、虚ろな目玉が宙を見つめる。飛び散った血と臓物、肉片を意に介することもなく、それらを平気で踏みつけながら煉骨と銀骨は歩みを進める。
    「ぎしっ。もうずっと、昔の話だ」
    ばさばさと烏が舞い降りてくる。静かになった戦場跡で、小さな物音を立てながら食事にありつく。
    「兄貴は、嫁がいたことはあるのか」
    しばらく歩いたあと、ふと、気になって銀骨はそう口にした。口にしてから余計なことを言っただろうかと思ったが、煉骨は気にする素振りもなく返事を寄越す。
    「いいや、そういう相手はいなかったな」
    「そうなのか」
    煉骨に惹かれる女も大勢いそうなものだが、と思う銀骨。そう思ってる間に煉骨が次の言葉を続けた。
    「男とは一緒に住んでいた時期がある」
    飼われているようなもんだったがな、と自嘲気味な口調で足される言葉。
    押し黙る銀骨。烏が大きな声で鳴いた。夕焼けがあたりを包み、世界が赤く染まる。
    「そいつ、まだ生きてるのか」
    銀骨が尋ねる。赤い陽に照らされた煉骨の顔が、にい、と笑みを作った。
    「いいや。もうこの世にはいねぇよ」
    黒い影が飛び去っていく。用が済んだのだろう。あれだけいた烏は一羽も残っていかった。
    死体の転がる戦場を抜けて、森の合間を通っていく。ここを抜けた先で、蛮骨たちが敵将の首をあげているはずだ。煉骨に続く形で、銀骨が後ろを歩く。煉骨が前を向いたまま、おもむろに口を開いた。
    「珍しいな、お前がそんなに詳しく聞いてくるなんて」
    「ぎしっ、そうか?」
    「ああ。なにか気になったところでもあったのか?」
    「いや。まだ生きてたらそいつ、殺しちまおうかと思って」
    銀骨の言葉を聞いた途端、煉骨が噴き出した。足を止め、声をあげて楽しそうに笑いながら煉骨は振り向き、銀骨へと顔を向ける。
    「なんだそりゃ。ったく……」
    「ぎし……そんなにおかしかったか?」
    「なかなか笑えたぜ、くくっ……」
    笑いをゆっくりと抑えていき、煉骨がふう、とため息をつく。まだ顔には笑みの名残が残っていた。
    「大体、お前に殺せる相手ならおれにだって殺せる」
    「ぎしっ。それもそうか。兄貴は強ぇからな」
    森を抜ける。向こうに見慣れた大きな影が見える。凶骨の姿だ。戦ったり、暴れているような様子は無い。すでに決着はついているのだろう。
    「兄貴」
    「ん?」
    「今日の酒も、きっとうまいな。おれは、兄貴たちと飲む酒が好きだ」
    「ああ……そうだな。おれも、ここで飲む酒は好きだ」
    ざあっと風が吹いた。濃い血の臭いが鼻をつく。慣れた臭いだ、いまさらそれをどうと思うことはない。この世の地獄をつくる片棒を担ぐことに、二人とも躊躇いも後悔も無かった。転々とする人生の中で七人隊へとたどり着き、いまを共に生きている。それだけのことだ。
    少しだけ触れた互いの過去を胸の中にしまって、煉骨と銀骨は蛮骨たちへと合流する。血だまりの中、惨殺の成果を伝えあって喜ぶ。
    笑い合う七人の笑顔に影はない。心の底から楽しく生きるその姿は、確かに人間の形をしているのだった。
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