春夏秋冬 春は姉さん。淡く色付いた桜と姉さんの白い肌と明るい金糸の組み合わせはまるで砂糖菓子みたいで可憐だ。桜に攫われる心配などしない。僕が姉さんを離さないから。
「今年も綺麗に咲いたね」
「ええ。フレッドがよく世話してくれましたから」
今日はモリアーティ家の広大な庭で花見会。庭は屋敷と桜の木に囲まれており外からの視線を気にすることなく楽しむことができる。僕は外からは見えないこの庭の造りにとても感謝している。美しい姉さんの姿を他の奴らに見せなくて済むからだ。
「ふふ、モランってばもう酔ってる。……兄さんが外に出られないのは残念だけどね」
「花粉症ですからね……でもテラスから見られるようにしっかりと窓を磨いておきましたから、兄様もこの景色をご覧になってるはずです」
「そうだね、ルイスもお疲れ様。今年のお花見メニューもすごく美味しかったよ」
なにせ適切な材料1割と姉さんへの愛情9割で作ったメニューだ。僕の愛は確実に姉さんに届いた。
姉さんの胃袋を掴んで来年も職場の花見なんかには絶対に参加させない。
今頃姉さんの職場の人たちは姉さんのいない退屈な花見でもしているに違いない。入念なリサーチのもと毎年モリアーティ家の花見を姉さんの職場の花見と同じ日に企画しているのは僕だ。
職場の人たちより僕を選ぶって信じてましたよ、姉さん。
梅雨は姉さん。幼少期から紫色の私物を持つことが多かった僕にとって、紫陽花と姉さんの組み合わせはまるで僕の色に染まるようで込み上げてくるものがある。
しかしながら悩ましくもある。
「ただいまルイス」
「おかえりなさい姉さ……どうしたんですかその格好?!」
「あぁ、折りたたみ傘を別の鞄に入れたままにしてたみたいでね」
姉さんはたまにずぶ濡れで帰宅する。水を含んだシャツが肌に張り付いて下着が透けてしまっている。こんな姿で歩いていたなんて、すれ違った男達に見られてないか不安でしょうがない。強めに殴れば記憶は消えるだろうか。
「連絡くだされば迎えに行きましたのに……」
「ルイスだって忙しいだろうちょっと濡れただけだから大丈夫だよ。それに……」
先に言っておくと、姉さんはどうやって僕を黙らせるのかよく知っている。今日もまた、姉さんの一言でお小言なんて吹っ飛んで手の平の上でコロコロと転がされてしまうのだ。
「冷えた体は君が暖めてくれるんだろう、ルイス」
こうしてバスルームにもつれ込んで思う存分、身体の芯まで暖めてさしあげた。
夏は姉さん。薄着の姉さんも美しいが他の男も姉さんの肌を見ていると思うと殺意が止まらない。
姉さんのまばゆい肌を守るため、様々な口コミを徹底的に調べてから選んだ日焼け止めを毎日塗るのが夏の楽しみでもある。
「ん……っ、ごめん、ちょっと擽ったかった」
「いえ、すみません姉さん」
ちょっとしたハプニングもあるが、あらぬところがホットにならないように丁寧かつ迅速に塗る。美しい姉さんは日焼けをしても美しいに違いないが、炎症や皮膚がんのリスクはできるだけ取り除きたい。
こうして今日も姉さんの柔肌は紫外線から守られる。
秋は姉さん。僕の色じゃないのが悔しいけれど秋の色が一番姉さんに似合うと思う。紅葉と姉さんの組み合わせは写真に撮っても撮り足りないほど美しく、今年も僕はこの目に焼き付けようと全神経を集中させている。
そんな美しい姉さんは食欲の秋の真っ只中らしく、いつもより僕の料理をいっぱい食べてくれる。
「ルイス、今日のご飯なに?」
姉さんが僕の背中に張り付いて問いかける。まるで新婚夫婦みたいなやりとりにグッときつつ、素直に教える。
「今日のメインはきのこの炊き込みご飯と唐揚げです。運動会のことを思い出したら無性に食べたくなってしまったので」
小さい頃、運動会でのお弁当は唐揚げというのがモリアーティ家での定番だった。普段は各自の教室で昼食を摂るが運動会の日は校庭で保護者と食べることになっており、姉さんとお昼も一緒にいられてとても嬉しかったことを覚えている。
「運動会?あぁ、そういえば今朝花火が上がってたね。ふふ、ルイスの作る唐揚げ大好きだからラッキーだな」
そう言ってぎゅっと抱きついてくるのが可愛らしい。ふにゅっと胸が当たっているが誘われているわけではないと自分に言い聞かせる。
「ありがとうございます。あと近所の方から林檎のお裾分けを頂いたのでアップルパイを作ろうと思ってます」
「アップルパイも?ルイスの料理が美味しすぎて太っちゃいそうだよ」
姉さんが太ったとしても、この世に存在する姉さんの質量が増えるので僕としては何の問題もない。だが今回は別の選択をする。
調理の手を止めて姉さんに向き直る。右手は頬に、左手は腰に添えて耳元で囁く。
「では、僕たちも運動会、しますか?」
ベッドの上で、と言う前に姉さんは意味を理解したらしく濡れた目で見つめてくる。こうなったらもう姉さんは食事の間も今夜のことが頭をちらつくに違いない。
親父臭いって?うるさい。
冬は姉さん。寒いと自然と姉さんの露出が減るので僕は安心だ。それに分厚いコートを着込みマフラーをぐるぐる巻きにして全身もこもこの姉さんはとてつもなく可愛い。
だが冬は最大の敵である姉さんの職場の忘年会が存在する。近辺にクリスマスやニューイヤーのお祝いがあるため花見のときのようにはいかない。前日に抱き潰す手段もあるがやはり姉さんの負担になるようなことは避けたいし、ドタキャンで姉さんの印象を悪くするのは本意ではない。そうして取った手段がこれだ。
「ホテルデートなんて急にどうしたの?」
「実は兄様からクリスマスのプレゼントに何が欲しいか聞かれたときに頼んでみたんです。姉さんと2人きりになれる時間が欲しいって」
今回は兄様に協力してもらった。とはいえ嘘は吐いていない。ただ姉さんの忘年会の日にデートに行きたいとお願いしただけだ。
「クリスマス当日だと混み合いそうなのでクリスマスを過ぎた日がいいと思いまして」
「そうなんだ……でも久しぶりにルイスと二人でお出かけできて嬉しいよ。兄さんに感謝しなきゃ」
とはいえ兄様がここまで豪華なホテルを手配してくれたことは予想外だった。既にディナーを終えて部屋にいるが、ロックウェル家のパーティですらなかなか見ないようなメニューも多くどうやら兄様が弟へのクリスマスプレゼントにしては奮発したことがうかがえる。お願いしたのはせいぜい一週間ほど前だった気がするがどうやってこんな人気ホテルの部屋を取ったのかは深く考えないようにする。しばらくは兄様の好きなメニューを夕食に出そうと思う。
恐縮してばかりはいられない。これだけのホテルということは当然壁も厚いはずだ。
姉さんを抱きしめて一緒に寝転ぶ。腰を撫でれば姉さんもすっかりその気になってくれる。
「シャワーを浴びる前に一度……嫌ですか?」
「嫌じゃないよ……それに、さっきからずっとドキドキしてる……」
そうして僕たちは唇を合わせる。
ベッド、バスルーム、窓際など様々な場所で姉さんと深く繋がり、思う存分2人きりの時間を堪能した。