いと ある年の瀬の浅草。この日は焔ビトが出現する事もなく、第七特殊消防隊の詰所は時折双子の少女の賑やかな笑い声が響くのみで静かな佇まいだった。
そう、あの暴れん坊が行動を起こすまでは。
その日、相模屋紺炉は疲れていた。
年末の事務処理に加え、詰所の大掃除や正月の出初式の準備。それに加えて近頃悩みに悩み頭を抱えている事があり、集中を欠き中々仕事が進まない状況だった。
その悩みとは自身の上司とも言える、第七特殊消防隊大隊長・新門紅丸の事だ。
火消しの棟梁の下、幼少の頃より実の弟のように想い面倒を見て来たこの男の事が、ここの所気になって仕方ない。
「気になって」と言うのは恐らく恋慕の類で。十年以上も可愛がりをして来て、家族に対する愛情だとずっと思っていたものは、どうやら違うもののようなのだ。
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