リーマンパロなぁ
なぁ、毛利
なんで俺たち付き合ってるんだっけ?
定時になると長宗我部は、毛利の机に走った。
いつも気がつけば、いなくなっている。この一週間はそれを覚えて少し前に迎えに行っていた。
でも、この胸の鼓動は焦燥と不安とでごった返していた。
何故か居ないような気がした。
少し前は別に居なくたって、自分には関係の無いはずだったのにこんなにも手汗が止まらない。
毛利はまだ帰っていなかった。
「どうした、長曾我部」
紙コップの珈琲を飲みながら、毛利は悠々と寛いでいた。
もう既に帰る支度は終わっているようで、そうなると俺が来るのを待っていたのか、何て思ってしまう。
「何でもねェ」
「そうか」
飲み干した珈琲の紙コップを捨てて、毛利は鞄を持ち立ち上がった。
俺の横を過ぎていくので、それを追うようにして会社を出る。
何か言葉が出かけた時には、毛利の腕を掴んでいた。
「飲みいかね?」
自分の口からは思っていたのとは違う言葉が口から発せられていた。
「よかろ」
下戸の毛利からあっさりと了承が降りた事に何故か驚きはしなかった。
毛利も何かを察したのかもしれない。
居酒屋は、金曜日とあって賑わっていた。
運良く個室が取れたので二人で向かい合うように座ったが落ち着かない。
毛利はメニューを眺めていて、特に変わったことはない。
少し経つと、お通しと生ビールが2つ運ばれてきた。
「ここで食って帰るか?」
「否、肴だけでよい」
「あっそ」
適当につまみを頼んで、乾杯した。
俺は酒に頼った、胸がやけに苦しい。
「もっと飲めよ」
「嗜むペースが違うのだ、急かすでない」
ジョッキを見てみるが半分も減ってないのでは無いだろうか。
俺はもう3杯目、いつもはこの程度で酔うはずが無いが何だか頭がぼやけてきている。
世間話、仕事の話…色々話したが何一つ頭に残っている気がしなかった。
つまみも無くなって、そろそろお開きと言った雰囲気が漂っていた。
「なぁ、毛利」
「なんぞ」
「俺たち付き合ってるんだよな?」
毛利の表情は変わらなかった。
しかし、急に瞳が自分を映さなくなった様な気がして慌てて机の上の毛利の手を握ると上から反対の手で叩かれた。
「痛っ、何すんだ」
手を引っこめて、痛みが引くように摩った。
「触れるな……答えだが、それは独りよがりであろ」
「は?そんな訳ないだろ」
「貴様の言う、付き合いとは何ぞ」
恋仲と答えようとして、戸惑った。
それは有り得ない。答えが見つからず考え込んでいると、毛利が口を開いた。
「『責任』よ、あの日のな」
そうだ、あの日の責任だ。記憶は無いが毛利を抱いたあの夜だ。けれど、それも違う気がした。
「その事だが、あの日は何も無かったのだろう」
「…は?」
目線を毛利に戻したが、あの無表情のままだった。
「スーツも綺麗に片付けられており、何事もなく出社した。お互い男の経験などなかろう、酔っ払い二人で身体が無事だった事自体、何よりもの証拠よ」
「そうかもな?」
畳み掛けるようにして毛利がさらに続ける
「例えあったとしても、生娘でもあるまい全て忘れてやるわ…付き合いは終わりだ、支払いはこれで足りるだろう」
毛利は財布を取り出すと、1万円を置いて帰る支度を始めた。
置いてあったコートを引ったくり、妨害する。
毛利は眉間に皺を寄せた。
お互いに嫌いだった。
あると思っていた責任も無くなった。
付き合いが無くなって、またあの日の前に戻るのか。
「返せ」
「やなこった」
1万円なんか出されてしまえば、今日の分だけじゃないこの2週間の精算も出来てしまう。
全部を無くそうとしてくる毛利にやけに腹立つ。
コートに伸ばされた手を引き、倒れ込んで来たのをそのまま抱きしめた。
「長曾我部!」
「大声出すなって、うるせぇぞ」
毛利は口を噤んだ。
それが何だか可愛く思えて、俺が似合わず酔っ払っている事を思い出した。
此奴相手に可愛いなんて、素面だったら自分を殴ってたな。
真横にある髪を摘んで遊んだが、毛利は突き放すでもなくただじっとしていた。
「なぁ、俺たち付き合ってるよな?」
「先程別れたであろ」
「それはアンタの勝手だろ」
「二人と言いながら、一人を責めるか」
「阿呆くさ、そうだろアンタが悪い」
「何…」
立ち上がると、自分のコートを着た。
毛利もすぐさまコートを取り戻すと、部屋を出ようとしたので止める。
「まぁ、待てよ。良いのか、俺に言われっぱなしでよぅ」
「所詮は戯言よ」
手を掴むと、毛利が驚いたように顔をこちらに向けた。
「聞けよ、毛利」
先程まで感じていたものは全て何処かに消えてしまった。代わりに、心が真っ白になってしまった。
引き止めたは良いが、話せる事なんてなんにも無かった。
ただ、この手を離して突っぱねたらもう此処には帰って来れない気がした。
毛利も手を離そうとはしなかった。
「…俺は酒を飲みかわしたアンタと付き合ってんのに、それを一切合切忘れてよ、まっさらな関係に戻りましょなんざ無理な話な訳でね」
そうだ、俺はこの関係を手放したくないんだ。
この付き合いで、毛利元就にやっと近づけたのに別れてしまっては元も子もない。
「だからよ…」
うまい言葉が出てこない。
「……友達になろうぜ…?」
自分で言いながら首を傾げてしまった。誘いより、疑問の発音だった。
激しい音と共に手の甲に痛みが走った。
痛みで手の力が緩んだ隙に、毛利の手が逃げた。
非難の声をあげようとしたが、毛利の顔を見て体が動かなかった。
何も感じていない顔だった。冷ややかな無表情とは訳が違う。
「だから、独りよがりと言ったのだ」
そう言うと毛利は個室を出ていった。
俺はただ呆然として、その後ろ姿を見送った。
<毛利視点>
今日も定時上がり、既に支度も整え後は帰るだけだった。
自販機で珈琲を買う。
すぐに帰ってもいいのだが、ここ数日はうるさい男がやって来るので仕方なしに待っていた。
席に座り直してすぐに長曾我部が、机にやってきた。何時もより五分ほど早い。
「どうした、長曾我部」
「何でもねェ」
胸を撫で下ろしている意味がわからないが、何でもないなら追求する必要は無い。
「そうか」
早々と珈琲を飲み干し、ゴミに捨てた。
鞄を手に取って立ち上がると出口へと向かった。
長曾我部が後ろに着いてくる。
一緒に帰ろうなどと、約束をしているはずもないので自分のペースで歩く。
会社を出て少しすると、急に腕を引かれた。
「飲みいかね?」
急だ、なにより自分は酒を好まない。
「よかろ」
しかし、たまには悪くない。長曾我部の無駄な話を聞くのも嫌いじゃない。
居酒屋は、金曜日とあって賑わっていた。
運良く個室が取れたので二人で向かい合うように座った。
個室は嬉しかった。騒がしい居酒屋の席では、雰囲気で気分すら悪くなりそうだからだ。
酒を飲む気はないので、食事のメニューを何の気なしに眺めていた。
少し経つと、お通しと生ビールが2つ運ばれてきた。
頼んだ覚えのない自分の分まで用意されていた生ビールに思わず顔を顰めてしまう。
長曾我部が生ビールを差し出しながら言った。
「ここで食って帰るか?」
「否、肴だけでよい」
「あっそ」
食欲が失せた。別に此処で食べずとも家で食べ直せばいいのだから、気にしなければいい。
長曾我部が適当につまみを頼んで、乾杯した。
飲む気はないと言ったが、乾杯したら長曾我部が酒を飲めるのが嬉しいのか楽しそうに笑ったので、呆れて自分も飲んでしまった。
「もっと飲めよ」
「嗜むペースが違うのだ、急かすでない」
まだ、1時間もたってないはずだが長曾我部は3杯目とハイペースであった。この男の肝臓は人のとは違う作りのようなので、普通なのかも知れないが。
かという自分は半分も飲めていない。しかし、既に身体が温まってきていた。
今日は長曾我部の口がよく回る。世間話、仕事の話…と色々話した。因みに、内容は空っぽであった。いつもに増して内容がなく、たまに同じ話をし始めるので、聞くに耐えなくなってきた。
「なぁ、毛利」
「なんぞ」
「俺たち付き合ってるんだよな?」
一瞬何を話しているのか分からなかった。
付き合ってるなど、貴様が勝手に始めた事ではないか。何を今更…。
急に手を握られたので反射的に叩いた。
「痛っ、何すんだ」
長曾我部が手を引いた。
付き合ってるに決まってる。
何故、自分に答えを迫る。
…まさか。
そう思っていたのは自分だけか?
「触れるな……答えだが、それは独りよがりであろ」
「は?そんな訳ないだろ」
「貴様の言う、付き合いとは何ぞ」
長曾我部は言い淀んだ。
あの日だ、あの日から付き合い始めた。
「『責任』よ、あの日のな」
しかし、長曾我部は納得のいかないようだった。
違う。分からない振りをして体裁よく別れようと言った魂胆だろう。
勝手にありもしない責任をもち、挙句に自分を振り回しシラを切る気かこの男。
考える前に自分の口から言葉が漏れていた。
「その事だが、あの日は何も無かったのだろう」
「…は?」
「スーツも綺麗に片付けられており、何事もなく出社した。お互い男の経験などなかろう、酔っ払い二人で身体が無事だった事自体、何よりもの証拠よ」
「そうかもな?」
口が止まらない。
「例えあったとしても、生娘でもあるまい全て忘れてやるわ…付き合いは終わりだ、支払いはこれで足りるだろう」
別れを代わりに切り出してやるなど、自分らしくもないが早くこの場から去りたかった。
鞄から財布を取り出して、1万円を机に置いた。
別れた後に、この2週間の事を掘り返されると面倒なのでついでに精算しておく。
コートを着ようとしたら、長曾我部に取られた。
その顔は何故が真剣そのもので、意味がわからない。
自分は少しだが此奴を見直していた。
押し付けがましい世話も嫌いじゃなかった。
付き合っていたのに、そんなこと無かった。
「返せ」
「やなこった」
コートに手を伸ばすと、そのまま前に引かれて長曾我部に向かって倒れ込んだ。
「長曾我部!」
別れてやると、言っているのに何故帰さない。まだ自分から金をせびる気か。
「大声出すなって、うるせぇぞ」
店であったことを思い出して、ぐっと堪えた。
図々しい…これ以上払ってやる気はなかった。
長曾我部が自分の髪を触り始めた。自分の頬にも銀髪が当たっていて、それがこそばゆく気持ちが良かったので放っておいた。
少しすると長曾我部が口を開いた。
「なぁ、俺たち付き合ってるよな?」
先程より言い方が強くなっている。自分は付き合ってるなどと思った事などないくせに。
「先程別れたであろ」
「それはアンタの勝手だろ」
勝手は貴様だ。
「二人と言いながら、一人を責めるか」
「阿呆くさ、そうだろアンタが悪い」
「何…」
そう言って身体を離すと、長曾我部は立ち上がり自分のコートに手をかけた。
気が済んだのか。やはり気に食わない奴だ、腸が煮えくり返りそうであったが、これ以上此奴の相手をしても時間の無駄で自分に良くない。
自分のコートを取り返すとすぐに踵を返そうとしたが、長曾我部に止められた。
「まぁ、待てよ。良いのか、俺に言われっぱなしでよぅ」
「所詮は戯言よ」
もう一度踏み出そうとすると、今度は手を取られた。思わず振り返った。
「聞けよ、毛利」
自分は何を期待しているのか。
鼓動がやけにうるさい。
逆の逆で先程のは自分の早合点であったのか?
自分では答えを出せなかった、何を講じずとも先程までは目の前の男は自分の特別であったのだから。
その答えを知っているのは、この男しかない。
言葉を待った。
「…俺は酒を飲みかわしたアンタと付き合ってんのに、それを一切合切忘れてよ、まっさらな関係に戻りましょなんざ無理な話な訳でね」
息を飲んだ。
「だからよ…」
心做しか手に力が入った。
「……友達になろうぜ…?」
叩いた。それも全力で、手を捕まえていた手を叩いた。
力が緩んだ隙に、手を戻す。
手に痛みを感じる程強く拳を握っていたが、何も痛くない。
友達だと?自分を愚弄するのも大概にしろ。
自分たちは『付き合って』いたのに、なぜ『友達』に格を下げるねばなるまい。
違う。
アルコールのせいで胸焼けしたのか、吐き気がする。
嫌だ、何も考えたくなどない、頭が痛い。思考が堂々巡りしている。
身勝手だ、だから飲まないと決めたのに。
「だから、独りよがりと言ったのだ」
自分に言い聞かせるには少し声が大きかったかもしれない。長曾我部の顔など見たくもなくて、部屋を出た。
<更に続き長曾我部視点>
一人でもそもそと昼飯を食べていると、目の前に慶次が座った。
「あ〜、あのさ、元親」
「なんだよ」
一旦箸を止めて、慶次の方を見る。
眉が下がっていて、あからさまに此方を心配しているのが分かった。
「毛利さんと何かあったよね」
「……あったな」
味噌汁に手を伸ばした、なんだか味がしない。
「今日、一人なの?」
「居なかったからよ」
いつも通り、昼を一緒に食べようと勝手に待ち合わせ場所にしていた自販機の前に毛利は来なかった。
机にも行ってみたが、姿はなかった。鞄はあるので出社はしているようだった。
「……」
慶次は苦笑いした。俺は息を吐くような笑いが出た。
どう考えても避けられてるよな…。
「…別れたのかい?」
「馬鹿言うな、付き合ってるに決まってるだろ」
「あら、そうなの?」
「……ただ、毛利の方から、一方的に別れを切り出されてよ、それっきり連絡も取れないときたぜ」
「……」
また慶次が苦笑いした。やめろ、その顔。
「喧嘩なら、仲直りすればいいって事さ!恋の試練、いや愛の試練だね!」
口に含んでいた水が変なところに入ってむせた。
愛だと?
「んな訳なねェだろ、俺は……彼奴と好き合ってないんだからな」
「え、元親まさか」
「それ以上は野暮だよ、慶次君」
どこから現れたのか、竹中が俺たちの机の横に立っていた。
「野暮は野暮だけどさ…それより、食堂に居るなんて珍しいな」
「君の休憩時間の終わりを教えに来てあげたんだ、置き去りのファイルを2つ机に置いてあげたよ。早く戻りたまえ」
時計を見てみるが後20分は昼休みだ。
「何だよそのファイル、俺に仕事の頼み?」
「昨日、頼んで了承もしたはずだけど」
慶次は目を丸くすると、席を立った。
「ごめん、戻らないと」
また話し聞かせてくれよ。慶次はそう言うと焦ったように食堂を出て行った。
残された二人で、特に会話をする事はなくまた俺は箸に手を戻した。
「元親君、鬼嫁君が何処で昼休憩しているのか知ってるかい?」
まるで自分は知っているとでも、言いたい口ぶりだった。聞こうかと思ったが負けた気がして目を逸らした。
「知らねェ」
知らない、今日来なかった理由も。
「じゃあ、代わりに教えてあげる。彼は今日残業だろうね」
そう言い残すと、竹中は手を振って去って行った。
「……ちくしょう」
自分の知らないところで、分からないことばかりが増えていく。
「今日は食堂じゃないのかい?」
「何処で昼食を取ろうと関係あるまい」
ここは社内で一番高いフロアにある休憩スペースの一角。お昼となれば日がよく当たるこの場所が、毛利はお気に入りだった。
喫煙室がない為、あまり人が来る事もなく、社食ならば買うより安く済む為さらに人がいなくなる。持参した弁当を食べていると面倒な男がやって来た。
「用がないなら、失せよ」
「用事しかないよ、君に頼みたい仕事がある」
竹中が取り出したファイルを見れば、担当が竹中であった。
「…貴様の仕事ではないか」
早々に閉じて返す。竹中は受け取らず、手を後ろで組んでいた。
床に叩きつけてやろうと思った矢先、竹中が口を開いた。
「タダでとは言わないよ、君が狙ってる限定スイーツ…予約できたんだけど、それで手を打たないかい?」
何故それを知っている。
密かに狙っていたスイーツは実際にある。何日もホームページを確認しているが、予約のリンクが開けた試しがなく、有給を取って店まで買いに行ってしまうか頭を悩ませていた物だった。
「この程度の仕事もこなせない程、忙しいのか」
「そうそう、秀吉と地方へ営業に行くからさ」
嫌味を惚気…否、仕事で返されては、呆れてものも言えない。
「…桃色の頭が腐らぬようにしておくんだな」
ファイルを机に置いたのを確認して、竹中は口角をあげた。
「よろしくね、鬼嫁君」
「その名で呼ぶな、別れた故」
「…へー、本当に付き合っていたんだね」
「冗談で付き合う暇などない」
竹中の顔が不愉快にも面白いものを見つけた童子のように楽しそうだ。
当たり前だ、誰が面白半分で好きでもない男と付き合って自分の時間を無駄に浪費し、尽くさねばならぬのだ。
なかなか帰らない竹中を睨み付けると、顔はそのまま休憩スペースを出て行った。
別れたのだから、もう関係などない。
定時過ぎ、竹中の言っていた事を思い出して毛利の机には行かずに、急ぎじゃない仕事に手をつけながら時間が過ぎるのを待っていた。時刻は午後七時、直感でそろそろかなと思い机に向かった。
机には、鞄だけ置いてあった。パソコンの画面は真っ暗で、もうすぐ帰ると言った雰囲気が漂っていた。
席に座り毛利を待つことにした。
「彼奴何してんだ?」
…………… 一向に帰ってこない。待ち始めてから30分は過ぎていた。
鞄がここにある以上、机に1回は戻ってくるはずなのだ。
呆けながら待っていると、毛利からLINEが来た。
『手渡すものがある、貴様の机に来い』
怪しい。
俺から返す物はあっても、彼奴から渡される物は無いはずで、連絡をわざわざ寄越したのも怪しい。定時がとっくに過ぎているのも分かっているはずで、なんで俺がまだ帰っていない事も知っているんだ?
とりあえず、机に来いと言っているので、『了解』と返事を送った時だった。
ピロン♪
LINEの受信音だった。
自分のでは無い。
音がした隣を見ると、隣の机の椅子が不自然に出ている。
その瞬間、椅子が机から離れるように動いたので、押さえ込んだ。
「おいおい、小学生でもやらねェぜ?」
体と足で椅子を押さえて、座面を外に押し続けている手の甲を指でなぞってやると面白いように跳ねて奥へと逃げ込んで行った。
椅子と体を逃げられないようにして入れ替え、机の下を覗き込んだ。
小さいお宝は、さらに身を縮こませてそこに居た。
「何でアンタ机の下なんかに入ってるんだい」
「………」
毛利は顔を背けるとだんまりを決め込んだ。
聞いても仕方がないだろうと、ため息を吐いて立ち上がり道を開けてやったが中々出てこない。
もう一度覗き込んでみる。
「出てこいよ」
「…足が痺れた」
机の下なんて狭い空間で30分も変な体勢をしていればそうなるか。
腕を伸ばすと、軽く叩かれた。
「放っておけ」
「やだね、結構待たされたんだぜ?」
机の下に入り込む。二人も入れるはずが無く、俺の身体が少しはみ出していた。
両手で毛利の顔を固定するとそのまま口付けた。
「っ?!?」
慌てた毛利が、髪の毛を引っ張ってくるが構わず続ける。
「き、さま!」
一旦、顔を離すと口の端から垂れた唾液を隠すように手で口を覆った。
また近づけると、頬を抓られた。片手で簡単に止めさせて、そのまま口を隠していた手も取った。
毛利の両手を片手で拘束すると、キツく睨みあげられた。
「動けないのをいい事に我を陵辱する気か」
「そんな趣味あるかよ」
じゃあ、俺は此奴相手に何をしてるんだろう。見下ろす顔は少しながら動揺が見える。少なからず、ここで行為に及ぶ気などない。
「あの日よぅ」
「まだ引きずっておるのか、女々しい男よ」
減らず口を塞いだ。
なんで付き合ってるのか、その答えがやっと見えそうだった。
「アンタ、独りよがりって言っただろ?全くその通りでね」
あれから、悩みに悩み小さい脳で考えた。
自分たちが付き合っていた理由。
「もう戻れねぇんだ、アンタが…毛利が居ない日々になんてよ」
だから…と言って、また止まってしまった。
最初は違った、嫌いだった。顔を合わせれば怒鳴り合う関係だった。でも今は、違うじゃないか。
「俺の独りよがりで良いから、寄り戻してくれね?」
「言っている事が矛盾しているぞ」
自分の頭を頭を引っ掻いた。
そうじゃない、俺は…毛利が
「好きだ」
分かってみれば簡単な事だった。
昼飯や帰宅を共にしたいと思うのも、ちょっとした仕草に心動かされるのも、付き合ってる理由が分からなくて焦るのも、全部、独りよがりの恋の病と言ったわけだ。
俺は毛利が好きだから、付き合ってるんだ。毛利にその気がなくても今まで。
「すきだ、毛利」
両手で毛利を抱え込むように抱きしめると、毛利はただ黙って抱きしめられていた。
少しすると、下から苦しいと訴えられた。
慌てて離すと、毛利が口を開いた。
「…一先ず、此処から出せ、話にならぬ」
「逃げないか?」
「貴様の目は節穴か」
机の下から出ると、毛利を引っ張り出してやる。
支えるようにして立たせてやると、調子が戻ったのか自分で席に戻った。
鞄を手に取ると此方に向き直る。
「帰るぞ、長曾我部」
「…おう」
今はこれで満足だった。
横に並び空いてる方の手を握ると、顔こそ変わらないが頬に朱が差した。
額に口付けをすると、鞄でどつかれた。
「返事だが…よかろう、貴様がそこまでいうのなら、な」
<追記~現状~>
長曾我部
毛利の事が好きだとわかった。
毛利にも自分を好きになってもらいたい。
毛利
長曾我部が自分に惚れていると知った。
まだ付き合ってくれと言うので付き合っててやろう。恋愛感情自覚無し