愛してるよ 俺のひざしへの愛は、重たい。
ひざしを閉じ込めたい、束縛したい、触らせたくない、俺だけのものにしたい。
泣かせたい。夜、俺を呼ぶ声がたまらない。ずっと、ずっとそうしててくれと思う。
そんな俺の気持ちに対して、あいつの気持ちは、明るくて太陽のようだ。もちろん嫉妬されることもあるけど、ちゃんとその気持ちを素直にぶつけてくるし、だからといって束縛しようとは思ってなさそうだった。
お互いの時間を大切にしようという価値観があるし、その上で出来る限り一緒にいたいとか、キスしたいエッチしたいとか、もう全てにおいて明るく素直なのである。そんな太陽のようなひざしに、何度心救われたか。
だからこそ、この気持ちは、ひざしに押し付けたくなかった。
出動現場が一緒になって、他ヒーローと戯れてるひざし。ひざしは俺と違って交友関係も広く、ファンも多い。今日もスキンシップが激しい気がするし、いっそ割って入りたいくらいだが、少し我慢する。
そして頃合いを見て、声をかける。
「ひざし、もう行くぞ」
「あっ、ごめん、イレイザー!じゃあな、みんな!」
もう少し一緒にいさせてあげたかった気持ちと、もう見てられなかった気持ちと。
いつもああやって他の人と絡んでるところを見ると、気持ちがぐちゃぐちゃになる。
「Hey!イレイザー!どうしたよ、しけた顔して」
「あ?いつも通りだ。それより早く警察との手続き済ませて学校戻るぞ」
「え〜!せめてなんかどっかで飯くわねぇ?2人で!」
「…飯だけだぞ」
「よし!何食おうかな〜?」
ご機嫌に口笛まで吹いて隣を歩くひざし。あぁ、ずっと隣にいてくれねぇかな。今までだってずっと隣にいてくれたけど、そうじゃなくて。もう、どこにも行かないで欲しい。ずっと、ずっと隣で、一瞬たりともその綺麗で大きな瞳に俺以外のものを映さないで欲しい。
独占欲。わがまま。汚い感情。こんな俺を、知らないで欲しい。
別の日。再度出動現場が一緒になった。
今回はすこし大所帯だった。というのも、敵の個性上、被害が広範囲に及ぶ可能性があった為だ。
敵自体はそこまで強い奴ではなかった。しかし、この広範囲におよぶ個性が、少し厄介だった。
そして、ひざしが怪我をした。
一発、大きいのを食らっていた。その瞬間、心臓が止まる思いをしたが、ひざしはさすがにそれだけでは何ともないように戦っていた。
そして、敵が捕まった後、怪我が発覚した。しかも警察との手続きしてる最中、コソコソと救急隊員と話していたのを見つけて、俺が問いただして分かったのだ。黙ってるつもりだったのか。
医者の問診と治療が終わり、待合室で合流した。
「何ですぐ言わなかったんだ…隠す必要ないだろ」
「いや、おまえ俺が怪我したら必要以上に心配すんだろ?なんてことない怪我なんだから、報告なんて後回しで良かったんだよ。実際、ほら!ただ左腕にヒビが入っただけ。全治1ヶ月!リハビリもあるけど、なんら問題ねーだろ?」
俺がひざしに対して心配性なのが、伝わっていたらしい。あぁ、うまく行かない。心配性なのがバレてることも嫌だったし、すぐに報告して欲しかったし、もっというと怪我をしてほしくなかった。なんてったって、敵に対する殺意を抑えるのにエネルギーを使うのだ。
「…次はすぐ報告しろよ」
「分かったよ、消太。ほら、帰ろうぜ」
少し呆れた様子で、俺の背中を撫でるひざし。その手がなんだか暖かく、結局俺は、ひざしの世話になってばかりなのかもしれないと気づいてしまった。
ひざしが怪我をしてから、すぐ。職員室は賑やかになった。ひざしの世話を買って出る者は生徒だけでなく職員にも多くおり、頭を悩ませた。
できる限り先手を打って俺が世話をしたが、俺にも仕事がある。その間に、生徒や他の職員がひざしの世話をしていたらしい。
何も、問題はないはずなのだ。だが、どうしても嫉妬してしまう。触らないで欲しい。俺のだから。そんなことを年甲斐もなく考えてしまう。
「お、イレイザー!今さぁ、リスナーが俺の教材持ってくれてよぉ。優しいよな?やっぱ未来のヒーロー候補生は違うわ」
「そうか。良かったな」
「んん?なんかあったか?てか最近ご機嫌斜めだよな。話、聞くぜ」
「…いや、いい。大したことじゃない」
ひざしが心配そうに見つめてきたが、至って何も無い様に振る舞った。ひざしもそれ以上言及してこなかった。
一ヶ月、一ヶ月だ。その期間、耐えればいい。そう思っていた俺の考えは甘かった。
A組の授業が終わり、職員室へ帰る途中、見かけてしまったのだ。
遠くから見てもわかる大きなトサカに、小さい影が迫っている。
足早に近づくと、だんだんと会話も聞こえてきた。
「先生、ほら、気にせず手回してください」
「いや!俺本当なんてことねぇから!リスナーの気持ちはありがてぇけどよ。気持ちだけ貰っとくぜ」
「そんなこと言わずに。ヒビでも大変な怪我ですよ」
相手は生徒だった。しかし、明らかに俺と同じ『好意』を持って接していた。
手はひざしの腰の辺りにある。ふざけんな。そこ触って良いのは俺だけだ。体全体も密着しそうで、距離が近い。ふざけんな。ふざけんな。ふざけんな。
「ふざけんな」
気がついたらひざしを抱きかかえ、思っていたことが口に出ていた。
「へ、あ…、相澤先生…」
「…わるい、なんでもない。プレゼント・マイクは俺が今から職員室へ連れて行くから大丈夫だ。すぐに教室に戻りなさい」
「あ、すみません…分かりました」
そそくさと教室へ戻る生徒。あんな子供にまで嫉妬して大人気ないと反省した。
「相澤先生よ」
「…なんだ」
「だーいぶ大人気なかったぜ?顔怖すぎ。ありゃ、明日には何かしら噂になってっかなー?いや、あの子怖すぎて何も言えねぇかな?」
「…うるせぇ。反省してる」
「本当か…、
ひざしが言葉を言い終わる前に、ひざしを無理矢理引きずり、近くの準備室に入り、鍵をかける。
「ど、わ…っ!?なに、す」
そして、混乱してるひざしの顔を手で押さえて、そのままキスをした。
「ん、ふぁ、ぁ…っ、ん、んぅ…!」
「ん、は…、」
深いキスをして、ひざしを抱きしめた。思い切り力を込めて、逃げられないように、抱きしめた。
「ちょ、あいざわ、むり、痛い痛い痛い!!!!」
思い切り抱きしめていると、ひざしから抗議の声が上がった。
少しひざしが暴れだしたので、離してやる。
「…すまん」
「本当何考えてんだよ!!!骨折れるっつーの!!!俺病人!!!てか、その前に職場なのにおまえ…っ、キス…!!!」
「分かった、悪かった、もうしないから。仕事、戻ろう」
「…」
とりあえずひざしをなだめて、そのまま仕事に戻ろうとしたら、ひざしが俺の腕を掴んできた。
「あのさ、消太、おまえ変だよ。どうしたの」
「どうもしない。…ちょっと、大人気なかったけどな。何もない」
「嘘つき。嘘つく奴嫌いだぜ、俺」
ひざしが、サングラス越しに翠色の瞳で見つめてくる。その目に俺は弱い。でも、それでも言えるわけがなかった。俺の中のこのドロドロとした感情なんて。
「また、ちゃんと話す。今はとにかく…」
「間違ってたら悪いけどよ」
「…なんだ」
「俺はさ、消太にさ、どんな感情を抱かれてても、それをそのまま愛せるよ」
「…っ!!」
とにかく今は、この場から解散しようと逃げようとしたら、思いがけぬ言葉に驚く。
それは、どういう意味で。どういう意味で、俺に言ってくれてるんだろうか。
「それ、は…」
「消太はさ、あんまり、気持ちとか話さねぇじゃん?でも、愛されてるのはすげー伝わってるから、それでいっかーって思ってたけど。ここ数ヶ月のおまえ見てたら、違うかもって。ちゃんと、ぶつけろよ。おまえの気持ち。俺と違って、そういうの苦手なの知ってるけど…我慢されるのは、こっちも辛ぇよ」
俺の、気持ち。それは、とんでもなく汚いものだと、ひざしは知らないから。そんなこと、そんなことできるわけ、ない。
「そんな、こと」
「俺もうとっくに、おまえ以外は無理なの。消太以外の人じゃ、無理なんだよ。それくらい、おまえに溺れてんの。だから消太。いいよ、何言っても。何思っても。全て受け止めて、全て愛せるよ。俺。」
あぁ、まただ。白雲のときから、いや、高校入学して、初めて会った時からずっと。いつもいつもひざしが手を差し伸べてくれて。俺はその手を掴むことしかできなくて。
いつも、いつだって、ひざしに救われっぱなしなのだ。
「気持ち悪い、と思う」
「うん。大丈夫」
「嫌になるかもしれない」
「ううん、ならないから。大丈夫だぜ」
「ひざし…」
ひざしに、片腕で抱きしめられ、もうダメだった。
堰き止めていた気持ちが、溢れ出して止まらなかった。
「ひざしを独り占めしたい」
「うん」
「ひざしにどこにも行かないでほしい」
「うん」
「ひざしは、俺しか見ないでくれ。他の人なんて、目に入れないで欲しい」
「うん」
「他の人に触らせないで。ひざしの手も足も、腰も喉も、髪の毛の一本だって俺のものだから。触らせないでくれ」
「うん」
「気安く笑顔を見せないでくれ。あの眩しい笑顔だって、俺だけのものにしたい」
「うん」
「ひざし、すまん、こんなこと。言いたくなかった」
「ううん、俺は、聞けて良かったぜ。」
抱きしめ続けてくれるひざしは背中を優しく撫でてくれる。
「そんな消太も、愛してるよ」
「ひざし…」
ひざしの優しい声。俺の心を溶かしてくれる。こんなに汚れた気持ちを受け止めてくれる。
そんなひざしに、俺は何が出来る?
「ひざし、俺…」
「何にもいらない」
「は、」
俺の気持ちを読んだようなひざしのセリフに驚く。
「あ!消太がもっとその気持ちを俺に伝えてくれたらいいぜ。それでオーケー。他はいらねぇ」
「…男前すぎるだろ」
「ぶはっ、だろ〜?知らなかったか?おまえのハニーは超イケてんの」
「知ってたつもりだったが…予想を上回った」
「知ってたのかよ。愛されてんなぁ、俺は」
「ああ、愛してる。さっきも言ったみたいに、もうどうしようもないほど」
束縛して、独占したい程。ひざしの自由を奪うほど。だけどひざしは、なんてことないように話す。
「あれ全部、受け止めるのは受け止めるけど、実行は無理だぜ?」
「ああ、分かってる」
「Good boy. 俺のダーリンは、素直で良い子だな。でも、もう消太が嫌な気持ちにならないようには、頑張るから見ててくれよ」
「…ありがとう」
俺も、ひざしの気持ちに応えて、出来るだけ気持ちを伝えようと心に決めた。
しかし、それはどういう日々が待っているかというと。
「おい、ひざし」
キッチンで料理を作っているひざしを、後ろから抱きしめる。
「んー?何?」
「今日、一緒に話してたヒーローいただろ」
「ん?うん、あいつかな」
「ちょっと距離が近すぎだ」
「えー…結構意識して離れたけどな?」
「あと30センチは離れてくれ…」
「結構無茶言うよな消太」
ぐりぐりとひざしの肩に額を埋めると、ひざしの呆れながら笑う声が聞こえる。
「次はもう少し離れてみるな?ごめんな、消太」
「謝ることはない」
器用に料理を作りながら、俺を宥めるひざし。このところこんな感じで、俺がひたすら無茶を言い、ひざしがなんとなく宥めるという日々が続いてる。
それでも、少しずつ自分の気持ちを吐露して、ひざしが受け止めてくれるだけで、心の余裕が全然違う。前よりもひざしが他の人と絡んでても耐えれるようになったし、前みたいにドロドロとした不安に襲われることも少なくなった。
ひざしにそのことを伝えると、心が健康になったんだな、と言われた。心の健康など考えたことがなかったので、目から鱗だった。
俺は、ひざしを後ろから抱きしめながら、つぶやく。
「ひざし、愛してるよ」
ひざしは、同じく愛してる、と応えてくれた。