個性「鈍感」だった? 山田がオメガだと知ったのはお互いが三十を手前にした頃だった。
ヒーロー名、プレゼント・マイク――教鞭も執るしラジオのパーソナリティーだって広い世代に人気。派手で強くて格好良いヴォイスヒーロー。この山田という男は十五年近く、世間だけでなく同期の俺だって騙してくれていたらしい。
「世間はともかく、近くにいた相澤くんが気付かないのは鈍過ぎるんじゃねぇの?」
だってお前とは何度も寝泊まりしたじゃん。呆れたみたいに笑って茶化されても悪い気はしない。山田は顔だって、目がデケェから多分普通に可愛い。山田が笑うたびに揺れる髪からは、よく分からないがとにかくいい香りがする。
こんなサラサラの髪をカッチカチに固めて、ガンガンにメディア露出してる山田のことは尊敬している。お前、ただでさえ格好良いヒーローなのにオメガってなんだよ。そんなこと隠してここまでくるの大変だっただろ。
確かにたまに今日の山田めちゃくちゃエロいなって思うこともあったけどな。なんで俺の服勝手に持ち出して包まってんだ? って思った日もあったけどな。やたらくっついて来る山田になんだか気まずくなった夜もそりゃすげえあったけどな。
「学生の時に」
「ん?」
「学生の時に言えばすぐに楽にしてやったのに」
「さすがに最低すぎるぜ相澤くん」
こういう時に下ネタとかやめろよな〜って笑いながら、山田は俺の胸元に顔を埋めた。長い髪がさらさらとシーツに流れ落ちて、傷ひとつない山田のうなじが見えた。
「お前がこの年まで恋愛とかに興味なくて良かったよ」
「相澤くんさァ〜?」