あくろす小咄(パンクと蜘蛛達)「ホービー」
「ピーターパン」
「………あのさぁ」
「んー?」
「ぼく、マイルスって名前あるんだけど」
「知ってる」
「じゃあなんで毎回」
「愛称だ」
「それって見下し?」
「まさか」
「じゃあ………、認められてるってこと?」
「ハナっからな」
「〰︎〰︎〰︎あー、そういうとこぉ! マジな顔で言うからタチ悪い!」
「マジな話だしな」
「ぁああー! ……ったく! 要件話すからね!」
「おーぅ」
「こういうとこでカッコ良さ見せてくれるからズルいんだよなぁ……」
「お前もいつでもカッコいいぜ、ピーターパン」
「だからそれ卑怯だって……!」
「……ホービー」
「どうした、グウェンディ」
「その、ちょっといい?」
「なに」
「あのさ………ちょっと、ここじゃ、言いにくくて」
「ぁあ………ここらで休憩するか」
「………ごめんね、作業中に」
「気にすんな。こっちも詰め過ぎてた。丁度いい」
「ひとつ貸しだね」
「気にすんな」
「今度奢る」
「コーク何杯だ?」
「そこまでケチじゃないよ!」
「知ってる」
「でも今ので一杯減らすからね」
「手厳しいな」
「アンタが悪いの。反省!」
「したことねぇな」
「知ってる。………ホービー」
「ああ」
「ありがと」
「おぅ」
「我が友〜っ! HB!」
「悪友パヴ! 変わらずそっちはテンション高ぇな!」
「それが僕の強みだもん! ……ちょっといいかな?」
「なんの悪巧みだ?」
「えへへ、バレた?」
「そのツラ見ればな」
「さすが我が悪友! 実はさ……」
「おっと、ちょい待ち。場所変えるぞ」
「それって《あそこ》?」
「察しがいいな」
「君と僕の仲だもん! チャイ淹れていい?」
「スパイスたっぷりで頼むわ」
「勿論! 我が家に伝わる秘伝……ってわけでもないけど自慢の調合さ!」
「アレ飲むとハイになんだよなぁ」
「嘘!?」
「嘘」
「もぉおおおお! 悪い口め!」
「彩色の戦士、ミスター・パンク」
「これは無彩の探偵殿。ノワールで合ってるか」
「左様」
「俺に何か?」
「うむ、我が友人マイルスを助けてくれた礼と、だな」
「?」
「君と話をしたくてな」
「俺と?」
「まだ年若いというのに、ファシスト達とやり合ってるそうじゃないか」
「そっちこそナチスやギャング相手に大暴れしてんだろ? マイルス達から聞いてるぜ」
「如何にも!」
「いいね、最高にクールだ」
「ほぉ、君のアースでは『クール』というのか」
「理不尽押し付けてるクソ権力者共や金の亡者共のケツを蹴り飛ばしてんだ、『クール』だろ」
「『クール』………成る程、いい響きだ。ふふ、君とはいい語らいができそうだな」
「馴染みのパブがあるが、行くか?」
「ミルクセーキがあれば」
「噂通りか」
「可笑しいかね?」
「いんや? そういう型にハマらない奴がいるのも『クール』だ」
「ぁああああ、ホービー! すまん、頼む!」
「Bパーカー」
「助かったぁああ! サンキュ! 我が救世主よ!」
「俺はヒーローじゃねぇよ」
「メイデイにとってはそうなの! おれにとってもね!」
「きゃ〜ぅぅ〜」
「そうそう、お前も大好きだもんなぁ、ホービーのこと………って、ぁっ、また! 元気がいっぱいでいいな! ベイビーは!」
「またハイハイの速度上がってんなぁ」
「もぉおおお、こっちは大変だよ! ま、そういうとこも愛らしいんだけど! はぁい、捕まえた!」
「ぁあぅうー!」
「赤ん坊ってのはアナーキストの最上位だかんな。予測不能であってこそだろ」
「そうそう、最上位で予測不能」
「将来有望だな、いろんな意味で」
「やっぱり? ………って、え、なにその含み発言!? ダメダメ! うちのピーナッツはお嫁にはまだ出しません!」
「親バカ全開」
「家族愛に溢れてるって言ってくんない?」
「言い換え様な。ところで《あの匂い》すっけど」
「え………? !! ホントだ!」
「『クソ度胸に敬服』」
「言葉遣ーいっ!」
「ホービー」
「ジェシカ」
「また貴方ね」
「なにが」
「と・ぼ・け・な・い」
「イェス、マァム」
「嫌味ったらしくUS風に言うんじゃないの」
「合わせたのさ。おチビちゃんへの情操教育も兼ねて」
「それはわざわざどうも。………前に言わなかった?」
「言うってなにを」
「『パーツをくすねるのは見逃すけど——』」
「『自作の海賊版をホイホイ渡すな』。ミゲルのお達しか?」
「いいえ、わたしが個人的に心配なだけ。いい……? あれは超高度な精密機械なの、もし何か……」
「だから各々で弄って調整してる。こっちが渡してんのはあくまで下地、基本だ。マーゴ達にも助言を求めてな。蜘蛛なら誰にでも使えるってのは確かに便利だが、隷属を促すのは違うだろ。てめぇの装置持ってても構わねぇ筈だが」
「………それが貴方の持論?」
「チクるか?」
「チクっても構わない顔で言うんじゃないの」
「よくお分かりで」
「くれぐれも気をつける様にだけは忠告なさいよ? 行った先で体の分子構造がバラバラに……なんて洒落にならないから」
「トーゼン。俺だって無責任じゃねぇ。——ジェシカ」
「なに?」
「こっちも誰彼構わずじゃねぇ。支給品で助かるやつもいる。組織運営すんならニーズに応えてやるんだな」
「皮肉なのか応援なのか分からないね、貴方のソレは」
「旦那とどっちがマシ?」
「ホォオオオビィイイイ〜?」
「イェス、マァム」
「ホービー・ブラウン」
「ぁに、クソ真面目リーダー」
「何故お前は私の側で飯を食っている」
「そこに飯があったから」
「あれは私への差し入れだ」
「食ってなかったろ。しかもダストシューターに入れて」
「ゴミを食うのか貴様は」
「ゴミになる前に食ってんだよ」
「…………から」
「ぁむ?」
「………必要ないと言っているのに準備するからだ……」
「前以て断っとけよ、互いに面倒ないだろ」
「出来たら苦労はない……!」
「相っ変わらず周囲からの善意の押しに弱いな、クソ真面目。これ何個目の新作メニューだ」
「お前の話は聞かない」
「だろうな。——あ、このポテト塩薄ぃな。ハーブソルトあっか?」
「置いてるわけないだろ! そもそも此処で食うなと……!」
「ミゲルバーガーって、バンズの色と味のイメージが一致しねぇよな。濃くしてぇの? 辛くしてぇの?」
「喧しい! デスチリソース入れるぞ!」
「うわ、なにその物騒ネーミング。お前の毒でも入ってんの?」
「食い物に毒など入れるかー!」