19歳組の。「俺かて、むっちゃ焦ってんねや」
「え?」
「おっ」
「よォ、ここ空いてっか」
「おぅ」
「聞いてやぁ、ザキー! 今日も弓場ちゃんに穴ぼこまみれにされてもぉたー!」
「おーおー、マジか。………弓場も毎度容赦ねェなぁ」
「せやろ? ヤバない? 弓場ちゃん、あのコワモテであんな強いってヤバない? 射程もエグいってヤバさ増し増しやない?」
「ダァボ。何腑抜けた事言ってやがる。タイマン勝負に手ェなんざ抜けるかァ」
「キャーッ、弓場ちゃんってばおっとこまえ!」
「………よーし、まだヤラれ足りねェんだな。歯ァ食いしばれェ!」
「いだだだだだ! なんでぇ!? 褒めただけなんに!」
「テメェのそのクソ真顔で褒められても嬉しかねんだよ!」
「ぎゃーっ、横暴! ギブ! ギブや! ザキー!」
「待て待て! 弓場! 極まってる!」
「あれ、柿崎に弓場に生駒じゃないか」
「おっひっさしぶりー! 実力派エリート現着ぅー! おれも混ざっていい?」
「良いわけあるかぁ! まずあの二人を止めろ!」
「………あのな、二人とも仮にもここは本部なんだぞ。じゃれ合いも程々にしろよ」
「おゥ、済まねェ」
「生駒了解」
「コブラツイストだろ、あの技! 綺麗に極まっていたな!」
「纏めようってところを崩すな広報部長!」
「ほんま弓場ちゃんの身長差、ずっこいわぁ……」
「プロレス中継見てるみたいだったよ〜。生駒っち大丈夫だった?」
「迅、やさし………あんがとぉなぁ………ばぁちゃんに会う幻想ちょっと見えたわ」
「おい待て、三途の川渡ったらダメだろ」
「? まだカクシャクしとるよ? 今年で古希」
「生きてるのかよ!」
「ご老体を勝手に殺すな、ダボが」
「や、こういうの結構ノリええねん、ウチ。じぃちゃんもばぁちゃんも、近所の子が『バーンっ』ってやったら『ウッ』って遊んでくれんねん」
「京都なんだよな、お前の実家」
「? 京都やで?」
「………俺が知ってる武道の師範イメージと違う」
「血ィ濃すぎるだろォ、生駒の親族」
「その生駒っちを逐一相手してるあたり、弓場っちも同類だからね〜」
「……………」
「? どしたん? ザキ?」
「生駒、お前さ……」
「なになに? 言うて? 気になるんやけど」
「………いや、そんなに負けまくってて大丈夫なのか?」
「ほへ………? いっぱい負けとると、ヤバイん? B級から落ちてまうん?」
「あ! ち、違う! そういうことじゃねェんだが……」
「ボーダーにそういうシステムはないから安心してくれ!」
「ホンマに!? 良かったぁー!」
「ドッサリ負けときながら、それ以上に勝ってる奴のセリフじゃねェんだよ」
「それが生駒っちだもん。今や8000ポイント間近だもんねぇ」
「最初にだいぶ上乗せされとるから、自分で獲ったん少ないで?」
「んなもんとうに消えてんだろォが」
「生駒っち、格上相手ともやっててそう言うんだもんなぁ」
「選り好みしとったら鍛錬にならへんやん」
「生駒らしいな! 武士の道って感じで」
「やや、じゅんじゅん、ウチは居合道やからね?」
「……………」
「………ザキ? どないしてん?」
「ザキ、ちゃんと言わないと生駒っちに伝わらないよ」
「? え、え、俺なんかしてもた? 知らんうちに? ザキ、何やらかしたか覚えないねんけどすまん………」
「ち、違ぇ! お前のせいじゃなくて……!」
「?」
「………………その、落ち込んだりはしてねぇのか……と……」
「あぁー、そっちかぁ。んー……………ないな!」
「ないのかよ!」
「コイツがそんなタマかよォ」
「もしもぉし、弓場ちゃん? イコさんを勝手にスーパー情緒ナシ人間にすんのやめてもろてええですか?」
「やめろ、ヒトの頰をグリグリすんな」
「なぁ、皆ヤバイで………弓場ちゃんのほっぺ、スベスベや………モチモチはしとらんけど」
「どんな感想だよ」
「感触楽しんでるねぇ」
「折角やもん。トリオンエステなん? トリガー起動したらみんなスベスベになるん? どうなっとん?」
「俺が知るかァ、いつまで突ついてやがる」
「ぁあん、いけず! ————ザキもあんがとなぁ。俺んこと心配しとってくれて」
「! いいよ、止めろ! 恥ずいから! …………気にしてなきゃ良いんだよ。フツーは………凹む……からよ」
「おぉ………キュンしてええ?」
「いや、なんでだよ」
「凹むかっちゅうたら、凹んでるほうやもん」
「えっ」
「そうなのか!?」
「生駒っち、顔出なさすぎでしょ」
「そぉかぁ? んー、あっちこっち筋肉硬いんかなぁ。当人的にはプリチーセクシーイケメンイコさん路線で行きたいんやけども。絶対モテモテやし」
「どんな路線だァ、バカ」
「ちょ、酷い、弓場ちゃん! バカって言わんといて! せめてアホで!」
「どう違うんだよ!」
「関西だとまったく違うらしいぞ、それ」
「………違いがまるで分かんねェ」
「あんなぁ、落ち込んどらんけど、悔し言うたら悔しいし、凹んでるっちゅうたら凹んでるんやで、これでも。イコさん、まだいたいけな18歳!」
「本当にいたいけな18歳はそんな台詞言わねぇと思うぞ………」
「だな、いたいけな18歳に謝れや」
「迅………胸借りてええ? 一日歳下と七ヶ月歳下に言われたぁ………」
「おー、よしよし、生駒っち。ぽんち揚げ食う?」
「食う!」
「大丈夫だ、生駒が頑張ってるのは俺たちが知ってるぞ」
「ハッ、毎回負け続けてもコッチに真っ向勝負仕掛けてくんのは誰だコラァ。負けた分強くなりゃいいだけだろォ」
「………弓場ちゃん、かっこええ……!」
「キュンしたら速攻撃つからな」
「ぇええ」
「生駒っち大丈夫。弓場っちは照れてるだけから」
「迅………テメェもぶち込まれてェみたいだなァ……」
「いやーん、ムキにならないで! ぽんち揚げあげるから!」
「要るかァ!」
「弓場、ブース外で銃抜くな! 迅も煽るな!」
「相変わらず仲良いからなぁ」
「そうだけど、今言うセリフなのかよそれは」
「せやなぁ…………せやんなぁ。弓場ちゃんの言う事ごもっともやわぁ………。太刀川さん達とも今日もやらせてもろて、指摘もされたんやけど、まだまだ自分が『引っ張ってまう』感あんねん。精進まるで足りんわぁ。もっと頑張らなかん。じぃちゃんに叱られてまう」
「『引っ張る』感とかは経験者じゃねぇと分かんねぇが、お前そういうとこはすげぇ真面目でまっすぐだよなぁ。…………って、ん?」
「?」
「——————待てや、生駒ァ。太刀川さん『達』って言ったなァ」
「? 言うたで」
「お前、今日いつからコッチ来てた」
「おん? ガッコで『四限自習やし、出すもん出したから、先行くわ〜』言うたよな? 弓場ちゃんへもメッセ入れたで?」
「言ってたな」
「………来てた、な」
「今から五時間前だったか」
「まさかそっからずっと個人戦漬けとか?」
「そやけど?」
「アァ!?」
「待て待て待て、生駒」
「お前、誰とやったか覚えてるか」
「『誰と』? んーとな、約束しとった太刀川さんに、米屋ちゃんに、辻ちゃん、ほんでもってまた太刀川さんと十本×七・八セットで………あと誰と誰やったかなぁ………三輪クンと風間さんも俺がブース来る前にいたらしいんやけど、捕まらんくてできへんかった………」
「お、おい、いくらなんでも」
「もしかしなくても、生駒っち休みなし?」
「やりすぎはよくないぞ生駒!」
「? ブースの順番待ちはちゃぁんと守ったし、おやつはちゃんと食べとるよ? 三百円以内で」
「そういう事じゃなくてなァ………」
「生駒ァ………テメェ、ヨレヨレのハンデ付きで俺と十本勝負やりやがったのかァ……いい度胸じゃねェか……! 今からブース入れェ」
「ええええぇ、なんでやのん! イコさん、全力勝負でもうカッツカツやのに! 頼まれてもなぁんも出ぇへんよ!?」
「関係あるかァ!」
「だぁああああ落ち着け、弓場!」
「弓場、生駒ももう無理だと言ってることだし、せめて明日にしたらどうだ」
「そうそう、明日やった方がきっと楽しいからさぁ」
「お前ェのサイドエフェクトがそう言ってんのかァ、迅」
「うん、言ってる言ってる」
「なら待ってやらァ。首洗って待ってやがれェ」
「………! おん、待っとるでぇ」
「良い笑顔だな」
「生駒っちは微妙にしか表情動いてないけどね。二人の為にネタバレは控えとくよ〜」
「あえて言わずの時点でお察しってことじゃねぇのか。…………生駒、骨は拾ってやるから」
「ぇ、応援しとるんと違たんか?」
「…………ザキ」
「なんだ? 生駒」
「あんがとなぁ、あん時めっちゃ嬉しかってん」
「あん時ってどの時」
「あ、『落ち込んでねぇのか』ってアレ?」
「おん! それそれ!」
「お、おお………? そこまで感謝するもんだったか……?」
「するするー! ザキのあの一言なかったら俺ズブズブやったもん!」
「そこまで大袈裟に言う程のもんじゃ……」
「いくらでも言ったるよ?」
「————俺かて、むっちゃ焦ってんねや」
「え?」
「焦るってなにをだァ」
「………? 自分ら、自覚ないん? みーんなガッコもおウチのこともあん中、隊持ったり、広報に防衛任務にで忙ししとるやん? いろんなモンに目配って気使ぉて。めーっちゃかっこええやん? やのに、こっちはまだスタートラインに立てただけ。立っちもままならん、ハイハイ時点もええとこや」
「?!」
「ぶふっ!」
「………ハイハイってな」
「あははははは! ほんっと生駒っちって!」
「最後、今日出会ったばっかの後輩達と組んで、相手をスパスパ斬っていたお前がハイハイレベルかよ……」
「『超高速ハイハイ』だな!」
「コッチにはトリオンカッツカツと言っときながらなァ」
「ホンマにあと数分レベルやったで?」
「へいへい、知ってる。見てたっつぅの。………あいつら、余所者だなんだで絡まれてたからな。ボーダーあるあるな光景ってのが情けねぇが………」
「俺も周知させてるし、見かけたら止めてるんだがな」
「ったく、物見遊山気分で続けられるバカがいるかっつぅの。手と脳味噌の使い道を間違えてんだろォが、クソ共め。生駒ァ、テメェもコケにされてたんだろォが、なんであん時ビシッと怒らねぇんだ!」
「んー、そぉ言われてもなぁ………余所者なんはホンマやしなぁ」
「! あのな生駒、お前そういうところだぞ!」
「こーいう時、全然怒んないんだもんねぇ生駒っち。模擬戦直後に組んだ子達を『隊組まへん?』って口説いちゃってるし」
「そういうところが生駒らしいよな」
「せやろ? イコさん、ちょっとカッコよかったやろ?」
「自分で言うな!」
「そこが残念なんだっていい加減自覚持ちやがれ、ダボ」
「あ〰〰〰〰〰…………腹筋痛い。さすが生駒っち、ブレないわぁ。今日見に来てて良かったぁ」
「えっ、迅、イコさん見るために来てくれたん?」
「それが全部じゃないけどね。生駒っち絡みで面白そうなものが見れそうって視えたから、ちょっと居残ってましたぁ!」
「ほんで? 迅的にはどやった? おもろかった?」
「面白かったよ〜。除隊して里帰りしちゃう未来だってあった後輩達を惹きつけて、やる気引き出させて、『駒』として自分を使わせての圧勝だもん」
「ほんならええわ。…………正直、俺みたいなんが隊組んでザキやじゅんじゅんや弓場ちゃん達みたくやれんのかっちゅぅたら自信あらへんよ。でも、今日あん子らの目ぇ見て一緒にやってみたら、なんかおもろそうって思うてな」
「『おもろそう』……」
「超感覚的だなァ」
「俺、理論派やないし、頭よさそな言語化できへんもん」
「『もん』じゃねェだろォ。年長者って自覚あんなら脳味噌フルに回しやがれェ。『戦術、新人と自分に全振りしやがった』って藤丸がぼやいてたじゃねェか」
「実際うまく回ったやろ?」
「………否定はできねェな………かなり癪だが」
「藤丸のやつも最後は笑ってたもんな。 『オイオイ、厄介な奴ら起こしちまったんじゃねぇのかァ!?』って。………スッゲー怖かったけど……」
「確かにさー、生駒っちってこっちの理論も予測も軽々飛び越えちゃう癖に他人に使われることに抵抗ないから、よっぽどの土壇場以外は参謀に任せてた方が回るかもね〜。水上クンと隠岐クンだっけ? 面白い子達だったよね〜」
「今月、関西から来た子達だよ。綾辻達の話じゃかなり優秀だそうだ」
「『返事は後でもええよ、いくらでも待つ』言うたんに、即決してくれたん。ほんまにええ子達やわー。オペ探しはまだやし、申請に何が要るんかも知らんから諸処は明日以降になってまうけどな」
「日和ってんじゃねェぞォ、生駒ァっ! さっさと決めて結成させやがれ! 出来次第ランク戦で叩き潰してやっからよォ」
「隊以外の事でも分からない事があればいくらでも聞いてくれ! 相談に乗るぞ! なぁ、柿崎!」
「あ、ああ……! 俺でよきゃ……!」
「おれもぽんち揚げ持ってってあげる〜」
「みんな、おおきにー! …………因みにな、迅」
「ん?」
「迅みたいにかっこええ『独り身助っ人ヒーロー!』路線も考えたんやで?」
「え、生駒っちマジ? このエリート助っ人迅さんの魅力に気づいたの? 分かってくれたの? キュンってしていい?」
「ええで! ………せやけど、肝心の胡散臭さがイコさんにはまるで足りへんことに気付いてなぁ………」
「ぶふっ」
「ぐふっ」
「胡散臭さ」
「!? ちょ、ちょっと生駒っち!?」
「ほんま残念やわぁ………ちゅぅ訳でイコさんはエリート助っ人にはなれへん! すまん! 独り身寂しいかもしれんけど、あんじょう気張り!」
「至極残念そうに言わないで! 上げて落とすのやめてくんない!? そういうの一番堪えるから!」
「ククッ………胡散臭いってのは同意だなァ」
「あはは、そうだな! 生駒が暗躍してるほうが想像しづらいよ」
「お前まで迅みてェになったら、それこそ三門の悪夢だろぉが」
「うううう、みんなヒドイぃ〜」
「イコさんの胸貸そか?」
「おれのことぶん回したの生駒っちじゃーん!」
「今ならタダやで?」
「……………うん、それなら………」
「揺らぐのかよ!」