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    らくがきとSSと進捗/R18含
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    ※ネタバレ
    Bloodborne 月の魔物×狩人
    「幼年期のはじまり」エンドのイベントムービーを見て書いたものです(2024/05/30)

    ##ゲーム
    ##SS
    ##Bloodborne

    救いだったかもしれないあなたへ 『それ』を見た時、俺はほとんど無意識に手を伸ばしていた。
     血のように赤い月から舞い降りてきたそれはひどく神々しく、俺はそれを「うつくしい」と思った。正気の人間なら、あの異形の存在の顕現に恐怖を抱く……ところであるのかもしれない。だが俺はそれを視界に捉えても、そんな感情は露ほども湧かなかった。
     俺は手を伸ばしたまま、『それ』へと歩み寄っていった。というより、惹き寄せられたという方が正しいかもしれない。思考は真っ白で、歩みを止めろとか、危険だとか、きっと死ぬぞとか、そんな本来あるべき本能的な警報が頭の中で鳴り響くことはなかった。
     静かに咲き乱れる白い花畑に、『それ』はゆっくりと降り立った。静謐で、神聖で、ある種の厳かさすら感じられるその姿に、俺は声もなくため息を漏らした。
     上位者――なのだろうか。
     繰り返す夜の悪夢の中で、俺は幾らかの上位者と対峙してきた。外見の雰囲気は確かにそれらに似る。けれどもやはり、その今まで見てきた上位者に抱いたような心臓がざわつくような恐怖や嫌悪は全く感じられず、俺は惚けたように『それ』に見入ってしまった。
     すると『それ』はおもむろに俺の方へと手を伸ばし、その両手で俺の身体を抱き寄せた。しかし無理矢理に引っ張るという感じはなく、まるで幼子を、或いは愛しいものを慈しむかのような優しさがあった。俺は『それ』の顔……と思しき部分を見つめたまま、自分を包んでいる大きな手の動きに合わせてもう一歩ばかり近づいた。
     歪な仮面のような貌、干からびた樹木の根のような躯体、ゆったりと揺れる長い尾たち。それら全てがひどく、ひどく俺の胸の中を掻き乱す。
     触れたい。
     触れられたい。
     腕に抱いて、口付けたい。
     
     ――俺はただ生きたかった。助言者の提案を断り、そして彼と対峙し、彼をこの夢から葬ったのは、ただそれだけが理由だった。けれども度重なる死と、それが「なかったこと」のように延々と繰り返される悪夢のような現実に、俺自身がとっくに疲れ切っていたのも事実だ。
     誰かに殺されたかったわけじゃない。病を消し去りたかった。苦しみをなくしたかった。まともに生きられる「人間」に戻りたかった、ただそれだけであって、――けれどそれはついぞ叶うことはなかった。
     だからだろうか。突然目の前に現れた『それ』が、抗い難いほどの「救い」であるように思えたのは。
     
     俺は半ばふわついた思考のまま、『それ』に触れようと手を伸ばした。細く長い指の一本が、俺の肩をやわく包む。そして『それ』は祈るように俺の胴へと頭を押し当て――――
     その時俺の身体から光が溢れ出た。
    「……ッ!?」
     俺の身体から出た光に驚いたように、『それ』はすぐさま俺から手を離して距離を取った。俺自身も驚いた。その光はきっと、俺の意志ではない何かだった。俺は自分に近づき、俺を抱きすくめた『それ』を受け入れるつもりだったのに、俺の中にいる何かがそれを拒絶した。
     後方に飛び退いた『それ』が、ゆっくりと面を上げる。息の音のような、呻き声のような何かを漏らしながら、『それ』は再び俺の方を見た。俺もまた、顔を上げて向き合う。もう一度手を伸ばして、『それ』に触れるために。
     ああ、けれど――もう手遅れだった。
     枯れた巨木のような『それ』は立ち上がり、頭を振って低い唸り声を上げた。おおお、という、腹の底に響くようなその声には、もう先ほどの抱擁のような優しさはなかった。待ってくれ、違うんだ、俺は咄嗟にそう言いかけたが、喉から音が発せられることはなかった。焦燥と悲しみと混乱が俺の中に湧き上がってきて、どうにかしてそれを鎮めたかったが不可能だった。
    『それ』はもう、俺の中の何かを「敵」として見つめていた。
     眼前の巨体が身構える。そこにあるのは殺意だった。俺の体の中にあるものを砕き、すり潰し、跡形もなく消し去ろうとするための。それを見た俺も、腰に下げていた武器を自然と手に握っていた。慣れ親しんだ無骨な武器の柄の感触に、脈が上昇し、息が浅くなり、そして恍惚としていたはずの甘い思考がすうっと冷めてゆく。
     違う。
     違う。
     違うんだ。
     武器を振り、仕掛けを起動させる。バチンという金属音と共にそれは変形し、獣を狩るための道具となった。しがみつくように胸の内に残り続けている感情とは裏腹に、思考が、生存本能が、命を脅かそうとする目の前の存在への抵抗を進めてゆく。
     ――違う、俺がしたいのはこんなことじゃない。こんなことじゃないはずなんだ。
     おおお、と再び『それ』が声を上げた。そして白く柔らかな花畑を強く蹴り、俺の体へと飛びかかってくる。俺の「腹」を目掛けて。
     それを見た瞬間、俺の体も武器を振りかぶった。もう分からなかった。分からなくなってしまった。俺を動かすその意志が、『それ』が鏖殺しようとしているものが、一体何なのか。
     だがそれはきっと、あとで考えれば良いことだ。そう、俺がこのうつくしいものの首を切り落とす時か、『それ』が俺の中の何かを抉り出して潰す時にでも。
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