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    🥗/swr

    らくがきとSSと進捗/R18含
    ゲーム8割/創作2割くらい
    ⚠️軽度の怪我・出血/子供化/ケモノ
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    Bloodborne 人形×狩人(※月の魔物×狩人前提)
    月の魔物撃破後に上位者になった狩人が、次の周回に行く直前の話です
    ※前半の話と切り分けて別々の話として投稿し直しました
    ※カップリング表記していますが親愛・絆よりの描写のみとなります(恋愛要素はありません)(2024/06/16)

    ##Bloodborne
    ##ゲーム
    ##SS

    棄却 ふと目が覚めると、目の前は優しい花畑のままだった。
     しかし、視界が一段低い。周りに咲き乱れている花々も、やけに背が高く見える。俺は自分に何が起こったのかわからず、ただ手――だと思うもの、を伸ばして花畑の外を目指した。
     体が重い。というより変に動きが悪くて、立っての移動ができなかった。
     俺は確か、月から舞い降りた『あれ』を倒した。それをしたかったわけではなかったが、そうせざるを得なかった。そして『あれ』を打ち破ったあと、俺の身体は急速に胎動を始め、俺の意識は暗くなり――――それ以降の記憶がない。
     先程己の身体から聞こえていたおぞましい音は、俺の全身の骨が折れたことでも表していたのだろうか。いや、それにしては痛みがない。では、何故立てないのか。
     だが今の俺にはその理由まで深く考える余裕がなく、せめてよく馴染みのあるものの元に帰りたい一心で這いずった。
     ――人形。
     人形は何処だ。
     進む速度は遅く、何故か這い進むたびに湿りを帯びた気色の悪い音が聞こえた。けれども何とか鉄柵の門をくぐり、土の露出した脇道を抜け、そして石畳の先にいる彼女の姿を認めた時、俺はそこで力尽きて動けなくなった。
    「――ああ――……」
     すると、声が聞こえた。
     かつ、こつ、とゆっくりとした何かの足音が聞こえて、それは俺の前で止まり、身体を屈ませた。
     視界に、よく見慣れた存在が映る。
    「お寒いでしょう、狩人様……――――」
     人形。
     彼女は俺をいともたやすく抱き抱え、その胸に優しく持ち上げた。俺はそこでようやく、自分の体が人間のそれではなくなっていることに気づいた。青黒く濡れたような皮膚には毛らしいものはなく、それどころか人の四肢らしいものすらない。俺が手だと思って感覚的に動かしていたものはどうやら触手状の器官に変化していたらしく、彼女に向けて伸ばしたつもりの「手」は、ぴちぴちと可愛らしく蠢いた。
     ああ、なるほど。これが正体だったのだ――『あれ』を拒絶し、受け入れさせず、俺に殺させたものの。
     俄かにそれを悟った俺は愕然とし、人形の腕の中で柔らかくうなだれた――うなだれるべき首らしいものはなかったが。
    「……狩人様?」
     人形はそれに気づいたのか、俺を気にかけるように視線を落としてきた。俺は彼女を見上げ、ぴちぴちと蠢いて意思を伝えようとした。言葉もないのに伝わるわけもないだろう、そう思ったが、そうせずにはいられなかった。彼女は俺を片手に抱き直し、もう一方の手で俺の伸ばした手だったものに指を触れさせた。
    「……お苦しい……、のですか?」
     ぽつり、と呟くような問いかけだった。けれどその言葉は正しく俺の状態を見抜いていた。俺は少し驚きながらも彼女の指に触れ続ける。
    「何か……、お考えなのですね?」
     彼女は俺の接触を拒むことはなく、ただ耳を傾けてくれた。俺は言葉を発することができなくなっていたが、けれど必死に彼女に訴えようとした。
     
     ――これは俺が望んだ結末ではないのだと。
     俺は生きたかっただけなのだと。
     俺はただ、ずっと、「人間」でありたかっただけなのだと。
     
     虚しさでどうしようもない感情がただただ己の内で叫び声を上げていて、それに共鳴するように夢の中の空気がキンと震えた。人形はまっすぐこちらを捉えていた翡翠色の瞳をゆっくりと瞬きさせて、そして口を開いた。
    「……そうだったのですね、狩人様……」
     ……聞こえて、いる。
     伝わっている。
     彼女が耳を傾けてくれたことに俺は安堵した。心細さから決壊しそうになっていた精神はかろうじて守られ、俺は涙が出るような気分になった。涙腺のある目が存在していればきっと泣いていたのかもしれない。
     
     もしかすると、今の俺の姿こそが「到達点」であるのかもしれなかった。上位者との接触を望んだあらゆる者たちが、焦がれ、求め、ついに届くことがなかった地点への。
     だが俺は、それとは違うものを欲してしまった。
     救いを欲することの、人が人でありたいと願うことの、何が間違っているだろう。たとえそれが、神たるものの高みを求めた者たちからしたら、「見えぬもの」の愚かな願いでしかないのだとしても。
     
     人形は淡い色の瞳を再び瞬かせ、それから静かに口を開いた。
    「……一つだけ、お手伝いできることがあるかもしれません」
     その言葉に、俺は俄かに人形の顔を見上げた。彼女の指に触れていた「手」の一つが、微かな希望に力をこもらせる。人形はこちらに向いたまま、ゆっくりと頷くような動作をした。
    「今や此処はあなたの『悪夢』。あなたの、『家』なのです。ですから『今』であれば、あなたはあなたの望みを叶えることができるはず。あなた自身の、お力でです」
     俺はぽかんとして、彼女の顔を見つめた。人形は少しだけ目を細めると、俺を抱いたまま顔を上げ、俺を夢の中の景色へと差し出すような姿勢を取った。
    「さあ、どうぞご覧ください、狩人様」
     高い空。そこに漂う灰と赤の雲。揺れる花々。立ち並ぶ墓石。煌々と輝く、うつくしい月。
     ――永遠に変わらない風景。
     それが糸口となり、俺の記憶の中からある事柄が思い出され始める。
     星の娘が佇んでいた、あの聖堂の最上部。その奥にある、ロマに酷似した上位者らしきものの死骸が置かれた祭壇。それだけではない、「メンシスの悪夢」。そして、「狩人の悪夢」。
     俺が駆け抜けてきた、現実であり現実ならぬそれらは「とある可能性」を示唆していた。
    「もう、お分かりでしょう?」
     彼女の言葉に、俺はぴちぴちと手を動かして答えた。彼女はそれを受け、小さく頷いた。
     示唆された可能性。すなわち、時空を制御する力。
     人たるものには決して持ち得ない、上位者のみに許された力。
    「……『今』だけなのです、狩人様。あなたが今のあなたであるからこそ、可能なことです」
     今の自分だからこそ可能なこと。まるでお伽話のようにも思えるその言葉は、けれど強い説得力があった。事実、俺はとうに人間ではなくなっていたわけで。人間ではないものに許された特権は確かに今此処に存在していた。
     けれど。
    「……ご不安ですか?」
     その言葉に、俺は肯定の意を込めて彼女の指に触れる。それを抱くのも無理はないだろう。今まで自分はただの人間だったのだから。出来ると言われたところで、それが本当に叶うのか。それをして取り返しのつかない罪を犯してしまうのではないか……そんな不安が俺の中で暗く澱む。
     それに、そんなことをして――この夢は。
     今此処に存在している人形は、どうなるのか。
     しかし人形は小さくクスリと笑い、大丈夫ですよ、と言った。
    「……私はこの『夢』であなたのお世話をするもの。あなたが狩人たらんとする限り、いつも、いついつまでも……、それは決して変わりません。たとえあなたが、望みを叶えることを願ったとしても」
     人形の言葉に、俺は少しずつ安堵を覚える。ああ、そうだ。獣狩りの夜を駆け抜ける中で、彼女はどんな時も、この夢の中にあり続けてくれていた。
     ならばきっと、俺が望みを叶えても。彼女はきっと「夢」の中に存在してくれるはずだ。
    「ですからどうか、私をお使いください。『狩人』として、そして――何よりも、あなたの意志のために」
     人形が小さく頷いてみせる。俺がしようとしていることを促すように。
     そして人形は、俺と触れていた指をもう少しばかり俺に寄せた。俺はそれに「手」を伸ばす。懸命に掴む。不思議なことに、その「願いの叶え方」は自然と頭の中に浮かんできた。きっとそれは、長い夜の中で幾度も力を貸してもらった時のことを覚えていたからだ。
     
    「――いってらっしゃい、狩人様」
     人形が目を細め、俺を見つめる。それはとても穏やかで、あたたかく。そしてどこか、微笑んでいるようにも見えた。
     俺は静かに「目」を閉じた。視界は暗くなり、けれど「手」はあたたかい。
     それを感じながら俺は願った。強く、強く願った。「再びの獣狩りの夜」を。焦がれてやまない、あのうつくしいものとの再会を。
     今の自分たらしめた何かと相容れないものだった、けれども長い夜の果ての「救い」だと思えたあの存在を。
     不意に意識が遠くなる。視界は青く揺らぎ、何かに溶けるような、吸い込まれてゆくような心地がした。
     遠くなる意識の中で、誰かの声が聞こえた気がした。それはとても、慣れ親しんだ声だった。
     
    「……あなたの目覚めが、有意なものでありますように――――」
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