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    らくがきとSSと進捗/R18含
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    ぶらぼ 月狩 SS
    自分だけが月の魔物のそばにいたい助言者狩人の話。(2025/10/02)

    ##Bloodborne
    ##SS

    労りと妄信 切り裂かれた腕の傷口からぼたぼたと血が滴り落ちる。俺はそれを見て小さくため息をついた。まあ――どうせ〝寝て起きれば〟きっと消えているのだろうが、人間から傷を負わされたのは随分と久しぶりなのもあり、なんだか不思議な懐かしさと不快感を覚えた。
     少し驕っていたかもしれない。この夢の守り人であるということに。
     滴り落ちた血が花畑の土に染み込んでいく。俺の血がこの庭に染み込むのはいつ以来だったか。ちょっと覚えていない。
     俺は眼前に転がっている、狩人の死体に目を向けた。しばらくすれば霧散して消えるだろう。彼らは俺によって首を刎ねられることで夢の加護を切断され、血の遺志供物を残し、花が咲き誇るための養分を撒き、そして朝へと去っていく。
     しかし、今回の狩人はなかなかに豪胆だった。
     大抵の者は、少なくとも最初は「狩り」に対して及び腰だ。だが今回の狩人は狩りの能力に優れ、よく血の遺志を集めてきた。武器を研ぎ澄まして鍛えたり、集めてきたりすることにも精力的であった。俺に助言を乞うことも熱心だったし、自ら工房内の書物を読み漁ったり、あるいは「外」の生き残りの狩人たちから情報収集することも進んでやっていた。
    『善い』狩人だった、そう言えるだろう。……だが――
     彼らは供物に過ぎない。血の遺志を蓄え、夢の中に持ち込み、俺に明け渡し、そして神が啜るための。
     だから供物は供物らしく、神のための膳に黙って据えられていればいいだけである。必要以上に「良き狩人」になる必要など、ない。少なくとも俺にとっては、彼らの熱心すぎる努力は邪魔なものだった。そして、夜明けの時の介錯への抵抗も。
     すんなり首を晒す者がいないわけではない、だが大抵の者は俺の提示に抗い、武器を構える。
     何故だろうな、と不思議な気持ちになる。この夢に戻ってくる狩人はみな、心身ともに疲弊している。こんなことやめたい、苦しい、間違ってるのでは、なんてぶつぶつと呟き、さめざめと泣き、突然狂ったように叫ぶものも、まあそれなりにいる。にもかかわらず、彼らは介錯への抵抗を示す。夜明けの頃には精神的な葛藤に諦めに近い整理がつき、あるいはその「味」を覚え――血に、狩りに、呑まれかけているからなのだろう。
     だがいずれにせよ、俺は結局彼らを狩らなくてはならない。「供物」を得るために。血の遺志を受け継ぐために。そしてそれを、神に捧げるために。
     彼らには自分が供物だという認識はないのだろうが、また事実だ——彼らがあくまで「客人」で、哀れな病み人で、外から運ばれてくる神饌の材料であるということは。
     どうして介錯される必要があるのかを彼らに懇切丁寧に教えてやる義理など、俺にはない。そもそも教えたところで肯定する者もいるはずがない。
     そして、何より――我が神の存在を自分以外の人間に知らせてやることなど、俺はしたくはなかったのだ。 

    「ッ――……」
     俄かに背後にある気配を感じた。振り向くと、月の魔物がそこにいた。いつの間に地の上に降り立っていたのだろう。あるいは降り立ったまま姿を隠してずっと自分たちの戦いを見ていたのかもしれない。
     気づいていなかったことに気恥ずかしさを覚えて慌てて一礼し、顔を上げると、月の魔物は負傷している俺の腕に尾と触手を絡みつかせてきた。傷口の上を這われて鋭い痛みが起き、思わず小さくうめく。
     ……と、次の瞬間にはもう痛みが消えていた。傷は裂けていた装束ごと元に塞がっている。最初からそうであったかのように。
     まるで手品か何かのようだ、と思いながら、感謝する、と礼を言った。
     ……いつも俺が「眠りに落ちている」時も、このようなことをしているのかもしれない。体の痛みはおさまり、衣服の傷みはなくなり……、そして、「中の熱」も。
     そういえば、この月の魔物は、俺の足を取り上げることすらできたのだ。あの時も、痛みなどひとかけらもなかった。そして戻してほしいと願えば、肉の足を返してくれた。新たな客人が来る時だけは、鉄の足にすり替えられていたけれど、夜さえ終われば元に戻してくれる。
     月の魔物の大きな手が俺を抱き、そしてまだ鉄のままの足に触れてきた。するすると撫で回され、感覚のないはずの足が少しくすぐったく感じられた。元に戻すかと問うているのだと思う。だが俺は首を振った。
    「いい。しばらく、このままで」
     鉄の足は不便だ。流石に生身の足と比べれば平衡感覚も掴みにくいし、その分戦いもしにくくなる。だがもう今晩は戦いが起こることもない。もうさっき終わったから。そんなことよりも、その鉄の足が今自分の身に与えられているという事実に不思議な恍惚感が湧き上がり、頭がぼうっとした。
     ああ、そう、これは、首輪。風切羽の切り跡。檻。枷。手綱。
     月の魔物が、俺を――俺という狩人だけを手元に置き続けることを選んだ、証。
    「なあ」
     甘ったるい声で、神に呼びかける。
    「待ってくれていたんだろう? ……『いなくなる』まで」
     そう微笑んで虚の顔をそうっと撫でる。そうすれば、俺の言葉に返事をするかのように、ふしくれだった指が俺の全身を包んで軽く引き寄せてきた。
     ああ、やっぱりそうだった。神は俺の戦いを、狩りを見守ってくれていた。「相手」には見えない場所で。
     今までここにやってきた狩人は、誰一人として、この神を『視た』素振りをした者はいなかった。アメンドーズなどの上位者とは見え方が異なっているのか――啓蒙がなかろうが、多く得ていようが、それは決して変わらなかった。
     そして、今回もそうだった。
     その事実に嬉しさが満ち溢れる。
     俺の神は、俺の前にしか現れない。俺の前にだけ、その聖体を晒す。
     俺だけを見つめ、俺だけに愛を注いでくれている。
    「……夜明けだ。やっとあなたのそばに居られる」
     そう言って俺は嬉しさのままに、月の魔物に全身を預けた。月の魔物が抱擁を返してくれるのを感じながら、幸福感に目を閉じる。

     月の魔物に魅入られ、手元に在り続けるための証を与えられ、月の魔物のそばで心を捧げ続ける者。
     そんな者は、未来永劫、俺一人で十分なのだ。
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