雨が上がれば ムシ達は水が苦手だ。水滴は彼らの体にまとわりつき、身動きを取れなくさせてしまう。ヘビのあぎと隊の三匹も例に漏れず、みな水が苦手だった。
「あーっ、もう! こんなんじゃアリの王国までかえれないんだけど! いつになったらやむわけ?」
予定外のにわか雨に足止めを食らったせいでヴィーの苛立ちは増す一方だ。小さな屋根の下を忙しなく歩き回り、噛み付くように叫ぶ。
「そんなにあつくなるなよ、ヴィー。しばらくすればすぐやむさ」
「うーっ、そんなのわかってるけど!」
そんな彼女を宥めるカブの声は明るい。軒先に座り込み、いくらでも待つとでも言わんばかりの様子だ。手持ち無沙汰になったヴィーが雨宿りしている建物の中をちらりと覗くと、ちょうど食事を終えたらしきリーフが歩み寄ってくるのが見えた。
「うーん……もうすぐはれるとおもうよ、これは」
会話が聞こえていたのだろう、彼は自分を覗き込んだヴィーに淡々と話す。ヴィーはその言葉に顔をしかめた。
「なにをこんきょに?」
「ぼくらはこおりのまほうを使うからね。くうきの中の水のことはなんとなくわかるのさ……ほら」
リーフが空を指差す。まだ彼らのいる場所は土砂降りだったが、遠くの空の厚い雲に、わずかな光の切れ間が見えている。
「ほんとだ……」
ヴィーはその雲の切れ間から指す光をじっと見つめた。座り込んでいたカブも、店から出てきたリーフも、ヴィーの横に立ってそれを眺める。降りしきる雨は徐々に弱くなり、薄暗さが消えてゆく。体にまとわりつく湿った空気も、風と共に少しずつ流れて去っていった。
「……やんだな」
雲の切れ間が広がって、待ち兼ねたものが顔を覗かせた。太陽だった。ぬかるんだ大地を、濡れそぼった草木を、そして冷えたムシ達の体を優しくあたためる。雨が降っていた時間はそれほど長くなかったはずなのに、ヴィーにはそのあたたかさがひどく懐かしく感じた。
「ごきげんだね、ヴィー」
「あったりまえじゃん!」
弾むような声色がリーフに返ってくる。先ほどまでとうって変わってくるくると楽しげに笑うヴィーに、リーフとカブはつられて笑みを零した。
「なぁ、すこしあるきまわらないか? もしかしたら虹が見えるかもしれないぞ」
「それさんせい! 二匹とも、はやくいこうよ!」
駆け出すヴィーと、それを追う二匹の姿があった。再び姿を見せた太陽はそれをただあたたかく照らし続けていた。