再会「おひさしぶりです、ヴィーナス」
懐かしいその声に、豊穣の女神は丘の入り口へと目を向けた。バグアリアじゅうに張り巡らせた、さまざまなものを感じ取ることができるはずの芽。それで感知できぬ唯一のムシが、そこにはいた。
「リーフか。なんとひさしいことか」
「そうですね」
女神の明朗な声に、リーフと呼ばれたムシは淡々と返答する。懐古の感情などこもらぬかのような声だった。だがヴィーナスは気分を害することはなかった。彼はそういう話し方をするムシなのだ。
彼は鮮やかな紅赤色の花畑を静かに踏み締め、そして女神の前で立ち止まった。感情の読み取りにくい瞳が、ヴィーナスをじっと見つめる。彼女は柔らかな背を曲げ、リーフに顔を近づけた。
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