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    xx年後のリーフとヴィーナスの話(2021/01/10)

    ##SS
    ##BugFables
    ##ゲーム

    再会「おひさしぶりです、ヴィーナス」
    懐かしいその声に、豊穣の女神は丘の入り口へと目を向けた。バグアリアじゅうに張り巡らせた、さまざまなものを感じ取ることができるはずの芽。それで感知できぬ唯一のムシが、そこにはいた。
    「リーフか。なんとひさしいことか」
    「そうですね」
    女神の明朗な声に、リーフと呼ばれたムシは淡々と返答する。懐古の感情などこもらぬかのような声だった。だがヴィーナスは気分を害することはなかった。彼はそういう話し方をするムシなのだ。
    彼は鮮やかな紅赤色の花畑を静かに踏み締め、そして女神の前で立ち止まった。感情の読み取りにくい瞳が、ヴィーナスをじっと見つめる。彼女は柔らかな背を曲げ、リーフに顔を近づけた。
    「……なんだ、リーフよ?せっかくここにきたのだ、わらわとおしゃべりでもたのしんではどうだ」
    するとリーフは僅かに顔をひそめ、ため息をついた。そして体を背け、ヴィーナスの根元に座り込む。
    「……なにもかわっておられないんですね、あなたは。それはもう、おどろくほどに」
    「わらわはそういうものなのだ。なにせめがみなのだからな」
    やや皮肉めいた口調のリーフの言葉に、ヴィーナスもおどけるような返答をする。座り込んだ青い翅のガは再びため息をついて黙った。せっかく久しぶりにムシが訪れたというのに退屈なものだ、この者はわらわがおしゃべり好きだと知っているはずだろう……などと思いつつも、女神はそのムシに合わせて口を閉じて待った。彼が口を開くまで、ただそうしていようと考えた。
    柔らかな風が辺りを吹き抜ける。紫に染まった落ち葉達がくるくると踊り、遠くへ消えてゆく。さわさわと植物が揺れる音以外、なんの音も聞こえなかった。この丘の景色は変わることがない。彼女が存在した時から、ずっとそうだった。
    「……もうだれもいないんです」
    唐突に、平坦な声が聞こえた。女神は自身の足元に座り込んだムシへと目を落とす。
    「だれもいない……いなくなってしまった。バグアリアはかわらずゆたかでうつくしい、ムシたちもへいわにくらしている。けれど……」
    抑揚のない声が言い淀んだ。ヴィーナスと向き合わずに座っていた彼は、こうべを垂れたまま微かに震えていた。
    「……けどもうだれいっぴきとしていない。ぼくらのかぞくも、あのたびでであったムシたちも。そしてぼくの……ともだちも」
    「……リーフ」
    やはり平坦な声だった。いや、平坦なように聞こえるだけだ。その言葉の一つ一つには、彼の抱えた拭えないやるせなさがこもっていた。ヴィーナスはリーフに触れようと、しなやかな葉の手を伸ばす。
    「リーフ、そなたは——」
    「なのにあなたはなにもかわらない。あのときから、なにも…………」
    だがリーフが振り返り、彼女は手を伸ばすのをやめた。女神はただガの青年を見つめた。そして短い沈黙のあと、

    「……なにひとつかわらない。ぼくらとおなじように」

    そう、ガの風貌をした者は呟いた。その顔に表情はなかった。彼はそういう造りをした存在だからだ。
    沈黙が再び丘を包んだ。バグアリアで最も豊かな丘の上には、ただ空虚な時が存在するだけだった。リーフはしばらくヴィーナスを捉え続けていたが、やがて膝を折り、再びヴィーナスの前に座した。ヴィーナスは先ほど伸ばすのをやめた手を再び伸ばすと、そっとガの青い翅に触れた。
    「くるしいのだな、リーフよ」
    リーフはなにも答えない。だがヴィーナスは続けた。
    「バグアリアじゅうにいきるムシたちのこえが、あのころのムシたちのものからすべてかわって、ずいぶんとたった。だがそなたはわりきっているのだと、だからここへこないでいるのだと、わらわはそうおもっていた」
    紅赤の花畑がさわさわと揺れる。可憐な花畑は豊穣の女神の座す丘に相応しかったが、けれどそこへ座り込んだガの青年の傷を癒しはしなかった。
    「ヴィーナス。……ぼくら、ずっとききたかったことがあるんです」
    「なんだ?」
    うなだれたまま呟かれたガの言葉に、女神はただ穏やかに返す。平坦なはずのガの声は、ひどくか細く聞こえた。
    「……あなたは、ぼくらとおなじそんざいなんでしょう?」
    「……おなじ、ではないな。だがよくよくにているとおもってよいだろう」
    答えると、彼はまた喋るのをやめた。そんな事答えるまでもなく知っているだろうにと、そう思いつつ、彼女はその内心を隠した。尋ねているのではない。彼は答えを確かめているのだ。それがどうか外れていてくれと言いたげにも聞こえたが、嘘をつくわけにはいかなかった。そのようなことをして宥めすかされることを、このガは望まないからだ。
    「リーフ」
    ヴィーナスの呼び声に、ガが微かに顔を上げる。ヴィーナスは微笑み、手先でリーフの背を優しく撫でた。
    「そなたのしるムシはもはやだれいっぴきとしていない……たしかにそうだ。めがみだとよばれようとも、わらわにはなにもしてやれぬ。けれどわすれるな。そなたはけっしてえいえんではない」
    「——……」
    その時、殆ど変化のなかったガの瞳が僅かに動いた。
    「わらわはずっと、ここでいきてきた。丘がさかえるよりもずっとまえから。だが、わらわとてえいえんではない。そなたがわらわとよくにているというのなら……、そなたもまた、えいえんではないのだ」
    強い突風が丘を駆けた。ざあという音と共に、紅の花びらがいくらか風にさらわれて舞い上がった。
    「…………そうでしょうか」
    やや猜疑心のこもった瞳がヴィーナスをじっと見る。それが何やら面白く思え、ヴィーナスはふっと笑いを零した。
    「そうだとも。かんがえてもみろ、そなたがであったムシやものごと、いったいどこにえいえんがあった?どこにもない。あの若木にすらな」
    「…………」
    女神はころころと笑い、再びリーフに視線を戻した。彼の表情は相変わらず変化がなかったが、発せられていた刺々しい気配は少し治まっていた。
    「……そうですね。その、通りです」
    「そうだろう?」
    「ええ」
    そう言うとリーフは立ち上がり、ヴィーナスに向けて微笑んだ。青い翅の裾がふわりと揺れる。目の前にいてすら存在を感じ取れない『それ』は、最後に会った日と同じ調子で軽く会釈した。
    「……そろそろいきます」
    「そうか」
    ヴィーナスは彼に添えていた手を離し、背を伸ばした。リーフは背を向け、丘の入り口へと歩き始めていた。活気に満ちた、けれどもうだれもいないバグアリアに帰るために。その彼の姿に、彼女はいくらかの名残惜しさを覚えた。
    「またいつでもくるがいいぞ。おしゃべりはいつでもかんげいだからな」
    既に丘から出かかっていたリーフの動きが止まる。彼は振り返ると、投げかけられた言葉の主に向けて抑揚のない声でこう告げた。
    「ええ、またいずれ。…………ありがとうございます、ヴィーナス」
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