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    らくがきとSSと進捗/R18含
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    2018/01/07 過去作投稿
    「花影の断崖にて」(『Peafowl』収録)
    ---
    ザクロのキズナトークを元ネタとしたメレフとカグツチの話。
    カグメレです。(2022/07/06)

    ##SS
    ##Xb2
    ##Xenoblade

    花影の断崖にて「おおーい!みんな、おまたせ!」
    賑やかに会話を交わしながらフォンス・マイムのバジェナ劇場前を歩いてゆく女性ブレイド達。そこに向けて、サルベージャーの少年レックスが大きく手を振る。
    「戻ったでぇ」
    「必要な物資は揃ったな」
    「明日の準備はバッチリも!」
    ブレイド達に駆け寄るレックスに続いて、インヴィディアで別行動していた彼女達のドライバーが合流する。
    一行のドライバーの中で、唯一ニアは女性ブレイド達と共に行動していた。花影の断崖でサフロージュの樹を見たいとせがんだザクロのドライバーだったからだ。
    ニアは苦笑いしながらカグツチにボソリと話しかける。
    「……変に盛り上がっちゃって焦ったよ。あたしはああいう話、やっぱ照れ臭いや」
    「ふふ、私も。だってニアがあんなこと言い出すとはね」
    あんなこと、とは、彼女がしようとした「告白」のことだ。ただの振りだったとはいえ、ブレイド達だけでなく本人にすら緊張が走った瞬間を思い出し、カグツチは口に手を添えてクスクスと笑みを零した。
    「もー、カグツチ!あれはただの勢いだから!冗談だっての!」
    ぷぅ、とニアが頰を膨らませる。いつもよりほんのり赤みを帯びた頰と、困ったような、少し睨むような金の瞳が可愛らしい。
    そう言うとニアは、ちらりとある人物を一瞥した後、物資の買い出しへ向かっていたドライバー一行の会話に混ざっていった。


    明日の支度が済み、一行は宿屋へと足を運んだ。各自の部屋に分かれ、それぞれ思い思いに束の間の休息を楽しむ。
    そんな中、カグツチは自分の宿部屋でザクロとの会話を反芻していた。

    『誰かに想いを告げたことはないの?』
    『ないわよ――そんなの』

    ザクロにはああ返したが、実際はどうだったろうか。あの会話をしてから、カグツチは何となく心の片隅に引っかかるようなものを感じていた。帝国皇宮の専用書庫にしまってある、以前に読んだ自分の日記の記述を思い返してゆく。

    そういえば――そういったことを示す記述はなかった。
    己の歴代のドライバー達についてのさまざまな記述。自分と同調し、共に歩んで来た者。彼らはそれぞれ別人であれど、カグツチはどの人物も大切に思っており、彼らに信頼と敬意を持って仕えていた――と日記を見ればはっきり分かった。
    しかし、それはその時の「彼女達」の本心であろうか。ある事柄について意図的に記述を避けた――そういう可能性もあるのではないか。
    日記に残ってないのは、「それ」を記述するべきでないこと、口に出すことではない事だと判断したから。人とブレイドは別の存在だから。皇統の者といちブレイドでは立場が異なりすぎるから――
    そこまで想像したところで、何とも形容し難い胡乱とした気分が胸を支配する。それを振り払うかのように彼女は軽く頭を振った。
    ――いや、書かれていることが全てだ。書かれていないのだから、やはりドライバー達にはただ厚い信頼と敬意だけを持って共に過ごしていたはずだ。
    そうに違いない。
    そうカグツチは思考を逸らした。

    では「今」はどうだろう。改めて、ザクロへの返答を思い返す。「ないわよ――そんなの」とは、相手へ返す言葉としてはかなり雑な返答になってしまったかしら、とひっそり内省する。
    しかし何故あんな投げやりな返答をしてしまったのだろうか。
    己のドライバーについて思いを馳せる。
    ――彼女とはお互いよくわかり合っている。
    彼女は人の上に立つに相応しい、誇り高く立派な人間だ。そんな彼女を自分は信頼している。敬意を抱いている。そして彼女は自分を大事にしてくれていると思う。
    だから言う必要などない――

    はた、と思い至る。
    言う必要がない、とはどういう意味か。
    「……あ……」
    すなわち自分は己のドライバーであるメレフの事を慕っている――
    そういう意味ではないのか。
    くっ、と心臓が縮むような心地がした。
    「……今更こんな……」
    カグツチは思わず額に手を当てて、はああ、と大仰なため息をついた。今になってそのようなことに気づくとは。共にいるのが当然すぎて自覚していなかった。間が抜けているにも程がある、とカグツチは自分自身に呆れて軽い目眩すら覚えた。
    いやしかし、それはそれ、だ。
    自覚したところで何だというのだ。彼女にそれを伝える必要がない事は変わりない。そう、そんな余計なことを言葉にする必要などないのだ。
    「……はあ……、下らない」
    今日はこのことについて考えるのはもうやめよう。彼女はそう思考を断ち切り、気分転換に宿の外へ空気を吸いに行こうと席を立つ。
    と、ドアを開けるとちょうどそこにはメレフが立っていた。
    「きゃっめ、メレフ様……」
    突然のことに虚を突かれ、カグツチは思わず声を上げてしまった。その声につられてメレフも目を丸くする。
    「……すまないカグツチ。驚かせたか」
    「い、いえ……。私こそ失礼致しました。申し訳ありません。少し外の風に当たろうと思いまして……」
    困惑した顔のメレフにカグツチは軽く頭を下げて詫びたが、それを見て彼女は気にしなくていい、というように右手を振った。
    「そうか。……ああ、ザクロ達とはずいぶん盛り上がっていたようだな。何よりだ」
    ワイワイとおしゃべりするブレイド達の姿を思い出したのだろう。メレフの目にはそれが好ましく映ったようだった。
    「はい……まあ……」
    そんな主人とは逆に、カグツチはぎこちない返事を返してしまう。確かに会話は楽しかったが、今はその事から思考を背けたかった。だがメレフはカグツチの様子を気に止めることもなく続ける。
    「確かサフロージュの樹を見に行ったのだったな。どうだった?やはり美しい景色だったろうか」
    思いもかけなかった質問に拍子抜けする。会話の内容について尋ねられると身構えていたのだが、杞憂で終わってしまった。ああ、確かにあの景色は良いものだった。目に入った時の高揚感を思い出し、カグツチの語り口が自然と弾む。
    「ええ、とても。高台からのあの眺めは素晴らしいの一言に尽きます。街のはずれにあのような場所があるとは知りませんでした」
    「……そうか。楽しめたのなら良かったよ」
    そう言うとメレフはほんの少し羨ましそうに目を細めた。その様子を見て、カグツチは何かを思いついたように そうだわ、と呟く。あの絶景、彼女が見ないまま発ってしまうのはあまりに惜しい。
    「よろしければメレフ様もご覧になってはいかがでしょう。お休み前、少しお時間をいただけませんか。私がご案内します」


    カグツチの提案通り、二人は就寝前に静かに宿を出て行った。
    街は人々が寝静まってひっそりとしている。しかしインヴィディアの大地に茂った植物達は淡く光を放って二人の行く道を照らしていた。それに辺りを煌めく燐光も手伝って歩くには困らない。
    頰を撫でてゆくそよ風が心地よかった。
    「もう少し歩いた先です。足元にお気をつけくださいね、メレフ様」
    「ああ、大丈夫だ」
    昼間ザクロ達といた花影の断崖にたどり着く。もっとも眺めの良い場所を指差しカグツチがメレフの手を引くと、その場所に立ったメレフはその光景に息を呑んだ。
    「これは……、壮観だな」
    メレフが感嘆の声を上げる。穏やかな、しかし少しだけ弾むような声で。
    インヴィディアの巨神獣の腹部を一望できる場所。花びらがぼんやりと輝くサフロージュの木々、柔らかな燐光に揺らめく豊かな水地。インヴィディア一帯を一望できる場所は他にも巡ってきた。しかしフォンス・マイム周辺のサフロージュはひときわ美しく咲き誇っており、辺りにふわりふわりと舞う花びらがより幻想的な景色を作り出していた。
    「でしょう?」
    絶景に心打たれているメレフの様子を見て、お見せしてよかったとカグツチも嬉しくなる。
    「ああ、本当に……。こんな時だが、いや、こんな時だからこそ嬉しい。これを見られて良かった」
    そう言うとメレフは黙し、心奪われたように大木の下で佇んだ。
    花びらが彼女の周りを踊り、燐光が煌めきながらその身を包んでいた。

    ――美しい人だ。このまま時が止まればいいと願ってしまうほどに。

    カグツチはその姿を見て、考えることをやめたはずの昼間のことを思い出した。
    ブレイドとドライバーには、いつか別れが訪れる。時が止まれば、別れを告げずに済むのに――

    視線に気づいたのか、メレフがカグツチの方へと振り返る。ふっと微笑してカグツチの横に歩み寄ると、
    「……流石に夜中は冷えるな」
    そう言ってとん、と軽くカグツチに肩を寄せた。寄り添っているだけでほんのりと伝わるカグツチのあたたかさを感じてか、心地よさそうに ふふ、と笑みを零す。目を細め、穏やかな表情で。
    「メレフ様――」
    その姿にカグツチは思わずメレフの身体を抱き寄せてしまった。カグツチにもたれかかるような姿勢によろめいたメレフが、突然どうしたのかと問いかけるように「カグツチ?」と、優しく名前を呼ぶ。

    ――「いつか」。
    そのいつかに、カグツチは怯えていた。過去の彼女も、そして現在の彼女も。だから。

    今にも泣きだしそうな小さな声で、カグツチはぽつりと呟いた。
    「……ずっと……、貴女のお傍にいさせて下さい」
    言葉にする必要などない、と。そう断じたばかりのはずなのに、気づけばそれが口をついて出てしまった。凍えているわけでもないのに、いつの間にか彼女はまるで小さな仔犬のように震えていた。
    メレフは己を抱き締めている相手に半ば埋もれていた顔を上げると、カグツチをまっすぐ見つめた。
    「……ああ」
    カグツチの背中にメレフの手のひらが触れる。ぎゅう、と。まるで、道に迷い途方に暮れて泣いている子どもを慰めるかのように、優しく、力強くカグツチを抱き返す。
    「そうでないと困ってしまうよ、カグツチ」
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