わしは今、猛烈に後悔しとる。
「何ですかもぉ~。そんなに怖い顔しないでくださいよぉ」
赤い顔をして隣に座るのは弥鱈悠助。
これまで頑なに飲み会出席を拒んでいたのを強引に連れてきた。なんでそんなことをしたかと言うと、とにかく弥鱈と飲みたかったから。
だってわし、弥鱈のこと好きだし。
いきなりサシで飲むのは断られると思ったから、適当な理由をつけて飲み会を開くことにした。立会の情報交換だ、奢りだ。と言えば若いやつらはのってきた。まあ、わしだけじゃのうて南方にも出させるんじゃが。金を出させる手前南方には軽く説明をしたが、「ほっ、おどれがなぁ」とニヤニヤしとったから一回シメといた。
ところで弥鱈は酒は飲めるが弱いらしい。
誘った時はすぐ酔ってしまうからと断られるところだったが、奢りだから飯だけでも食えと言うと渋々ついてきた。
どのくらい弱いのか分からないが、今はノンアルばっか飲んどる。
「ほれ、ちぃとだけ飲んでみい。甘口じゃから飲みやすいと思うけど」
少しならええじゃろと日本酒を勧めた。
一口、本当に少しだけ飲んで弥鱈は顔をしかめる。
「ぅえ、ちょっと、合わないです…」
まあ好みもあるし口に合わんのは仕方ない。
グイ、と返されたそれを受け取って飲み干した。あれ…これって関節キスと違うんか?ま、まあええじゃろ!
おーおー、そないにウーロンごくごく飲まんでもええじゃろ…よっぽど合わんかったんか…
「おいお前!それ俺のウーロンハイ!!」
弥鱈の隣で巳虎が叫んだ。
は?今だいぶ飲んどったぞ?
「お前酒飲めないとか言ってたけど大丈夫か!?」
「……」
「OK、お冷OK」
元々色白なせいか、赤くなった肌が際立つ。
あー…目ぇ座っとる。こりゃキテるな。
「おい弥鱈、気持ち悪いなら一回トイレ行ってこい」
「…何ですかぁ巳虎さん。そんなに邪魔にしないでくださいよぉ」
そう言いながらしなり、と巳虎にもたれ掛かり身体を触る弥鱈。
…は?何じゃそりゃ。ベタベタしおって…もしかして付き合うとるんか!?いや、ないはずじゃ。
「弥鱈立会人、こっちの方が広いから少し休んだらどうだ?」
こっちはわしと南方の二人。向かいは弥鱈、巳虎、銅寺の三人。南方が声を掛け弥鱈と場所を代わる。
水を飲んで壁に寄りかかり休む弥鱈を思わず見つめた。
こいつ酔うとこんななるんか…。それにしても弱すぎじゃろ。一緒に楽しく酒飲むんは夢に終わりそうじゃ。
「ちょっとぉ…門倉立会人はなんでずっと睨んでるんですかぁ?あなたが連れてきたんじゃないですかぁ」
視線に気づき弥鱈が隣に座り顔を寄せてくる。
近い!近いて!!
「門倉立会人~。私ぃ、ヤンキーは嫌いなんですよぉ。というか何ですかこの手袋。何でいつもしてるんですかぁ?」
手!触っとる!!
普段スキンシップを取ろうとしてもひょいと逃げるあの弥鱈が。自分から触ってきとる。
いけん!ぶち可愛ええ!!
わしは本当に後悔しとる。
こないな姿わし以外に見られるんは我慢できん。この弥鱈を世に放つのはいけん!
興味津々の銅寺もちょっと引いとる巳虎も心配しとる南方も、今すぐこいつらの記憶を消してやりたい。
決めた。わしは決めた。
だいたいまどろっこしいのは性にあわん。早う弥鱈をわしのもんにしちゃる。
待っとれよ弥鱈!