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    zen1827

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    zen1827

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    ぴくしぶの企画で投稿した、人生で初めて書いたオリジナル作品です。オリジナルの小説とか、もっと書けるようになれたら楽しいだろうな。

    #創作男女
    creators
    #オリジナル
    original
    #小説
    novel

    愛に恵まれた瞬間里田愛恵(さとだ いとえ)。
    女みたいな名前だが、両親から『愛に恵まれる人であるように』という思いを込めてつけられた名であって、俺は男である。
    俺はこの名前が大嫌いだ。愛に恵まれる?冗談じゃない。学生時代は散々この名前でからかわれた。幼い頃はイトエという男らしからぬ響きを、思春期には漢字の並びを。
    今まで男女問わず笑われてきたし、大人になった現在は名刺を渡す度に、変わったお名前ですね、なんて言われるのはお決まりだ。

    そしてそんな俺は本日、二月十四日に三十二歳になる。そう、バレンタインデーが俺の誕生日なのだ。
    名前といい誕生日といい、愛とか以前に俺はなんて恵まれていないんだ。
    彼女なんて存在したこともない俺は、本命のチョコレートも勿論もらったことがない。それどころか誕生日プレゼントを兼ねた義理チョコを、同僚の女の子たちがお情けで渡してくる程度。無駄に律儀な俺は、ホワイトデーにそのお返しを渡す。
    それが毎年恒例だ。

    「はあ。今年もこの日が来てしまったか…」
    なんだか既に億劫だ。確か去年は十三個の義理チョコを貰って、お返しにも苦労したっけ。どこの誰が言い出したか分からんが、お返しは三倍に…なんて文句を聞いてから、金銭的にも厳しくなったんだよな。
    しかし、そもそも誕生日プレゼントも兼ねてるんだったら、お返しなんて必要ないんじゃないか?

    「でも毎年ひとつだけ、誰からか分からないプレゼントがデスクに置かれてんだよなあ」

    そのプレゼントには毎年、バースデーカードも添えられているので、バレンタインは関係なく、きっと純粋に誕生日プレゼントだと思うのだが、差出人の名前がないので礼すら言えたことがない。

    そんなことを考えながら、眠気覚ましに飲んでいた缶コーヒーを空にして、パソコンに向かった。早朝でまだ誰も居ないオフィスに、カタカタとタイピングの音が響く。
    「はあ、完全に寝不足だ…眠い」
    ただでさえ憂鬱な誕生日に早朝出勤なんて、本当に俺はついてない。

    「あれ、里田さん?」
    不意に呼ばれた名字。振り返れば、声の主は同期の村上楓だった。
    「ああ、村上さん。おはよう。早いね」
    「おはよ。里田さんこそ、お誕生日なのに早朝出勤?」
    「うん、まあ…」
    頼むから、それには触れてくれるな。なんて言えるはずもなく。
    「もしかして村上さん、バレンタインだから早く来て好きな人のデスクにチョコでも置きに来たの?」
    「ああ、そういえば今日ってバレンタインだっけ」
    「マジか、女子がバレンタインを忘れるなんて…ははっ。村上さんって意外と疎いんだな」
    「だって私にとっては二月十四日って、里田さんのお誕生日だから」
    「ええ…なんだよ、それ」
    あからさまに苦い顔をする俺を見て、彼女はくすりと笑った。
    村上楓は容姿端麗で、気配りも出来て、社内でも割と人気だ。そんな人がバレンタインを忘れてるなんて知ったら、彼女からのチョコレートを待ち望んでる男らが泣くぞ。

    「でも、里田さんが早朝出勤でよかった。今年は直接渡せる」
    「ん?何を?」
    「プレゼントだよ、お誕生日プレゼント」
    はいどうぞ、と渡されたのは、シンプルな包装紙でラッピングされた箱と見覚えのある字で書かれたバースデーカードだった。
    「これって、毎年差出人不明のやつ…村上さんからだったの?」
    「まあまあ、いいからいいから。開けてみて?」
    「開けなくても分かるよ。ネクタイでしょ」
    差出人不明だったプレゼントの中身は、いつも決まってネクタイだった。
    「ピンポン!今日つけてくれてるそれも、私があげたネクタイだね。里田さんはちゃんと使ってくれるから、プレゼントする甲斐があるよ」
    「まあ、使えるものだしね。それに嬉しいんだけどさ、なんで毎年ネクタイなの?」
    何気なく問いかけたつもりだったが、彼女はふっと俯いてしまった。
    「それは、その…バレンタインだから…」
    「バレンタイン?」
    これ、誕生日プレゼントだって言ってたよな?
    それにバレンタインは忘れるほど疎いんじゃなかったのか?
    まあ、別にいいか。
    「ありがとう。また使わせてもらうよ」
    さて、そろそろ資料を仕上げないと、せっかく早朝出勤した意味がなくなってしまう。
    パソコンに向き直り、作業を再開しようとした俺の手を、まだ隣に立っていた彼女の大きな声が阻止した。

    「私、好きです!」
    「…は?」
    「えっと…里田さんの、愛恵って名前…」

    俺の?この女みたいな変わった名前が?

    「だって里田さんって、誰から貰ったか分からないプレゼントのネクタイをつけるくらい優しい人だし」
    「それは優しいとか関係ないと思うけど」
    「優しいよ。人によっては、誰がくれたか分からないものは気味が悪くて捨てちゃう人も居るんじゃないかな」
    「ははっ、そりゃ酷い」
    「それに今、早朝出勤までして進めてるその作業も、新人が抱えきれなかった分を手伝ってるんでしょう?」
    「そうだけど…よく知ってるね」
    「わかるよ。だって、仕事が遅かった私のことも、よく夜遅くまで手伝ってくれてたし…」
    「だけど仮に俺が優しい奴だとしてもさ、名前には関係ないよ。両親も『優しい子に育ってほしい』じゃなくて『愛に恵まれる人であるように』って、愛恵になったんだから」
    「何言ってるの。名前の通りに、ご両親から沢山の愛を恵まれたから、優しい里田さんになったんじゃない」
    「…両親から?」
    言われてみれば、両親は過保護かってくらい可愛がってくれたっけ。それでも悪いことをしたら、ちゃんと叱ってくれたし、確かにそれもひとつの大きな愛だよな。
    「愛ってね、沢山の人に恵まれたほうがいいってこともないと思うよ。家族とか身近な人とか、少数でも本当に深く愛してもらえたら幸せだと思わない?」
    「…そうかもしれないけど、この名前のせいで学生時代からかわれて大変だったんだから」
    「それは里田さんの中身とか見ずに、どうせ名前だけ見てた人たちなの」
    「な、なるほど…」
    「…それに、私知ってるよ。同じ部署で里田さんに好意を寄せてる人」
    「おお、マジか」
    「うん。確実にひとりはいる」
    「ふうん。ちなみに誰なの?」
    「…ダメ。まだナイショ!作業の邪魔してごめんね、じゃあ今日もよろしく!」

    愛にも、いろいろあるんだな。
    そんなことを同期の言葉でしみじみと感じながら、ふっとズボンのポケットから携帯電話を取り出した。

    メールの宛先を両親に設定して、本文をぽちぽちと打つ。

    『父さん、母さんへ。沢山の愛と、いい名前をありがとう。愛恵より』

    さて、と。
    俺は今度こそ作業に戻るのであった。

    しかし、こんな俺に好意を寄せてくれている人がいるなんて。

    「変わってる人も居るもんだな」





    ふう、まさかこんなに早く彼が出勤しているなんて。いつも通りに、こっそりプレゼントを置いておこうと思ったのに。

    「里田さんに直接渡すの、緊張したあ…」

    女性が男性にネクタイをプレゼントすることに込められた意味。それは…

    「夢中なんだよ、優しいあなたに」


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