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    Latte

    @diosme_

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    Latte

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    音春 嫉妬話のつもり。

    私だけの君へ人にはサイコロのように多面性がある。それはどんな人でも、どんな年齢であっても。
    多面性といえども、どのくらいあるかは様々だ。六面ある人もいれば十二面、その倍の二十四面ある人もいる。
    家族に見せる面、親しい友人に見せる面、仕事で見せる面。それから恋人に見せる面。どれも同一人物であるはずなのに全く違う。不思議だ。
    私のパートナー、一十木音也君。彼もそうだ。歌唱する表情、演技の表情。雰囲気や声色、全く違う面を見せる。だって、彼はST☆RISHのメンバーであり、アイドルなのだから。

    「雑誌の特集、ですか?!」
    思わず声を上げてしまった。その知らせを聞いたのが社内のカフェだったので、こちらへ一斉に視線が向く。
    「七海、嬉しいのは分かるが声が大きいぞ」と日向先生に窘められた。
    「あっ、すみません……つい」
    嬉しくて声を荒らげる年齢でもないのに、なんて事だろう。一斉に向いた視線が彼の一言でスッと戻っていく。
    「大掛かりな企画だが、月替わりでST☆RISHのメンバーから一人ずつ特集組むそうだ」
    アイツらも成長したな、と日向先生がそう呟く。日々彼らを目にしない日はない。テレビや街の広告、お店で耳にする有線から流れる楽曲だってそう。自分の事のように嬉しい。
    「成長したな、といえばお前もだ七海。ST☆RISHの楽曲はもちろん、CMやドラマ最近だと舞台の挿入歌まで手がけてるじゃないか」
    そうだ。私も彼らのように受ける仕事が増えつつある。こちらからのプレゼンもすることもあれば、依頼されることも。最近だと依頼の方が多くなりつつあって忙しくなっていた。
    「はい、ありがとうございます。彼らと共にデビューしたての頃は不安ばかりでしたが、今は私指名で依頼を受けることも多くて嬉しい限りです」と私は日向先生に言った。
    「詳しくは俺からは言えないが、発売日まで待っておけ。それか本人達に聞いておくんだな」
    日向先生はそう仰っていたが、後日電話口で音也君から経緯を聞き、更に心躍らせることになる。


    ────────────────


    今日は音也君が表紙を飾る女性誌の発売日。私はとても心待ちにしていた。音也君のグラビア写真に加え、インタビューもあると本人から聞いている。
    よく行く書店で事前に予約もしてしまった。買い逃しはしたくない。そのくらい楽しみにしていた。

    書店に向かい、予約分の雑誌を受け取る。どうしても売り場が見たくなり、行くとやはり、数が少ない。恐らく山積みにされていたであろう、お目当ての雑誌は残りが僅か。
    雑誌コーナーに居る女性客から「うわ、もう残り少ないよ」や「ST☆RISHの特集?SNSでバズってたやつだ」など話す声が様々。中でも一際目立つのが「一十木音也のグラビアヤバくない?」「身体絞ったのかな、やばっ」の声。
    それはそうだ。事務所内でもかなり力を入れていると、音也君本人に私は聞いている。一人一人、『今の自分の魅力』がテーマなんだと。
    「でもさ、アイドルだよ?恋人の一人二人過去にいたでしょ」と聞こえ、思わず身を潜めてしまった。そうだ、私は彼の恋人なのだから。
    「いやいや、待ってよ。シャイニング事務所って他所の事務所よりも厳しいって噂じゃん?そんなわけないよ」と一緒に来ていたであろう、もう一人の声がした。
    「ああそうね。忘れてたわ。だけどさこんな顔するの卑怯じゃん?顔がいいのはもちろんだけど、いかにも男の色気全開だし。やばすぎ」興奮気味の早い喋り方で相手を捲し立てる声がする。
    彼女らはいい意味で誉めているのだろう。だがそれと同時に、聞くに耐えられない私もいる。売り場を足速に私は書店を後にした。


    ───────────────


    そうだった。私の愛する人は、アイドルだ。
    みんなのために歌い、踊って、時には役者として、雑誌のグラビアでは肌を出すこともある。書店の売り場で音也君のファンなのか、ST☆RISHのファンなのかは分からないが飛び交う声に「私の音也君なのに」と怒りのような不安のような気持ちになってしまった。

    「春歌?春歌ってば、おーい」
    私を呼ばれる声にハッとする。そうだ、今は音也君と一緒に私の部屋にいる。
    「すみません、ちょっと考え事してました」と私は返事を返した。
    「ううん、いいよ。オフとは言っても仕事のこと気になっちゃうよね」
    「いえ、違うんです」と私は彼から視線を逸らす。
    「何かあった?」首を傾げつつ音也君が聞いてくる。今、目の前にいるのは私の恋人で。
    「ごめんなさい。言いたくは、ないです」
    心配してくれるのは素直に嬉しい。でもこの気持ちを彼に言う訳にはいかない。一介のファンへ嫉妬している。それを知ってほしくない。だから私は「言いたくない」と告げたのだ。

    酷い女だろう。恋人に打ち明けれないことを持つなんて。ぐるぐると考え込んでいると彼は
    「よし、春歌。歌お」
    「えっ」
    「学生の頃、覚えてる?最初にあった日。学校の施設案内の日」
    忘れるわけない。彼との大事な思い出。
    「二人でさ、こっそり抜け出して屋上で思い思いに今の気持ち歌ったじゃん。メロディーも歌詞もでたらめだったけど、俺嬉しかった」
    「はい」
    「あの時みたいに歌おう」
    そう言って私の両手を取る。真っ直ぐに見つめてくれる彼の目が離せない。お互い向かい合わせて座っていたダイニングから立ち上がって、音也君から歌い出す。
    まるでミュージカルの主人公とヒロイン。歌いながら踊って、呼びかけて、返事を返す。そうしていくうちに雑誌の特集のこと、受け取りに行った時のファンであろう女性達の話を聞いてしまったこと。気づけば歌に乗せて、ぽつりぽつりと彼に打ち明けていた。

    「そっか。そんなことがあったんだね」
    歌うどころでは無い私を抱きしめて彼は言った。
    「でも今の俺は、春歌だけの俺だから。そんなの気にしてたらアイドルやれてないよ。いい事言う人も居れば酷いこと言う人も居るよ。だから」
    今は俺だけの君でいて、耳元で囁くその言葉が胸に響く。さっきまで抱いていた感情は嫉妬だ。私だけの、私の、音也君。
    彼女達へ向けたのは完全なる嫉妬だと言うこと、貴方へ隠してしまったのを許してほしいこと。たどたどしく話す私を見つめて、聞いてくれる。
    「ありがとう。でもさ、嫉妬するのは春歌だけじゃないよ。俺もだし」と音也君は悪戯っぽく笑う。その顔が、太陽みたいに笑う顔が大好きなのだなと再確認した。
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