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    Latte

    @diosme_

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    Latte

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    音春。仕事での大きな出来事、というか楽曲に対してぶつかる春ちゃんが書きたかった。

    今日の打ち合わせが最悪だった。タクシーの中で振り返っても嫌な思いしかない。
    舞台のメインテーマの取り決めで、歌唱を盛り込んだ駆け出しのロックミュージシャンの成長物語。そして音也君が主演。愛する人の主演だ、意気込んでしまいすぎて、五つほど作ってしまった。プレゼンも念入りにこの曲は、ギターのソロが、歌詞は、等々意気込んだ。だけど。

    その舞台のとあるスタッフから「あなたの曲ですが、何を表現したいんでしょうか?」と聞くなり一言。脚本の方や、監督さんスタッフが全員凍りついたように黙ってしまった。それはそうだ、ほんの少し私情が入り込んでいる。舞台のテーマにそぐわないものがあったのかもしれない。
    あまりにも強烈すぎる一言だったため、その後の打ち合わせの内容が殆ど記憶がない。終いには「七海さん、気を落とさないでください。実は彼、昔ミュージシャンを志していて……」とフォローされる始末。散々だった。

    シャイニング事務所前でタクシーを降り、切ってもらった領収書を片手にタクシー代金の精算のため、人事へ向かう。それからレコーディングスペースの使用時刻を確認しなきゃ、と考え事に耽っているとメッセージアプリの通知がある一人の人から大量に来ていた。音也君だ。
    『今日の舞台スタッフの打ち合わせどうだった?』『俺はね、読み合わせだったんだ。楽しかったよ』など。彼との会話はこんな感じだ。楽しそうなのが伝わってくる。だが相対して私はトドメの一言を食らってしまった。
    「悔しいな」と思わず口からこぼれた。そうか、私……。
    ブーッとスマホのバイブレーション音がカバンからこだます。誰だろう。画面を見て表示された名前を見る。
    「音也君……!」
    着信画面を見て驚いた。メッセージが何件も届いていたし、既読がつかないので通話をかけてきてくれたのだろう。通話ボタンを押して「もしもし」と少し声が上ずった。
    『七海、お疲れ様!今日舞台スタッフの打ち合わせだったんだよね?楽曲作るのすごい意気込んでたからさ、気になっちゃって。俺が歌うパート曲五つも作ってくれたじゃん、どうだった?』
    スマホ越しに元気な音也君の声がする。打ち合わせの数日前にあった時、すでに出来ていた楽曲を聴いてもらっていたから、よほど気にしてくれたのだろう。
    「それが……」と私は先ほどあったことを話した。

    『えっ、そんなこと言われたの?酷いねー、その人』
    酷い言われようだった話をして、音也君はそう答える。
    「うん、そうだったの。私情が入り込んで作った罰かもしれないね。それに昔、ミュージシャン目指してて結構いいところまで行ったって、そのスタッフさんと親しい音響さんに聞いちゃって尚更……」と言い終えて鼻の奥がツンとしてきた。台本を読み込んで時間をかけ、作った楽曲が全て否定されてしまった。
    『今回作った楽曲、俺、全部好きだよ』
    「へ?」意外な言葉に変な声が出てしまう。
    『七海にしか作れない曲をさ、何で否定できるの。酷いよ。いくら相手が実績積んできてたって言い方ってのがあるはずだよね、そりゃあお金貰って書いてるからコンセプトには沿わないといけないよ。私情込で作ったとしてさ、一所懸命作った時間ごと否定してるようなもんじゃん。作品を否定されるのって嫌じゃない?』
    通話越しに我がことのように語る音也君。私を思って言ってくれる言葉に感情が溢れ出す。早乙女学園で音也君とパートナーになってたくさん曲を作ってきた。彼は知っているのだ。私がどんな風に作り、悩み、曲を制作していることを。
    『いいところまで行ったって七海を通してしかその人を知らないけど、プロになれなかったんでしょ。七海がどれだけ曲作りの基礎を学んでて、悔しい思いをしたり、辛い思いをしたりしてるのその人知ってるの?俺は隣で見てきたから分かるよ、だから』

    自信もっていいよ、俺が保証する。

    その言葉に涙が止まらなくなっていた。私の努力を知ってくれている、そして私を理解してくれている。音也君の言葉が何より嬉しかった。寝食を犠牲にしてまで生んだ曲をどれだけの思いで、作ったか彼は知っている。
    「音也、君……ぐずっ、私……」
    『うん』
    「とても、うっ……悔しくて」
    『そうだね。七海はどうしたい?』
    漏れる嗚咽を堪え、深呼吸。この人こそ私の味方で愛おしい人。
    「もっと、誰かの心を打つような、聞いていて曲に飲み込まれるような、そういった曲を作りたいです」
    と私は彼へ向けて言った。

    『うん、そうだよ。それこそ俺の知ってる七海だ。今日さ、これから俺オフになるんだけど』と音也君が言う。同じことを思っているかもしれない。
    「私、会いたいです。音也君に会いたいです」
    涙を拭って精一杯の彼へのわがままを言う。いつも通りなら、私の住んでいるシャイニング事務所の寮まで来てくれるだろう。
    『分かった。今日さ、七海んちでご飯作っていい?最近根を詰めて曲作りしてたはずだし、七海は仕事してると、ご飯食べるの疎かにしちゃうから心配でさ』
    ううっ、こちらの事が筒抜けでした。流石は音也君、私のことはよく知ってくれている。

    『今日はご飯食べて、一緒によく寝て、それから曲を作り直そう』
    「はいっ!」
    『うん、いい返事。じゃあ買い物して部屋で待ってるから。また後で』
    電話越しにチュ、とリップ音が聞こえた。

    ずるい電話の切り方。ああ、この人が大好きだ。早く帰らなきゃ。胸を張って堂々と私は歩き出した。
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