【過去編】那由多VSアクラシア②①→ https://poipiku.com/IllustDetailPcV.jspID=6439063&TD=7677327
②ココ
初めてではない。この感覚は前回千星の体が誰かに乗っ取られた時に感じたものだった。あの時は能力の暴走と類似したものとして片付けたけど、もしかしてこれも俺の能力の一つではと千星がそう思った瞬間、ペン先が空中を滑った。
〝受〟と言う文字と続け様に〝力〟と言う文字を自分に向けて綴った。千星は〝力〟の文字は綴った事がある。副会長の九鬼と対峙したときに綴り、その後引き千切れそうなほど体が痛くなってしまいそれ以降使ってない、と、言うかその能力を忘れていた。
千星の全身に力が漲る。しかし炎の剣は消えてなくなり神功に貰った万年筆だけが残った。
(そもそも俺、左利きなんだよな)
「は?……何言っ…………ッ!!」
「さっきからウルサイぞ。恐怖デ更におかしくなっタか?」
千星が自分の奥底から聞こえる声との会話に集中していたとき目の前の、土の防壁が脆く音を立てて崩れさった。そしてずっと千星と距離を取っていたアクラシアが目の前まで来ており、千星は大きく目を見開いた。再度炎の剣を作ろうと万年筆が動くよりも速く左手の人差し指が〝風〟の文字を綴った。
自分の文字とは全く違う字体から繰り出される旋風は荒々しく、何重にも円を描いてアクラシアに襲い掛かる。
「──────?……センボシ ナユタ………左利き?……いや、そんナ、データは無い」
パシンパシンパシンッ─と風と鞭がぶつかって辺りの気流が乱れる。アクラシアは表情こそ変わらないが千星の新たなデータの入力処理を始めた為瞳が赤く幾重にも重なった瞳孔がライトのように光り処理を始める。処理と並行してアクラシアは機械鞭を直線的繰り出し、千星を串刺しにしようとするが千星の左半身が先導してバク宙して避けていく。
「ひぃぃぃ、お、ぉ?お!?……っぶね!!」
(はぁー……ちゃんと付いてこいよな……お前そんなんでよく……ま、いっか。肉体潰されたら俺も困るしな)
「へ?……ちょ、まっ…………ッ!!」
(とばしていくぜッ!)
千星は自分の体の動きに驚いた。そして左手は右手を無視して文字を綴る。〝火、水、風、雷、土〟全ての属性を自由に操り、そしてその能力は万年筆の中のエネルギーを必要とすることは無かった。千星の左手の周りの空気が揺れ、そこから手に吸い上げられて行くような感覚が湧き上がる。逆に右手は自由に動く為、〝土〟を主流とした守りでアクラシアからの攻撃を封じた。
「オマエにこんな能力があったトはな……」
「へ?……そう、なのか?」
「……………?なるほド……そういうコトか」
「そういう事って……」
「センボシ ナユタ。役職は書紀。能力不確定。イデアロスが作製した特殊武器を使用時のみ多彩な属性を扱えるが全てに置いて取るに足りない、ジングウ サチオがお飾りの為に用意した愛輝凪高校の生徒会役員。それがオマエのイデアからの評価だ」
「………ぅ、イデアの奴……言い過ぎだろっ」
「だが、ドウヤラ違ったようダな」
「……………?」
「イデアはずっとオマエに関しては嘘の情報を流していた。ジングウの指示だけでは無い、そこにはイデアの意志があった。そうでなければこんな能力ガ政府に伝わらない訳ガない。それはオマエを守るためだったと現時点でハ仮定する事がでキる……と、なると……オマエか、イデアを壊したのは」
「な、なんの事だッて言ってんだろっ!?イデアは会長が……ッ」
そこまで告げるとアクラシアは戦闘の手を止めた。
解析をエンドレスで行う機械音が辺りに響きながらもアクラシアは言葉を続ける。
「違う。イデアを壊したのはオマエだ。ずっとおかしいと思ってイた。ジングウ サチオが幻術で狂わせたシナリオも考えたがヤツは仲間には甘イハズ、そしてイデアがジングウ サチオのために嘘を吐くとは思えナイ……。
なんたってアイツは一人なら一国を容易く沈めるオトコだかラな。
そうするト結論は一つだ。イデアはセンボシ ナユタ、オマエを守ろうとして、データ共有を無理矢理解除シ、ERRORを起こしたとみて間違いナイだろう」
「……………は、……ッ、嘘だろ……会長は、自分が反旗を翻すって言ったから……ッて」
そこまで言って千星は神功の言葉を思い出した。
『きっと……イデアには守りたいものがあったのでしょうね。』
頭の中で反芻された言葉。千星はその言葉を聞いた時、それは(裏)生徒会全員の事だと思ったが、よくよく考えると他のメンバーは誰かに守って貰う必要が無いほど強かった。唯一、自分だけが、毎回イデアの地獄の特訓に音を上げ、追加で罰を受け、そして……いや、もう思い返す事も辛い日々であったがそれでも千星はイデアの事を感情が無いと思った事が無かった。まるでもう一人、口の悪い妹が出来たようだと感じて居たのだった。
千星の瞳から静かに涙が流れた。その表情にアクラシアが理解できないと言うかのように視線を眇める。
「ナゼ泣く?」
「なんでって……悔しいからだろ……俺がもっとしっかりしていたらイデアは……ッ」
「理解デキない。イデアは感情プログラムを持たない。プログラムに忠実な筈のヒューマノイドがそんな事でERRORを起こすのは不良品でシカない。そんな出来損ないニ同情スル、オマエの気持ちがわかラない」
「違う……ッ!イデアは不良品なんかじゃない…ッ!イデアは……大切な俺達の仲間だ…ッ!」
「理解デキない。ユウトもそうだが、オマエもだ。出来損ないと定義されたものを出来損ないと言うだけで怒り狂う心理がワタシにはワカラない」
「それが分からないお前のほうが出来損ないだろ…ッ」
「…………オマエとワタシが理解できる日が来ないことだけは理解した……、ワタシはこの情報を政府に届ける義務がアル。だかラ、できるだけ速くオマエを殺す」
千星は手の甲で目尻を拭った。再び右手が〝火〟〝剣〟を描くと炎の剣が手の中に現れた。逆の手も〝火〟を綴ると両手で握った炎の剣がより一層大きく空気を吸い上げながら燃え盛った。
(で、おしゃべりは済んだのかよ?)
「うるせーな、……つーか、お前なんなんだよ、お前も俺の能力の一部なのか?」
(ま、半分は正解だな)
「半分……て、ッ、来るッ」
カキンッと鈍い音が響き渡る。
アクラシアが距離を開けるとまた千星の奥底から話し声が聞こえた。そして、千星の左手は勝手に〝土〟の文字を綴り、その属性で作った岩で手を覆うと、アクラシアから伸びてくる機械鞭の軌道を逸らせていった。
攻撃も防御も粗方オートでやってくれるので千星はゲームのような感覚になってくる。しかも〝力〟を使ったからか体も軽い。息は切れるが変な緊張感が無くなっていく。普段なら千星は攻撃された瞬間、萎縮し、身構え、目も閉じてしまうと散々な反応をしていたが〝受〟と綴ってからはそんな事はなくスムーズに体が動いた。いや、動かされた。
アクラシアの襲い来る鉄の鞭から千星は自分の体がオートで動く。バク転して距離を取り、普段千星が見ている仲間のような動きを自分がしていることはまだ腑に落ちなかったがこれならアクラシアと互角に戦える。
千星は自由な右手で文字を綴った。左手はオートでで動き、万年筆のインクを使用せずとも自然エネルギーを自在に操れてまるで魔法使いにでもなったようだった。それに加えて右手でアクラシアの隙をつき文字を綴る。幸いゲームで慣れている為〝見る〟〝合わせる〟という行為は彼の得意とするところだ。
アクラシアの攻撃を交わし、火の玉をいくつも作り打ち込むが残念ながら一筋縄で行く敵ではなく未だ傷一つ付けられない状態であった。
「……ヌルいな」
「く……、人間じゃねーのはわかってっけど……強過ぎる」
(ボス攻略みてぇーで愉しいじゃん……!)
「あ、ちょ……!?」
「さっちからオマエは何なンだ。センボシ ナユタ……まるで2人イルような動きだな」
「俺も訳はわかんねぇ……けど、……ッ!」
「───────ッ!!!」
左右の手が初めて同じ文字を綴った。
千星の両手が同時に〝炎〟の文字を綴る。すると今までに類を見ないほどの大きな業火が玉の形を成し、流石のアクラシアも見たことが無い炎の塊に解析が追いつかず動きが鈍る。
「だあぁあああああああっ!!火之矢斬破」
「……………」
ゴゥぅッと激しく酸素巻き込みながら炎の塊はアクラシアを飲み込んだ。もしかしたらダメージを与えられたかも!と、千星は喜びに目を見開き、左半身も一瞬弛緩するが、炎の中の人影がゆっくりと濃くなっていく。
そして、カツンカツンと言う地面を踏みしめる音ともにアクラシアが炎の中から姿を表した。
「……ッ、なんでだよ……なんで燃えない…ッ」
「簡単なコトだ……、ワタシを燃やすには温度ガ低すぎる」
(あー……ダリィ。二人合わせても火力足りないとかやべーな)
「……ッ、会長との特訓で火の威力はかなり上がってる筈のなのに……ッ」
千星の中に焦りが生まれる。反対にプログラムに忠実に動くアクラシアは表情を変えることなく、煤で汚れてしまった服を払ってから地面を蹴った。
千星が後ろに下がると同時に左手が自動的に文字を綴り、水の細長い魚が空中を優雅に動きながらアクラシアを拘束する。しかし──────。
過去編
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