大食い系ユーチューバー丈くんと顔も声も出さないカメラマンニキ。
でも結構丈くんの喋りでアニキの個人情報が語られていくスタイル。

大食いチャレンジメニューを食べる丈くんの向かいで普通サイズを食べているらしい少食なアニキなる人物(カメラには映らない)。
「はいっこれで唐揚げ完食したので次はエビフライの山を崩していきます。既にちょっとげんなりしてきていますねアニキが」
「あとはこのめちゃうまスープを飲み干していきます。アニキのは麺が伸びて増えているように見えますが大丈夫でしょうか」
などと丈くんの実況によりアニキの状況が語られる。

動画がいくつか上がる内にどうやらアニキは少食だという認識になり、丈くんよりもアニキを応援するコメントが増えてくる。丈くんは応援しなくてもいつも食べるので。

忠と暦が墓参りする話そんなに堅苦しくなくていい、そう暦に言った本人は、真夏の太陽が照りつける中でも相変わらずのスーツ姿だった。いつもと違うところといえば、それが礼服であることと、そのネクタイが真っ黒なことだろうか。
暦が父から借りたスーツは、肩幅は少し大きく、丈は少し短かった。墓前で膝をついて手を合わせる忠の背中はいまにもとけていなくなってしまいそうで、まだ目の前にいる、ということを照り返すような日差しの中で再確認する。忠の父親が眠る墓。暦にとっては全くの他人だが、そう言い切ってしまうのも何かが違うような気がした。見よう見まねで墓前に手を合わせると、なんとなく世界に暦と忠だけになってしまったような錯覚に陥った。
「……すまない、付き合わせてしまって」