あけましておめでとう「あけましておめでとう！」
「おめでとう！今年もよろしくね」
「よろしく！」
　コツン、とグラスを触れ合わせ、新年の挨拶をして乾杯をする。アイクのグラスには赤ワインをグラスの半分ほど、僕のグラスには一口分だけ。お酒がそんなに強くなく、この後の仕事に支障がきたしてしまうから嗜む程度にした。

　僕たちは今、日本で年を越している。お互いの地域で年末年始を過ごすかで悩んでいたが、まだ付き合って日も浅いため二人での思い出を作ろうと旅行も兼ねて日本で過ごすことにした。ついでに日本でオフコラボなんてしたらファンのみんなが喜ぶんではないかと、配信はしないけどこの後動画を二人で撮る予定で、日本の正月を楽しもうと一式用意した次第で。年越しそばとワインという合わない組み合わせになったけれど、面白くていいんじゃないかと試してみた。二人して並んでこたつに入りながら、僕はちびちびと元から少ないワインを酔わないようゆっくりと飲む。僕と違って酒に強いアイクは、もうグラスに入っていたワインを飲み干して新たにワインを注いでいた。
「そういえばさ。スウェーデンではどんな風に年始を過ごすの？」
「んー、浴びるほどお酒を飲むかな。寒いからね、お酒で身体を温めるんだよ」
「そうなんだ。アイク、お酒強いからたくさん飲めるね」
「まぁ、そうだね。酔うほど飲もうと思うと先にお腹が限界になりそうだけど。アメリカは？どんな感じなの？」
「うーん。タイムズスクエアのカウントダウンが一大イベントだからね。それ以外は特に何にもなくゆっくりするだけかな？」
「国によって全然違うよね」

　年越しそばを食べ終わり、シンクへとお皿を片付けに行った。年が変わったこの雰囲気を味わいたくて、洗い物は朝起きてからやろうねと約束をして再びこたつへと戻った。
　スウェーデンに住んでいるアイクとアメリカに住んでいる僕。その二人が今、日本で年を越しているという事実が不思議だなと思いつつ、こうやって新年をアイクと過ごせてることが嬉しくて堪らなかった。明日食べようと予約して買ったおせちと日本酒が目に入る。偏食なアイクも、もしかしたら日本の料理なら食べれるかもしれないね！と話したのは記憶に新しい。僕と同じものを食べたいからとアイクが予約してくれたのを思い出して口元が緩んでしまった。ちらりとアイクの方へと目線を向ければ、アイクは僕のグラスに少しだけワインを注ぎ、自分のグラスにも注いでいた。注がれたワインを手に取り、アイクは本当にお酒に強いなと感心しながら見ていると、視線に気付いたアイクと目が合う。一度ワインを置くとアイクはそういえば、と話し始める。
「日本文化に詳しいシュウは勿論知っているだろうけど、姫初めっていう文化があるよね」
「...あるね」
　くすりと目を細めて笑うアイクに僕は嫌な予感がする。僕が持っていたワインをアイクは奪い取りこたつの上に置けば、僕の顎に手を添えて唇が触れ合った。ちゅっちゅと触れ合わせるだけの口付けを繰り返し、僕の手を握りしめて親指ですりすりと手の甲を撫でる。
「アイク、酔ってるよね？」
「僕はこれぐらいで酔わないのはシュウが一番よく知っているよね？」
「...」
　わかっている、たった2杯如きでアイクが酔わないことぐらいは。今までそういう雰囲気ではなかったのに急にスイッチが入るため、アイクは今酔っている事にしてもらわないと、僕の心臓がもたないのだ。
「シュウ知ってる？姫初めって1月２日らしい」
「え、そうなんだ？てっきり今日だと...」
「びっくりだよね！だから、明日までたくさん可愛がってあげるね？」
　腰に手を回して頬に口付けされる。頭を撫でられ、可愛いと耳元で囁けば再び唇を重ねてくる。ちゅぅ、と音を立てて唇が離れていき、僕の頭をアイクの肩に乗せるように引き寄せられた。
「楽しみだね、明日」
　今日一日ずっとこの調子なのだろう。触れ合えるのは嬉しいのだが、時折アイクが耳元で囁いたり腰を撫でられたりするのは、正直色々と持たないのでやめてほしい。

　僕の嫌な予感は的中して欲しくなかった。