🅿︎🍑 雨の日
カーテンを開けても部屋の中は暗い
「雨、ですね…」
「雨だね…」
折角の休みだけど、さすが梅雨の季節
雨の中外を歩くの人は殆どいない
「………行っちゃいます?」
「!やっちゃう?!」
浴槽にお湯をためて、レンジにはミルクの入ったカップを入れる
汚れてもいい服に着替えて、玄関にタオルを置いて、レインコートを羽織る
傘は持たずにいざ外へ
レインコートを叩く音以外殆ど聞こえない
でも隣を覗き込むように見ればぴぃちゃんが笑ってくれる
サンダルだからわざと飛沫を上げて水たまりに入ったり、公園の鉄棒に滴る水滴をなぞるように落としたり、砂場でザリザリと団子になりきらない塊を作ったり、雨音が遮ってくれる気がして声を上げて笑った
ぴぃちゃんがそろそろ帰りましょう。と伝えているのが分かった
ぴぃちゃんの姿や声が恋しくなっていたから、分かるように大きく頷く
マンションの前に来て、ふと上を見上げると雨粒が目に入りそうな恐怖と、どうやって降ってくるのかの好奇心
灰色の重い雲を隠すように大きな手が視界を塞ぐ
隣を見ればぴぃちゃんが困ったような顔をしている
えへへ。と悪戯に笑えば、ぴぃちゃんも上を見上げた
少しして前髪が濡れ、頬を雨が伝う顔に僕は慌ててぴぃちゃんの顔から水滴を払う
ふふっ。とぴぃちゃんが笑ってる
マンションに入りフードを取ればぴぃちゃんも僕から雨を払う
なるべく人に見られないように急ぎ足で部屋へ戻り、用意してあったタオルで顔や足を拭いている間にぴぃちゃんがお風呂でお湯が出る準備をしてくれた
仕事が早い!流石だ!って思ってる間にささっと脱がされ浴室に入れられる
ぴぃちゃんもすぐに入って来てくれて、後ろから抱きしめられるように湯船に浸かった
「寒くないですか?」
「うん、平気だよ…あったかいね」
「はい、あったかいです」
ぴぃちゃんが僕の肩に顎を乗せ、きゅっと抱きしめる
僕もちょっと力を抜いてぴぃちゃんに体を預けた
はふぅ。と体の芯まで温まった所でリビングに行くと、焼いた小さめのパンとホットミルクがすぐに用意された
「ぴぃちゃん、ありがとう」
「どういたしまして。お散歩楽しかったですね」
「うん、凄く楽しかった!」
体の中も温めてながら、感じたことを共有していく
初めての体験にまだワクワクが残っていて、つい身振り手振りや声も大きくなる
「水たまりを選んで歩いたの初めてだった!」
「私もです!小さい子が大きいのに飛び込む理由がちょっと分かりました」
「泥団子も作ってみたいね!」
「晴れた日にツルツルのを作りましょう!」
「そんなのあるの!?楽しみだなぁ……あ…でもね」
「ん?」
「ぴぃちゃんの声が聞けたらもっと良かったな…なんて」
マグカップを両手で包み、カップの縁をカリカリ噛む
「…ふふ、次はイヤホン付けてチャレンジしましょうか」
「わぁ!通話しながらってこと?!」
何それ楽しそうー!次はいつ出来るかな楽しみ!と顔が言ってたみたいで、ぴぃちゃんがクスクス笑いながら肩を抱く
「私も…百々人くんの顔がすぐに見れなくて淋しかったです」
頭を寄り添わせほっぺにキスを落としてくれたぴぃちゃんの方を向くと目がとろんとしている
ほっぺを撫でると甘えるように頬擦りしてて可愛い
「…ぴぃちゃん眠い?」
「……はい、ちょっとだけ」
「ふふ、寝て良いよ?」
「百々人くんも、寝ませんか?」
そう言うとぴぃちゃんはゴロンとソファに寝転がり、おいでと胸をトントンと叩く
そんな魅力的なお誘いされたら行っちゃうよね
重なるようにうつ伏せで体を乗せればぴぃちゃんは嬉しそうに微笑み、髪を撫でる
ゆっくりと瞼が閉じて、手がスルリと落ちていった
スゥスゥと穏やかに聞こえる寝息と上下に揺れる心地よい温かさに、僕もすぐに目を閉じた