『家族になろう』
何時の間にそんなに懐かれたのか、何故こんなに私に想いを寄せてくれるのか。色々と、未だに疑問点はある。
けれど愛を叫んで体当たりを繰り返し続けた子羊に、そこまで想ってくれるというのならと私はその想いを受け取った。…感極まった彼に強く抱きしめられ、背骨をへし折られかけたけれども。
「本当に物好きな子羊だと、思いましたよ。…君には、本当に沢山の選択肢がはあるだろうにって。」
離れている時間が酷く寂しいと言ってくれた子羊に、それならと一緒に暮らすようになった。
一緒に過ごすうちに、君が傍にいる事が普通となった。がらんとしていた家が、いつの間にか帰ろうと思える場所になっていた。君が来てから、色んな物が増えましたのに気がついてますか?掃除が大変になってしまいました…って、ふふ、冗談です。
「別に、私はこのままでも充分幸せなのですよ?充分に満たされています、それでも君はこの先を望みますか?」
「はい、僕は全然足りないです。」
「ふふ、強欲な子羊くんだこと。」
何処かで、逃げ道として残してあげたかったのかもしれない。今のままであれば、ただ一緒に過ごしていただけと言えるから。都合が良かったから居ただけと、言い訳が出来るから。
…いや、違う。これは彼の為じゃない、私の為だ。もし終わりが来ても、幸せだったねで終われるように。しょうがないですねって、私が彼を解放してあげられるように。
残された優しい思い出は、綺麗なまま。それさえあれば、きっと私は一人でも生きていける。
「僕は、貴方と家族になりたいのです。」
「私と家族になったとしても、君にとって良い事なんてないかもしれませんよ?」
「そうだったとしても、ですよ。僕は貴方と家族になりたい、他の誰でもない貴方と。貴方と、幸せな家庭を築きたい。」
自分の事しか考えていない私と、家族になりたいという彼。家族という存在にあまり良い思い出はないと言っていたというのに、それでもと。
君の為と言いながらも結局私は自分を守る事しか考えていないような人間なのだと、隠していた物を見せても、彼は揺るがなかった。僕だってそうですよと笑って、私の手を握ったまま離そうとしない。
「君は本当に敵いませんねぇ、私の負けです。からかいがいがあった、純粋で可愛い私の子羊くんは何処へ行ったのやら。」
「成長したって、言ってくださいよ。…僕は貴方を逃したくなかった、それだけです。」
左手の薬指には、お揃いの指輪。誰もいない教会で二人きり、永遠の愛を誓う。この様な形の方が私達らしいと言い出したのは、果たしてどちらだったか。
きっと祝ってくれる人達がいる事は、私達だって分かっている。これ見よがしに盛大にやってくれそうな事も、だって私達には呼んでもいないのに寄ってくる害悪が多すぎるから。虫除け、と称して。
何も告げずにやってしまった事への謝罪を込めて、彼等には何かしらのお詫びの品でも贈ることにしよう。きっと、間違いなく怒られるかもしれないけども。
「僕と家族になってください、テメノスさん。」
「今までと何が変わるのかは不明ですが、喜んで。…私と家族になりましょう、子羊くん。」
おめでとう、どうか幸せに。
誰もいない筈の教会で、二人して何処か懐かしい声を聞いた気がした。
【終】