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    marintotiko

    @marintotiko
    大逆転裁判2らくがき投下用。兄上右固定でいろいろ。リアクションありがとうございます!!👼🌟
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    marintotiko

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    兄様が子ども化する話の子ども化する前の序章。つづきは思い付いたら書きたい。

    *



    「ふう……」

     アルバートがロンドンの屋敷に戻った時には、夜中の二時を回っていた。思わず、らしくないため息がこぼれる。弟たちがこの場にいれば心配させてしまったかもしれないが、幸い彼らは週末まではダラムに滞在している。

     ここ最近はMI6や社交界がらみのことで連日忙しく、ほとんど睡眠もとれていない。疲労の蓄積を強く感じる。まだしばらくこの忙しさは続くだろうから、油断すれば文字通り倒れてしまいそうだ。ウィリアムの知恵を借りれば、もう少し負担は減るのかもしれないが。

    ーーーいや、このようなことでウィルに頼るなど。

     だいぶ弱気になっていると、アルバートは自嘲した。神のごとき知能をもつ弟に頼るのは、あくまで《計画》やそれに準じる事のみと決めている。たとえどんなに時間がかかろうと、人間ができることは神にすがることなく人の手で解決するべきなのだ。そもそも、自分の頭脳などウィリアムの半分程度の働きしかできない。それならば、彼の半分程度の睡眠時間で十分であるはずだ。

     ベッドの中に入ってもなお現状の打開策を考え続けるアルバートの心身は、その日も完全に休まることはなかった。





     翌朝早く、アルバートはある場所に向かった。ロンドンの地下に隠された武器庫である。

    「直々にお越しくださるなど、珍しいですね」

     出迎えたヘルダーが指摘するように、潔癖なアルバートはこの場所があまり好きでなかった。責任者としてこの武器庫にいることが多い彼とコンタクトをとる際には、マネーペニーを始め誰かしらの工作員を介すことがほとんどだ。まして、今のように二人きりになれるように人払いをするなど。

    「この間の作戦で、人間の神経に作用する類いの新薬がいくつか回収されていたのを思い出したのだが…」

    「ああ、それでしたら分析もほぼ終わっています」

    「君なら、それを応用した薬を作ることが出来るのではないかと思ってね。こうして訪ねてきたのだよ」

     ヘルダーは一瞬虚をつかれたような雰囲気となるが、すぐに口許に笑みを浮かべた。

    「…それで、どのような効果をお望みで順当なところで、睡眠薬ですか自白剤なども便利ですよねえ。催淫剤でしたら驚きですが、もちろん他の者には内密にしますよ」

     ヘルダーがへらへらとあげていく例を、微笑みを浮かべながらことごとく否定する。

    「疲労を、感じなくなる薬を」 

    「おや短時間で疲労を回復する…、のではなく」

    「そのような都合の良い薬が出来るはずがないことは私にも分かる。実際に回復する必要は必ずしもない。一時的に疲労の感覚を麻痺、遮断出来ればいい。…君なら、できるだろう」

    「…………」

     ヘルダーはしばらく口を閉ざした。目元を隠しているから、こうなると彼の考えは外からは一切読めない。倫理的に考えれば、誉められるような作用の薬ではないのはたしかだ。他の仲間の耳に入れば、心配して止められるかもしれない。けれども、彼はきっとそういう優しさよりも科学的な興味を優先するーーーそういう男だと、アルバートは評価していた。

    「少しばかり、予算の都合をつけてくださるのならば」

     ヘルダーは、ちゃっかり対価を要求してきた。とは言え、彼もまたウィリアムの志に共感した仲間であり、私利私欲のため散財する人間ではない。計画に使える何らかの兵器の開発に当てるのだろう。それならば、最終的にはウィリアムの役に立つはずだ。

    「あとで用意させよう。くれぐれもこのことは内密に。…頼んだぞ、Q」

     




     ヘルダーからのコンタクトは、その日の夜のことだった。まさかこれほど早く出来上がるとは思わず内心驚いたが、これならばウィリアムたちの帰省の日にも間に合う。

    「連絡をくれれば、こちらから出向いたのに」

    「一刻も早くお渡しするにはこの方が都合が良かったので」

     そうは言っても、盲目の彼が他の仲間に気取られずに一人で屋敷まで移動してくるのは骨が折れたはずだ。少しばかりチップを上乗せしても罰は当たらないかもしれない。

    「それで、薬は」

    「こちらです」

     ケースの中から慎重に取り出されたガラス瓶を受けとる。その液体は見たこともないような、不思議な色をしていた。

    「これで一回量なのか」

    「そうです。効果はともかく味の保証はしませんが」

    「構わない」

     後でワインで口直しすれば良いことだ。そう思い、アルバートは一瞬息を止めて一気に杯を傾ける。

    「…………」

     薬が胃の中にすべて収まった直後から、なにか違和感を覚えた。視界がぐるぐると回る。酒に酔ったことなどないが、酔いとはこのようなものなのか。場違いな考えが頭をかすめる。

    「ヘルダー、これは……」

     かろうじてそれだけ言うと、アルバートの意識は遠退き、その場に崩れ落ちた。

    「おやすみなさいーーーM」
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    marintotiko

    MAIKING兄様が子ども化する話の子ども化する前の序章。つづきは思い付いたら書きたい。*



    「ふう……」

     アルバートがロンドンの屋敷に戻った時には、夜中の二時を回っていた。思わず、らしくないため息がこぼれる。弟たちがこの場にいれば心配させてしまったかもしれないが、幸い彼らは週末まではダラムに滞在している。

     ここ最近はMI6や社交界がらみのことで連日忙しく、ほとんど睡眠もとれていない。疲労の蓄積を強く感じる。まだしばらくこの忙しさは続くだろうから、油断すれば文字通り倒れてしまいそうだ。ウィリアムの知恵を借りれば、もう少し負担は減るのかもしれないが。

    ーーーいや、このようなことでウィルに頼るなど。

     だいぶ弱気になっていると、アルバートは自嘲した。神のごとき知能をもつ弟に頼るのは、あくまで《計画》やそれに準じる事のみと決めている。たとえどんなに時間がかかろうと、人間ができることは神にすがることなく人の手で解決するべきなのだ。そもそも、自分の頭脳などウィリアムの半分程度の働きしかできない。それならば、彼の半分程度の睡眠時間で十分であるはずだ。

     ベッドの中に入ってもなお現状の打開策を考え続けるアルバートの心身は、その日も完全に休まることはなかった。




    2019

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