分岐旬、父さんは救助に行ってくるから、ここは任せてもいいか?
すぐ戻るから、終わったらまた遊んで飯食って帰ろう
だから弟と此処で待っててくれ
頼んだぞ、お兄ちゃん…
ワシワシと頭を撫で回され唖然としている間に父さんはゲートに消えていった
ボサボサ髪のままこちらを見つめてくる弟の手を取り騒然としている場から避難する
「父さん強いし、すぐ戻ってくるよ」
「…ん」
花壇の縁に腰掛ける弟に避難途中で買ったお茶を渡すと素直に受け取り、2人並んで遠くからゲートを眺める
「やっぱり父さん、かっこいいな」
「…そうだな」
次々にゲートから人を運び出しまたゲートに入っていく父さんの後ろ姿が見える
やっぱり父さんは、すごい
「遅いな…」
次第にゲートから出てくる間隔が長くなり、比例するように不安が募っていく
救助された人達は既に応急処置も施され中には安堵から笑い合う姿もみえ、まだ戻ってきてないのになんで笑うんだ…と理不尽な考えがよぎる
どうして助けてくれた父さんの心配は誰もしないの…?
不安から携帯の時間を確認する
最後に父さんが入ってから既に1時間が経過していた
誰かに言わなくてはいけないのでは?でも誰に…?
必死に考えを纏めようとするが、グルグルとループしてしまい、結果が出せずにいた
そんな時、急に立ち上がり歩き出した弟の後ろ姿に驚く、急いで駆け寄り肩を掴む、向かっていた先は青白く発光するゲートがあり、嫌な予感に心臓がバクバクと暴れる
「っ…どこ行く気だったんだよ」
「父さんの所に…」
「…父さんはすぐ戻るって言ってたし、ここで待とう」
でも、と言い募る弟の肩に力を込めれば、わかったと踵を返し大人しく元いた場所に戻ってくれた
これ以上不安を抱え込みたくなくて、父さんだから大丈夫と確信のない自信に縋ってしまった
きっとここが分岐点だったんだと今ならわかる、俺とお前の
突如現れたゲートはちゃんと消滅した…父さんと一緒に
先程の喧騒は夢だったのではと思うほど、遊興で笑い叫ぶ周囲に取り残される
辺りが薄暗くなり、暗くなってもその場から動けなかった、だって、まだ父さんが戻ってこないから
「にいさん…」
「………」
「…母さんも…葵も心配してると思う、だから」
かえろう、にいさん
感情の起伏が貧しい弟の歪んだ顔と嗚咽まじりの言葉に、とんでもない過ちをしてしまったのだと腕を引かれながら後悔した
あの時一緒に父さんを追いかけていれば何かが変わっていたのかもしれない
3人で出かけて、2人で帰宅したあの日
話を聞いて、ヘタリ込んだ母さんの顔がこびりついて頭から離れなくなった
直ぐに立ち上がり俺達が無事で良かったと抱きしめてくれた時情けなく大声で泣いた
子供3人と母親1人
どう考えても母さんにのしかかる仕事量かキャパオーバーなのは子どもの俺達でもわかった
少しでも負担を減らすべく弟と一緒に家事の手伝いから始めた
本当はお金を稼げるのが1番良かったのだが、年齢が足りなかったのと母さんからの要望で折れるしか無かった
四苦八苦しながら何とか家族4人での生活に慣れてきた
母さんも笑ってるから、きっと大丈夫、そう思ってた
ふと、夜中に目が覚めた
起きたついでに水を飲もうと起き上がり、リビングに向かうと人の気配がして、こんな夜中に誰だと緊張が走る
うっすら開いてる扉から中を覗けば母さんが何かを持って座っていた
そこには明るく笑ってる姿は無く、手元の何かを何度もなぞり泣いて震えている姿に時が止まった
「…母さん泣かないで」
「ごめ、ごめんね…明日にはちゃんと笑うから…」
「大丈夫」
母さんの隣にいる弟の姿に息が止まる
2人のやり取りから何回も夜中に泣いていたのだろう
お前は、母さんの事分かってたんだな…俺はそんな事を知らないで、勝手に大丈夫だと思ってたよ
流石にこの先に進める勇気も無くて静かに部屋に戻り頭から布団を被る
己の無力さに反吐が出そうだった
その数カ月後、母さんは倒れて兄妹3人になってしまった