後藤会長にやんわり注意された「あ」
ガパリと冷蔵庫を開けて声が出てしまう。
やってしまった
まずい…旬はチラリとコンロに視線をむける
そこには完成間近の鍋が蓋をカタカタと浮かせていた
珍しく葵から夕飯のリクエストされた為に作っていたのに主役を忘れていた…
どうするか…
もし、影の交換使ってもリキャストに1時間かかるからどのみち意味がない
だが今火にかかっている鍋は待ってくれない、一度火を止めて温め直してもいいが、出来れば出来立てを食べたいし、食べさせてやりたい…
悩みに悩んだ末に旬はイグリットを呼んだ
音もなく狭いキッチンの床に膝をつき、頭を垂れているイグリットに旬は無茶振りをした
「おまえ、小さくなれるか?」
頭を垂れ命令を今か今かと待ちわびていたイグリットは意味が理解できず旬の顔を凝視し、首を傾げてしまった
「あー…無理ならいい…まあ、大丈夫だろ」
じゃぁこれ、よろしく
使い古され少しヨレヨレの袋と、透明で薄い長方形の柔らかい板を渡させる
板の中には数枚のコインと折られた紙が入っていた
「これ見せれば大丈夫だろ…たぶん」
「大丈夫、お前ならイケる…だから行ってきてくれ」
主君の命令とならば完遂しなければ
錆びた人形の様なぎこちない動きで立ち上がりイグリットは影に消えていった